プロローグ
よろしくい願いします
世界的に有名な誰かが、こう言った。
『遺伝子、つまりDNAとは生命の設計図である』
幼少の頃読んだ本に書いてあった名言を見てから、俺は遺伝子という物に興味を持つようになった。
学校に通うようになってからは、時間が許す限り図書館で遺伝子に関する本を読みあさった。遺伝子の知識、可能性、論文などなど遺伝子に関することならなんでも頭に取り込んでいった。特に、遺伝子を自在に組み替えることができれば、理想的な生命が作れる。と論じた論文には強く興味が引かれた。
そして今現在、俺は偏差値そこそこの理系の国立大学に通う大学4回生になっていた。
この大学の研究室で、日々遺伝子についての研究をしている。研究を始めてはやくも4年。机に積み上がった膨大な資料やホワイトボードに書き込まれたメモの量が今までの労力を可視化してくれているかの用だった。
眠気を覚ますために、俺は使い慣れた青色のマグカップを手に取りやや生ぬるいブラックコーヒーを口に流し込んだ。
「あとちょっとで完成だな・・・」
寝不足で出来上がったクマを擦り上げながら、後ろにあるローラー付きの椅子に腰掛けた。
卒論のために研究室に籠もってちょうど1週間。俺は、今までの人生の集大成とも言える論文を作っていた。
テーマはもちろん遺伝子についてだ。
たかが、大学を卒業するためにここまで労力を削る人間はなかなかいないだろう。
大学で少なからずできた友人も、今では適当に卒論を書き上げて少し早めの卒業旅行へと出ていた。
自身の体は今までに無いほどに悲鳴を上げていたが、心は充実していた。あれだ、徹夜をして研究してたら眠気が1週回って無くなっていた時みたいだ。今回はそれが5回ほど続いただけだ。問題は無い。
しかし、卒論の提出期限はあさってだ。そろそろ、結果をまとめないと期限を過ぎてしまう。
『・・・さて、そろそろ再会しますか』
小休止を終えて立ち上がったそのときだった。
―グラッ
世界が180度回った。いや、それ以上だろうか・・・
いや、コレは世界が回ってるんじゃないな、俺が回っているんだ。とっさに起こる出来事に、以外にも人間は冷静になれるもんなんだな。
そんなどうでもいいことを思っていたら、ゴッ―という鈍い音と共に、俺の視界ははコンセントを引き抜かれたテレビみたいにそこでぷつんと途切れた。
―頭の中で誰かの声が響いている。
男性の声と女性の声だ・・・。
お母さん達かな・・・。
体を動かそうとするが、指1本動かすことができない。
全身が今まで味わったことのない倦怠感に襲われている。
視界が真っ暗で、何も見えない。
声を出すこともままならない。
しばらくすると、誰の声も聞こえなくなった。
サイレンの音がただただ頭に鳴り響いていた。
しばらくすると、サイレンの音も消えなくなった。
そして何も聞こえなくなった。
この時になって、やっと分かった。
俺は、死んでしまったのだと。
たった一つだけ心残りがあった。
どうせなら、研究成果を上げてから死にたかった。
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