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私よりずっと可愛くて、優しい彼女が見つかりますように!

 全身の血の気が引いていく……私ったら、また策略に乗せられて『キュン』としてしまったのだ。このままでは非常に危険である。何をされるか分からない。もしかしたらこのまま私は鬼頭くんの『モノ』にされてしまうのかもしれない。


 早く逃げなくては、確実に自分にあのサイトの魔の手が忍びこんでいる。


 確か……このままのペースでいったら、あと四十五手でチェックメイトだ。まだ先は長いけれど、きっとそこまでいったら私があのサイトを知っているか知っていないかは、もはや関係ない。それまでに何とかしないと。その前にここから離れないと!


 と、言ってもこの雰囲気を断ち切ることも出来ず、しばらく、鬼頭くんとの間には沈黙が流れた。彼は何かモジモジしているように見えた。おそるおそる顔を見てみると、なにやら覚悟を決めたような顔をしていた。一体何をしようというのだろう。

 

 そのまま恐る恐る彼を見ていると、


「す、す、す、好きだよ」


 と、何やら身体をくねらせながら言われた。鬼頭くんの顔は真っ赤だった、緊張して息ぐるしいのか、何度も息を吐き、喉を鳴らす音が聞こえてくる。そのまま彼は自分の鞄に手を伸ばすと。


「いつでも、告白出来るように。これを持っていたんだ……」


 と言って、ピカピカの小さいオセロ盤を差し出された。


「もし良かったら……受け取ってください!」


 彼がなんで、そんな告白方法をしたのかは分からない。でも、その手が震えているところからみると、彼の心からの告白なのだということが分かった。でも私が気になるのはそれではなく


「えっ、このタイミングで!」


 口をついて、出てきたのは驚きの言葉だった。彼の行動はあの私を『モノ』にする為のサイトにある、フローチャート通りではなかったのだ。


「たいみんぐ……? 急すぎたって、こと、かな?」


 鬼頭くんの呆気に取られた表情を見ていると、だんだんと私の心から不安が溶けていき、思わず笑いがこぼれてしまった。鬼頭くんは純粋に気持ちをぶつけ合うことが出来る人で。ビーコンマンのサイトを使って、私をモノにしようとする卑怯者ではなかったのだ。確かに急って言われたらその通りだけれでも。


「ふふっ! 鬼頭くんが、攻略サイトを使ってこないって分かって良かった!」


「……は? なんのこと? 田中さんの言っている意味がまったく分からないんだけど……」


「ううん、ごめん。こっちの話……」


「そうなの? 田中さんって時々変わってるよね」


 彼は微笑む。私の嫌いな場所に汚い皺を寄せて。私の腕に鳥肌が立つ。ああ、彼の容姿がもう少し違うものだったら、私はここで恋に落ちてしまったのだろうか。

 そのとき私の頭の中には、放課後のパソコン室で、私の身体を見つめ続けるたくさんの男の子達の顔が思い浮かんでいた。なぜ、じっと私を見つめているだけなのだろう。どうして誰も話しかけてこないのだろう、と。

 そして、私もなぜ先輩の姿を見ているだけだったのだろう。声をかける勇気がないから? きっかけが無かったから? 違う。確証を持てないなにかに飛び込むのが怖かったんだ。私の手が届かないどこか遠い場所に、自分が解き放たれるような気がして、それがなによりも怖かったんだ。

私は知らず知らずのうちに拒否していた。そのどこか遠い場所で、自分が受け入れることができない、どうしようもない理不尽に裁かれてしまうかもしれないという、そんな恐怖に。


「……俺、田中さんの言っていることは分からないけれど、とにかく今は返事が聞きたい。それを聞かないともうぶっ倒れちゃいそうだから……」


 鬼頭くんの声が聞こえてくる。


 彼が一生懸命私に想いを告白してくれたのだから、私も全力でそれに答えなくてはならない。そんな考えが私の頭の中を巡った。そうだ、確証の持てないなにかに飛び込んできた彼に、私が出来る最高の敬意を持って、彼に気持ちを伝えなければならない。私は思い切り息を吸い込んで。これまで出したこともないくらいの大声で叫んだ。


「鬼頭くん!


 ごめんなさい!

 

 私、生理的にあなたの顔が嫌いなの!」


 呆然とする鬼頭くんを背に、私は教室を出て行くと、いつから私達の様子を覗いていたのか、心配そうな顔をしているみらの姿があった。


「りく先輩……何があったのか分かりませんが……大丈夫でしたか?」


「びっくりした。みらちゃん、なんでこんなところにいるの?」


「いや、もしりく先輩に魔の手が忍びこんできたら、その相手を懲らしめようと思ってたんです」


 みらの手には、輪っか状の手裏剣風の鉄片が握られていた。確かインドの武器でチャクラムというものだ。懲らしめるっていってもなんで、そんな専門的な道具を持っているのだろう、と少し不安になった。


