二の剣
運営さんから警告が届きました。
改稿するか削除の二択です。
活動を読んでいただければ幸いです。
「なんだと問われてもなんとも言えないわね。しいて言うなら正義の味方かしら?」
ウサギ面の声を聞いた二の剣は、明確な敵意を発していた。
「はぁ? なに訳の分からない事を言っているんですか! 屋敷を壊したのはお前えだな? その短剣が何よりの証拠です。ふざけたウサギ面に、シンラは怒りで頭がおかしくなりそうです」
「屋敷を壊したのは私達であり、私達ではないわ。ねぇ、ブット——ウサギ二号」
「あ、ああ。そうだな」
ウサギ一号はウサギ二号に同調を求めるが気乗りのない返事が返ってきた。
「何を分けの分からない事を言っているのですか! ふざけた奴らがアクア様の所有物を壊すなど万死に値します。皇! あいつらの血を吸いつくせとシンラは命じます」
美貌を怒りに歪めるシンラは腰に下げられている白い刀を抜刀する。
——ブットル。
——あぁ。あの刀は普通じゃないな。血を吸いつくせと言っていたし。距離をとった方が懸命だな。
ティターニの形の良い鼻が動く。
海国は潮の匂いに満ちているが、シンラが刀を抜いた瞬間にそれは消え、変わりに血の匂いが充満する。
べっとりとまとわり付くような色濃い鉄の匂いにエルフは顔を顰める。
それは当然ブットルも感じており、急速に口内から杖を引き出し魔法を展開する。
「要警戒だな、初手はこちらからやろう」
その言葉の次には足元に水色の魔法陣が展開された。
向けられた杖の先端。水色の石が一度光ると水王の周囲に幾多の野太い氷柱が出現する。
——行け。
ブットルらしい淡白な命令を受けた氷柱は、尖った先端をシンラに向け動き出す。
「皇!」
急速に迫る氷柱だが、二の剣たるシンラは一向に慌てる様子は無い。
皇と呼ぶ全てが白い刀を構え、氷柱に向かって走り出す。勢いよく迫る氷柱は強度があり安易に体を貫く事が想定される。だがシンラは加速し皇を氷柱に振り下ろす。
氷と刀が触れた時——ぬわたぁん——と何とも場違いな音が発生した。
「古代付与ルーン付きか?」
「別物のようにも見えるけど」
ブットルの問いにティターニが返す。周囲は血の匂いがより広がりだす。
皇と氷柱が当たった瞬間、氷柱は一瞬で赤い液体に変わる。
それが先ほどの——ぬわたぁん——という音の原因である。
赤い液体の正体は血。
皇は氷柱を血に変え、それをズズズッと間抜けな音を出して啜り出す。
シンラは迫る氷柱全てを血に変え皇に吸わせるという、なんとも出鱈目な力でブットルの魔法を捌き切る。
だが、幾多もある氷柱を血に変えるという行為はシンラの流れるような足捌きと、迫る氷柱に刃を当てるという的確な手腕がなければ捌ききれるものではない。
その無駄のない動きはさすが、五剣帝・二の剣といえる。
——だが、今この時をもってすれば相手が悪いといえる。ほんの僅かな隙であった。一流でも見逃してしまう隙だが、超一流の者は、その隙を正確に捉える事ができる。
シンラは最後の氷柱を血に変えた一瞬、敵二人から視線を逸らしてしまう。
「——っく! 小癪な!」
苦虫を噛み締めたような声がでたのは、死角よりティターニの振るう短剣が迫っていたからだ。
横なぎに振るわれる短剣の切っ先は躱せる距離ではない。このままいけばシンラの首が撥ねられてしまう。
二の剣は慌てる様子もなく「皇」と、冷静に刀の名を再度呼び、自らの首を晒すように一歩踏み込む。ティターニは困惑するが、今更止められないと勢いのまま短剣を振るう。シンラの首にあたると同時にまた——ぬわたぁん——と場違いな音が発生。
「あなたの首、泥沼みたいな感触ね」
「死ね!」
ティターニの言葉そのままである。首に当てられた感触は泥沼に突っ込んだような感触となっており首を跳ねるどころか、斬ることもできず首の表面で止まっている。
あまりにも不可解な現象に面をくらう、その隙をシンラは見逃さない——振り下ろされる皇だが、ティターニはどこか余裕がある。
「戦闘中に脇見など、早々に死にたいのならシンラが殺してやる!」
鬼気迫るシンラの圧力と一太刀は、死と繋がるものである。
本来なら直ぐに回避か剣撃を受け止めねばならないにも関わらず、ティターニは眉根を寄せたままシンラの肩口を指差す。
戦闘中の不思議な行為にシンラは目線を追う、結果己の肩口に乗る違和感に気付く。
「ゲコッ」
肩口には小さな水色の蛙が乗っていた。
