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99.毛玉がこちらへやってくる


「すまなかった」


 青年が勢いよく頭を下げる。

 うなじでくくられた黒髪が、遅れて尻尾のように一つ飛び跳ねる。


「これほどの魔術の腕の持ち主を疑うなど、許されざる無礼だ」


 自身の非を認め、後悔しているようだ。

 声に苦渋が滲んでいる。


「勘違いは誰にでもありますか――――えっ!?」


 ずいと差し出された青年の手に、思わず身を引いてしまう。


「おまえ、何するんだ⁉」


 かばうように前に出たキースの背中越しに、青年の掌の上の物体を見る。

 鶏の卵ほどの大きさの、半透明の青い石だ。


「魔石……?」

「お詫びの品だ。受け取ってくれ」


 ……率直に言って、とても困る。

 

 謝罪の気持ちはともかく、差し出されたモノがモノだった。

 濁りのある半透明とはいえ、これほどの大きさの魔石となれば、かなりの値打ちものになってくる。

 平民の一家が、軽く一年は暮らせる金額のはずだ。

 

 そんな魔石を、ここで受け取ってしまうと。

 魔術局との関係が、初手から躓いてしまう気がする。

 あまりにも価値が大きすぎる、謝罪の品物も考え物だった。


「魔石をさげてください。謝罪の言葉だけで充分ですわ」

「……やはり、これだけでは不足だろうか?」


 青年は眉を寄せつつ、袖口を探り始めた。


「この水の魔石と、それにサラマンダーの鱗、いやそれよりも、マンドレイクの根の方がいいだろうか…?」

「あの、ご心配なく。どれも必要ありませんわ」


 制止するも、青年は呟きながら、謝罪の品を物色している。

 一度考え出すと、他人の声が聞こえなくなるタイプのようだ。


「なんですかこいつ、一人でぶつぶつと……」


 キースが呆れていた。

 幸いと言うべきか、青年への殺気はおさまったようだ。

 

「このままだと話が進みませんし、軽く槍の石突でこづいてみま――――っ!!」


 再びキースが身構えた。

 機敏に振り返った、その視線の先には、


「――レティーシア様⁉」


 亜麻色の髪の青年が、こちらへと走り寄ってくる。


「ごきげんよう。魔術局の魔術師の方ですか?」

「はい、そうです。そのようなところでどうされたのですか?」

「早めに到着したので、魔術の実験場を軽く見学していたところ、この方と少し会話することになったのですが……」


 いまだぶつぶつと呟いている青年を視線で示すと、魔術師の顔が引きつった。


「リディウス‼ おまえまた何かやらかしたのか⁉」


 黒髪の青年、あらためリディウス。

 どうやら問題児のようだった。



  ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



「――――名乗りもせず失礼いたしました。私、魔術局に勤めているオルトと申します」


 柔和な顔立ちをした魔術師は、オルトと名乗り恐縮しきった笑顔を浮かべている。

 私とリディウスの間にあった事柄を説明したからだ。


 オルトたち魔術局の魔術師たちは、建物の中で私を迎える準備を整えていたらしい。

 が、そんなところへ、いきなり外で魔術の炎が上がったので、代表してオルトが様子をうかがいに来たようだ。


「そうだったのですね……。ならばなぜ、リディウスは外にいたのですか?」

「魔術のためだ」

「魔術の?」


 リディウスの端的すぎる言葉に聞き返すと、代わりにオルトが口を開く。


「すみません、レティーシア様。リディウスは魔術以外は全くダメな口下手で……。私が代わりに説明しても?」

「……お願いします」 

「リディウスはここのところ、新たな魔術式の構築に没頭していました。出来上がった魔術式を試すため、実験場にきたんだと思います」

「その通りだ。三日三晩かかった魔術式が、ようやく形になったからな」


 頷くリディウスに、オルトがため息をついた。


「三日三晩……おまえがそう言うとことはつまり丸三日、寝ていないということだな?」

「その程度、魔術の研究には問題ない」

「魔術以外には問題大ありだろう!?」


 オルトがこめかみをひきつらせた。


「リディウス、おまえ今朝の長官の話、レティーシア様がいらっしゃるという通達も、朦朧として聞いていなかったんじゃないだろうな?」

「…………」


 リディウスが気まずそうに、オルトから顔を背けた。

 一応彼なりに、悪いとは思っているようだ。 

 

「リディウスがご迷惑をおかけし、本当に申し訳ありませんでした……」


 頭を下げるオルトに同情を覚えつつ、魔術局の中へ向かうことにする。

 謝罪を受けるにせよなんにせよ、まずは魔術局の長、ボドレー長官に会う必要がある。


「ようこそいらっしゃいましたレティーシア様!」


 魔術局へと入ると、丸いお腹を弾ませたボドレー長官が歩み寄ってくる。


「先ほどの火炎魔術はレティーシア様が? 素晴らしいですどのような術式を使われたのですか?」


 目を輝かせ称賛しつつ、詰め寄ってくるボドレー長官。

 私の魔術に興奮するその様子は、なるほどリディウスの上司といったところだ。

 以前、シフォンケーキの型の『整錬』を披露した時も、ずいぶんとテンションが上がっていたのを思い出す。


「長官、落ち着いてください。先ほどうちのリディウスがレティーシア様に――――」


 オルトがボドレー長官へと、手早く事情を説明していく。

 ……魔術大好きな上司と同僚に囲まれた常識人のオルトは、なかなかに苦労していそうだ。

 頑張れオルト。胃痛にならないといいね……。


 一通りオルトから話を聞き終えたボドレー長官が、こちらへ提案をしてくる。


「レティーシア様にはお詫びも兼ねて一つ、ご覧いただきたいものがあります」


 何だろうか?

 ボドレー長官が、壁に下げられている鈴を鳴らした。

 澄んだ音が響き、やってきたのは――――


「毛玉……?」


 いや、違う。

 鳥だ。ヒヨコの群れだ。

 私の背丈よりも大きなヒヨコ……のような生き物たちだった。



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[良い点] 一気に読みました。これからの2人がとても気になります。 [気になる点] 更新がされていないとありましたが、体調でも崩されましたか? [一言] 更新されることを待っています。
[良い点] 面白かったです(`・ω・´)ノ [一言] 妃同士の確執から解決までの手腕が好きです。
[一言] 新たなもふもふの予感!!«٩(*´ ꒳ `*)۶»ワクワク
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