白黒つけないグレーが一番味わいぶかいんだ!
「残念ながら、ある程度は信ぴょう性があるみたいですねぇ」
「……本当に、こんな方法で私は落ちちゃうのかしら?」
あっけにとられたまま、ページを引き続き見渡していると、心の中に、小さなそして、とても嫌な予感が湧きあがった。
「もしかして、あの時のことは……」
私は微かに震える手を押さえながら、検索バーに『鬼頭晋介』と入力し、エンターキーを押す。
「そんな……信じられない!」
そこには『鬼頭晋介くんが、今日から最短スケジュールで田中りくと付き合える方法!』とあり、ガンバくんとは違う攻略ルートとやらが図説されていた。そして案の定最後の刻まれている
『ここで告白! 成功! 四十七手詰め!』という文字。
「じ、冗談じゃないわ……」
私はどうしてもそれを信じることは出来なかった。
それもそのはず。私が今まで見てきた人達のなかで、一番好きになることがあり得ない存在があるならば、真っ先にクラスメイトの『鬼頭晋介』くんを挙げるだろう。
理由はそこまで多くないが、何よりも生理的嫌悪を感じる顔である。笑うと私の嫌いな場所に絶妙とも言えるピンポイントさで、汚い皺が寄る。それがどうしても苦手なのだ。
別に性格は悪い人じゃないんだけど、どうしても顔を直視することが出来ない。食べ物を食べるときもクチャクチャと音を立てて食べる仕草も苦手だが、それ以上に彼の顔は私の動物的本能と直感が嫌がっている。きっと私と彼は決して交わってはいけない血が流れているのだろう。
それでも先日、そんな彼に信じられないけど『キュン』ときてしまったことがあった。そのことを私は認めることが出来ずにいたのだ。
ある日の放課後。いつものように先輩を眺めに行こうと、終礼が終わってすぐパソコン室に向かっていた日のことだった。通り道の美術室の片隅で、誰かとオセロをしている鬼頭くんを見つけた。オセロなんて子供のとき以来やってないなぁ。なんて思っていると、鬼頭くんが、何かを熱く語っている声が聞こえてきた。その声を聞いてみると
「オセロは黒白つけるゲームだがな!
僕とお前の友情はそのどっちでもない!
白黒つけないグレーが一番味わいぶかいんだ!」
と言って、その対戦相手の肩に手を当て。その後優しく抱きしめたのだった。相手は号泣していた。その状況の前後はよく分からないが、その姿を見て私は不覚にも『キュン』ときてしまった。なんか、凄い思いやりがあって情にあつい男の子なんだな。と思ったからである。顔は嫌いだけど。
そして、そのフローチャートの一番最初には、田中りく攻略の第一歩として
『手順1
○月○日の放課後、友達と熱くオセロをプレイし、熱い気持ちを語り合う!
それを聞いた彼女は君のことを気にし始めるぞ!』
と書かれてあったのだ。もしかして、鬼頭くんはこのサイトのことを知っているのだろうか? そしてこのサイトの指示に従って私をオトそうとしている?
でも、あんな衝動が何回も何十回も繰り返されたら、さすがにいくら嫌いといっても、鬼頭くんの彼女になってしまうのかもしれない。自分の心臓が高鳴っていくのを感じた。まだ完全に信じた訳じゃないけれど、これが本当だったとして、この情報が世界中に拡散してしまったら、私は全世界ウン十億人の人間に惚れてしまう女になってしまう。
最悪だ……私の人権なんてあったもんじゃない。そんなことになったら、一生人と会わないように山奥に引きこもるか、開き直って世界中の男性と恋に落ち、かの文芸作品『好色一代男(女?)』のように生きるしかない!
「りく先輩、大丈夫ですか? 気分悪いなら家まで送りますけど?」
みらが心配そうに私の顔を覗き込んでいる。どうやら結構長い時間呆けていたようだ。
「ううん、大丈夫。それよりもこれ、どうにかならないのかしら? プライバシーの侵害っていうか、こんなサイトがある時点でかなり不愉快なのだけど」
「そうなんですけど……権利者というか、管理人を探してもいないみたいなんです。どうしましょう、警察に通報しますか?」
一瞬、その手も考えたけれど、やはり少しでも人の目に触れさせるのは危険なんじゃないかと思い、それは止めることにした。
「一刻も早く犯人を見つけましょう……こんなの見過ごすことは出来ないわ、みらちゃんも手伝ってくれる?」
それを聞くと彼女は「任せてください!」と胸を大きく叩いた。
「大丈夫ですよ、私が先輩を守ってみせます! こうみえてもパソコンは詳しいんです。なにより、先輩はこことは違う時間軸。パラレルワールドで自分の命を引き換えに、私の身を守ってくれましたからね! それ相応のお礼をするまで離れませんよ!」
「はぁ……どうもありがとう」
やっぱり、言っていることがよく分からない。でも、私を好いてくれる理由はどうあれ、やっぱり心強い後輩……いや、友達がいて良かったと思う。
その日はとりあえず、このサイトを悪用する人間が私に近づいてきたときの為に、にみらちゃんといくつかの対策を考え解散となった。対策は次のとおりだ。
①誰かに『キュン』ときてしまったら、直ちに報告すること。
②男の子とは必要最低限のことは喋らないこと。(一応、女の子にも注意すること)
③そもそも、男の子を惚れさせないこと、思わせぶりな仕草をしないこと。