いつ乗っていたのかは不明である。水色の蛙はもう一度「ゲコッ」と鳴くと己の体を光らせる。それを見るシンラの脳内に危険のシグナルが送られる。
振り払おうとした直後に、蛙は小規模の爆発を起こした。
「なんだ今のは!」
シンラは煙幕を乱暴に手で振り払う。爆発で軍服と羽織が破れ、肩に浅い裂傷を負う
「どんどん行こうか!」
爆発する水色蛙を作り出した者は次々と蛙を作り出す。
中級魔法:水色蛙ノ進行グルヌイユ・マーチ
爆弾の群れは通常の蛙のように、ピョンピョンという擬音が似合う様子で標的に向かいだす。その数、多数。
「塗り替えろ皇」
向かう蛙に侮蔑の視線を送った後シンラは刀を前に突き出す。
皇が一度鼓動をしたような錯覚をブットルは感じた——ドクン——まるで心臓のように。だが実際には白刀は脈動すらしていない。
「ゲコゲコゲコゲコゲコゲコ————!」
コンマ数秒意識が皇に向いていたが、自らの生成した水色の蛙の群れが狂ったように鳴き始めた事で異常事態と察する。水色が赤色に変化し膨張すると、シンラに向かう途中でドロリと血に変わり、地面に吸い込まれ消えていく。
一部始終を見ていたブットルは顔を顰め、一歩交代する。
「魔法を血に変えるのか? 俺では役にたたんな、後は任せた」
「ちょっと、サボらないで頂戴」
シンラの前に二振りの短剣が迫る。だが二の剣は慌てる様子は無く皇で防ぐ。
「物理的な物は血に変える事ができないのね」
そうと分かったティターニは短剣を左右から繰り出す。シンラはその斬撃をいなす。双方の剣撃は互角といえ、それが双方の顔を歪める。
数々の修羅場を潜り、世界で七人しかいないS級冒険者、暴蘭の女王は、短剣の扱いにはそれなりの自信があったが故に、押し切れない歯痒さに焦れる。
シンラも同じである。五剣帝という肩書きを背負うからには相応の剣術が必要である。
本来であれば一刀にして目の前のエルフを斬るのが正しいが、それがままならない。
双方は互いに踏み込む。
ティターニの黒の短剣がシンラの顔を狙うが、白い残像に弾かれる。
残層の正体は皇の起動であり。超一流たるシンラが振る事により発生。
振り上げた白の起動はそのまま垂直に降りる。その速度は超スピードであり、並の者ならば体が左右に分かれているだろう。
だが、対峙しているエルフは超一流である。
迫る斬撃を瞬時に捉え、背中を向け一回転し斬撃を回避。
流れるような動作と回転の勢いがのる短剣がシンラに迫る。
二の剣は体と首を後ろに倒しそれを回避。
突きの構えを取り、皇を一直線に滑らせ美姫たるエルフに白い刃が付き刺さる——事はなかった。
「な!」
「よけいなお世話よ」
「そう言ってくれるな」
シンラが驚愕の声を上げ、ティターニとブットルは簡易のやり取りをする。
二の剣の下半身が水で生成された格子状の牢に囚われていた。
咄嗟に体勢を立て直し、拘束を解こうとするがそれはエルフが逃さない。
シンラの首に吸い込まれるように短剣が一閃の起動を描く。この一撃は決まり手と言って良いほど鮮やかであった。
首を狙ったのは敢えてである。泥沼のような感触をもう一度確かめ、その正体を見抜く為。
「皇——」
数秒先に待ち構える死にも動揺せずシンラは呟く
短剣の起動はシンラの首手前で止まる。
止めたのは赤い物体である。
それを見たティターニは直ぐに後方に跳躍。
距離を置いていたブットルはその赤い物体を見て不快感に襲われる。
警戒する二人を見つめる深呼吸し己の熱を下げる。
——頭に血が上っていたといはいえ、私を追い込むという実力。あのふざけた面を被った二人は強い。
「魔法使いを喰らえ皇、私は女を殺す」
赤い物体は大きな赤子であった。正確に言うならば、小さな赤い赤子が集合し一つの塊となっている、大きな赤子である。
泣く赤子の群れはティターニとブットルに怨嗟のように届く。
幾重にも重なり、膨れる赤子達はもぞもぞ動きデコボコと非常に不安定な形態であるが、誰一人として大きな赤子という形態を崩す者はいない。
ティターニの短剣を受け止めた掌からは血が流れ、赤い舌で舐め傷を癒していく。
古代付与ルーンとも違う。呪いとも違うそれは実に見た目に悪く。気が弱い物ならば、その見た目で気絶してしまうだろう。
見慣れぬ異形に混乱する二人だが、シンラと皇が考える時間を与えてくれない。
二の剣は怒りの感情は消え、冷静に標的を狙う刀剣士の顔付きになる。
刀剣士は刀の扱いに特化したジョブ。というだけではない。相手を手早く殺せる事にも長けている。一意専心の一刀がティターニに襲いかかる。




