表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

ショートショート7月~

会いたい気持ち

作者: たかさば

誰かに会いたいと思うなんていつぶりだろうか。


私は、今、混乱している。

大混乱だ。


…私は基本、孤独を愛する人で。

言ってしまうとですね、まあ、ぼっちなんですよ。

友達付き合いが面倒で、一人で行動するタイプでね。


だというのに、このどうしようもない、焦燥感?

無性に、幼馴染に会いたいと思うこの欲求は何なんだ。


食後のプリンを一人ぱくつきながら、私は一人、故郷に思いを馳せている。

…珍しいことも、あったもんだ。



―――事の発端はというと。


「ねえねえ!ちょっとこっち来て!!この人知ってる?!」


夕食の支度で忙しい、私を呼ぶ声がした。

くそう、枝豆はゆであがりのタイミングが重要なのに今呼ぶのか!!

慌てて旦那のところに行くと、テレビには旦那が毎週撮っている、祭りをテーマにした番組が映っていた。

そこには。


「ギャー!!知ってる!!思いっきり知ってる!!!」


小学校時代の同級生が映っていたのである。特別仲が良かったわけではない、だが、同じクラスになったことは何度もあるし、小学、中学と同じ学校に通った幼馴染。…よく見ると、何人か知ったような顔をしてるやつがいる!!一気に思い出される、小学生時代の思い出。


名前を紹介されたおじさんたち。

名前を見て、一瞬で少年時代の顔が浮かぶ。

どう見てもおじさんだ。

どう見ても子供には見えない。

けれど、子供のころのイメージしか、私の中にわいてこない。


テレビは、遠く離れた私の故郷を映し出していた。


昔通った駄菓子屋は大きなビルになっていた。

昔通った水路は、コンクリート張りになっていた。

昔通った雑木林がわざとらしい古民家になっていた。


昔の名残を感じるのは、私があの場所を知っているからに違いない。

明らかに違う風景が映っているのに、確かにあの場所は。


昔仲の良かった友達と通った場所。

昔、皆で通った道。


お菓子の取り合いしたり、道路にチョークで線路を書いたり。

ケンカもしたし、仲直りもした。

宿題もして、自由研究もして、虫も取って、笑って、泣いて。


あの場所に確かに存在している、私の思い出。


あの場所で私は、たくさんの仲良しと、ともに時間を過ごし、成長した。

いつしか共に遊ぶことはなくなり、大人になって。


遠く離れて、今の今まで、まるっと忘れていた、記憶。


それが、こんなにも色鮮やかに思い出されるのか。

それは、こんなにも私を思い出に浸らせるのか。


今まで故郷を離れてから、一度も同窓会に参加したことがない。

参加するチャンスが、なくなってしまったのだった。

私の故郷に、私の片鱗は微塵もない。


だからこそ、こんなにも。

たまたまテレビに映った同級生を見て、望郷の思いが湧いて出たのかもしれない。

懐かしい幼馴染に、会いたいと思ってしまった。


今日の今日まで、名前すら忘れていたというのに。

たった3人、同級生の姿を見ただけなのに。

中学生までの思い出が、一気に自分の中によみがえる。


あの子は今何をしているだろうか。

あの子は今しあわせだろうか。

あの子は今も笑っているだろうか。

あの子は。

あの子は。

あの子は…。


会いたい気持ちが、次から次へとあふれ出す。

これは、年を取ったという事なのか。


しかし、私には、連絡する手段は何一つ、ないのだった。

故郷は遠く、私の手元には卒業アルバムすら残っていない。


…夕焼けが街を彩る画面で、番組が終わった。

オレンジ色に染まる、今の風景。


けれど私の胸には、子供のころに見た夕焼けの風景が思い出されていた。

夕焼けに染まる、海辺の町。


なんだか、無性に夕焼けが見たくなった。

ちょうど、夕焼け空が見える時間か。


「ちょっと、散歩に行ってくる。」


…オレンジ色が、見たくなったから。

なんだか無性に、夕焼けが見たくなった。


変わってしまった風景に。

昔の風景が重なったのは。


あの時見たのと同じ、夕焼けが、新しい風景を染めたからに違いない。


夕焼けは年月を重ねても、変わることはない。

変わらない夕焼けがあるから、思い出は色あせることなく、思い出せるのだと。


いつも見に行く、夕焼けポイントは、幹線道路にかかる、大きな歩道橋。

今日も、いつもと変わらない、奇麗な夕焼けが見える。


けれど、今日は。


格別に思い出補正がかかっているから。

あの日見た、海辺の風景。

変わった風景に、変わらなかった夕焼けの色。


遠く離れた、故郷の夕焼けと同じ色が、ここにある。


思い出が、私の中でグンと大きく、ひろがってゆく。



目の前に広がる、いつもの夕焼けが。


…あんまり綺麗で、目頭が熱くなった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] みんな元気かなぁ、って思いますよ。 まぁ、でも、会いにいったりはしないんですよね。
[良い点] なんてこった。急に高校時代の友人を思い出してしまったじゃないですかー! [一言] 現代っ子はスマホに、Lineやメールのアドレスが数件残ってるんですよ。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