「みらちゃん。もう心配はいらないわ」


「心配いらないって……なにさっぱりとした表情しちゃってるんですか! よっぽど心配になりますよぉ!」


 みらは、私の知らない先輩がいる。とでも言いたげな、あっけにとられたような顔で私を見つめている。ビーコンマンも慌てているようでさっきから私にしつこく


『お、おい? なんで鬼頭ってやつに、あんなこと言ったんだ? 俺にはわからね

ぇ……』と聞いてくる。


「ねぇ、ビーコンマンさん。私じつはもう、あなたを倒す手段が分かっちゃったかもしれないの」


 ビーコンマンは何も答えない、彼も何かに気がついたのだ。私が彼らの侵略に対して出来る最大限の抵抗を。そして、私がこれからその抵抗を行うことを。


 私には行かなければいかないところがある。


「どこに行くんですか、先輩!」


 というみらの声を背に、私は廊下を走りだした。行先は校舎最上階のパソコン室。階段を一気に駆け上がる。何人かとすれ違ったけれど、他の人が目に入れるいとまもなく、私は走り抜けた。


 私は『ドゴン』と思いっきり扉を開けパソコン室に入る。


「りくちゃんだ!」


「今日も、待ってたかいがあった」


「今日もその美しい顔をじっくりと拝ませておくれ……」


 という声と無数のじっとりとした目線のなか、先輩の近くまで歩み寄った。もう覚悟は出来ている。焦燥に満ちたビーコンマンの声が聞こえてくる。


『やめろ! よせ! それ以上したら焼け死んじまう!』


 自分の頭の中のごちゃごちゃとした想いを、一度真っ白にする。そして出来るだけ先輩の耳を通るように、はっきりとした声で言った。


「大好きです! 先輩!」


 教室がざわめく。そして、その声は確かに先輩に届く。今まで私を見ることはなかった、その眼が私に向かう。そして先輩の瞳が確かに私の存在をはっきりと映し出した。そして、消え入るようなビーコンマンの声が聞こえる。



『まだ侵略ははじまったばかりだというのに……だが、コレデオワッタトオモウナヨオレタチハナンドデモヨミガエルコノセカイガアルカギリ……』




 それから、私の頭の中にビーコンマンの声がすることはなくなった。彼の正体は結局、最後まで私には分からなかった。でも、最後の声は今までも耳に残っている『この世界がある限り』もしかしたら、彼らの仲間はいつでも、もしかしたらとっくに私達の頭の中に潜んでいて、地球人侵略の為の準備を虎視眈々と狙っているのかもしれない。そのとき、私達はどのように抵抗すればいいのだろう。



 こうして私の頭の中の小さな宇宙戦争は終結した。三月も中盤。暖かくなり、春風が運んでくる花粉が人々を悩ませるころ、私はみらと一緒に、久しぶりの駅前ファストフード店でご飯を食べていた。


「あのサイトのことで分かったんですが、やっぱり誰かのイタズラだったみたいですねぇ。もう一回確認したんですが、ページが見つからなくなってました」


「まぁ、何にせよ、なくなって良かったわね」


「結果、オールライトってことにしましょうかねぇ」


 みらは手に持っていた、ハンバーガーを美味しそうに頬張る。


「……それにしても、あのときは本当に心底、先輩には呆れました。もう面倒見切れませんよ! どうしてあんなことしたんですか」


「どうしてって……あっ! もうこんな時間。そろそろ行くね、じゃあね! みらちゃん!」


「ま、また今度―。どうぞお幸せに……。はぁ。りく先輩の彼氏、やっぱり全然カッコよくないなぁ。というか、ああいうネットばっかやってる精神的インポテンツ野郎は、生理的に全然受け付けない!」



 今日は、楽しみにしていた先輩とデートだ。駅前の噴水前で待ち合わせしてから、映画を見て、カフェでご飯を食べてお喋りをする。やっぱ好きな人と食べるご飯は美味しい。でも、今日はいつもと違い、先輩は浮かない顔をしていた。


「元気ないですけど、どうかしたんですか、先輩?」


「なぁ、田中さん。ちょっと相談したいことがあるんだけど」


「相談ですか? 一体どうしたんです?」


「いや、昨日はネットサーフィンで一日を潰してたんだけど」


「昨日……っていうかいつもじゃないですか」


「いや、そこは重要でなくてだね……偶然、俺の攻略サイトっていうの見つけちゃったんだよ、びっくりしたなぁ」


「こ、攻略サイトですか? ちょっと見てみてもいいですか?」


 先輩のスマートフォンを覗きこむと、そこには、確かに見覚えがある私のサイトと全く同じデザインの画面が映し出されていた。しかもちょっとサイトの装飾が凝っていたりとバージョンアップしているようにも感じる。


「ふ、不思議なサイトですねぇ! でも、先輩に攻略かけようなんて女の子、私くらいしかいないと思いますけど……ね!」


「ほんっと、気色悪いなぁ……でも、もしかしたら可愛い女の子に攻略されるんだったら悪い気はしないなぁ……」


「ふざけないで! 先輩なんて、せいぜいガチムチの男の子にでも攻略されちゃえばいいんです!」


 私の頭にビーコンマンの高笑いが聞こえた気がした。やっぱり私だけでなく、彼らはもう、あらゆる場所にいて、私達の逃げられないところまで密着し、潜んでいるのかもしれない。彼らの侵略はしばらく続きそうである。


 まぁ、これからまだまだ波乱万丈いろいろありそうだけど、先輩と付き合えたのは、結果的にはビーコンマンが余計なことを色々としてくれたかもしれないし、私個人としては彼らには感謝したいところである。ありがとうビーコンマンさん。


 あと、優しくて色んな覚悟を背負って生きる鬼頭くん。

 私よりずっと可愛くて、優しい彼女が見つかりますように!


〈了〉

以上で完結です。

読んで頂きありがとうございました。

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