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剣とか魔法とかチートとか関係ねぇ男なら拳で語れ  作者: 木村テニス
一章~その男巻き込まれ体質につき~
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新人潰しの対処法

「もう行くわ」



 綾人と話終えたティターニは階段を上り姿を消す。



「さーせん話途中でしたね? とりあえず冒険者の事はなんなとく分かったのでこの後はどうすればいんすか?」



 話し掛けられた受付嬢のマテラ。間抜けた顔をかき消し仕事モードに入る。



「そうですね。ギルド中央に掲示板があるのでそちらから自分のLvとランクにあった依頼書を受付に提示すればクエストを受注される事になります」



「なるほど」



 顔を横に向け掲示板を見ると、依頼書と言われる紙がざっくばらんに貼られている。

掲示板の前では多数の冒険者が集まり、あ~でもない、こ~でもないと議論している。



「クエストを達成したらギルドに報告にして頂き依頼達成が確認されたら報酬を貰うという流になります」



 綾人の視線が泳ぐ。一通り泳ぎ終わった後にもう一度マテラを見て。分かりました。と返事をする。


 絶対この人適当に聞いてたなと確信するマテラ。だが彼はあの(・・)暴蘭の女王のお知り合い。もしかして強いのかも……マテラは悩んだ末に一枚の紙を綾人に見せ出す。



「良ければギルドからの依頼を受けませんか?」



 掲示板から依頼を受ける以外にも、こうした個人依頼があるという。内容を確認すると。




 ーーーーーーーーーーーーーーーー

 ・ゴブリン討伐依頼

 ・仕事内容

 西地区の森林にゴブリン五体が出現したのとの報告がありました。

 調査・討伐お願いします

 ・ランク制限・Lv制限

 無し

 ・依頼者

 ミストルティンギルド

 ・報酬

 銀貨一枚・銅貨三枚

 ・備考

 確認の為依頼完了後に職員が西地区の森林を視察します。


 担当者マテラ・ルト

 ーーーーーーーーーーーーーーーー




「つい先程他の冒険者達にも依頼した内容なので被りにはなるのですが、如何でしょうか?」



 眉を八の字にしながらマテラが訪ねてくる。



 ――可愛い。



 マテラの愛嬌に心奪われつつ脳内で計算する。銀貨一枚が五千円で銅貨三枚が三千円、占めて八千円、今日の宿代位にはなると踏む。



「やらせてください」



 ありがとうございます。と頭を下げるマテラ。普通であれば新人冒険者に頭を下げる事はしない。だがマテラはやる。彼女の誠実な性格がよく表れている。


 綾人もその誠実さに苦笑すると同時に、たゆんと揺れカウンターに乗った二つの宝具をしっかりと網膜に焼き付ける。




 ーーー



 西の森には歩いて一時間。マテラに場所を聞いた綾人はギルドを出て歩き出すと。



「ちょっと面貸せや」



 ギルドから出た矢先に声を掛けられる。この声は散々綾人をバカにしていた者の一人、他にも四人の冒険者が綾人を囲むように立っている。



「あぁ?」



 綾人は内心の、これこれ! という言葉を飲み込み大人しく彼等に付いていく。


 ギルドから少し離れた路地裏に移動した綾人と冒険者五人。冒険者達の外見は綾人から見れば実に個性的だった。



「何かお前ムカツクな」



 見た目は人間だが全身が緑色で額には角。



「今なら土下座で許してやるけどどうする?」



 黒い毛が全身を覆う猫人。



「土下座+足の裏を舐めたら許してやるよ」



 上半身が人間、下半身が鹿。



「土下座+足の裏を舐める+ティターニさんを紹介するで許してやるよ」



 綾人の半分程の背丈、見た目は人間だが背中に蜻蛉とんぼのような羽。



「土下座+足の裏を舐める+ティターニ様を紹介する+殴らせるだろ」



 人間の形状に近いひょろ長い魚。


 口々に綾人を罵る冒険者達は、しっかりと鎧を身に付け武器を持ち武装している。大抵の新人は彼等の圧力にビビり屈するが。



「いやいやいや、そう言うのいいからさ早くかかってこいよ、こっちはてめぇらをボコりたくてウズウズしてんだから」



 綾人の言葉に冒険者達が青筋を立て、喧嘩の始まりとばかりに全員が一歩動くと。



「おもしれぇ奴だなお前は」



 その声に二歩目を踏めずに声の主を見る。

冒険者達の後ろから現れたのは上にも横にも大きい鯨。


 綾人はひょろ長い魚の時点で大分つっこみを入れたかったが、しっかりと二つの足で歩く鯨に言葉を失う。



 だが。――あれ、これって……。それよりも綾人にはどうしても気になる事ができた。



「ルルフさんこいつ殺っちゃいましょうよ!」



 ひょろ長い魚が声を上げる。


「ふんっ。小僧今全員に謝れば腕一本と全財産献上で手を打つがどうする?」



 ルルフは綾人の目の前に立つ。上背が二メートル以上のルルフは綾人を見下す。綾人は何かを必死で考えるようで沈黙している。



「おい、こいつルルフさんの姿見てビビってやがるぜ!」



「だせぇ超だせぇ! おい! 一つだけアドバイスしてやるよルルフさんには逆らわない方がいいぞ!」



「ははっ泣きそうじゃねぇか新人! ルルフさんはなLv42のBランク冒険者だ! 分かるかこの意味? 新人程度には手も足も出ない凄腕の冒険者なんだよ!」



 綾人は考える。



 ――これは、絶対そうだ、だがしかし、どうする、どうすればいいんだ……。



「はん、俺の姿見てブルッちまうとは可愛い所があるじゃねぇか、今なら腕二本と全財産献上それとティターニ嬢の前で家畜に穴を掘られるで勘弁してやるぞ」



 見下すルルフ。



「ルルフさんもっと酷くなってますから」



 下品な笑い声を上げ盛り上がる冒険者



「あの……」



 ようやく綾人が喋る。もじもじとし酷く困惑した表情だ。目線もチラチラとしており、ルルフと後ろに立つ冒険者達を行ったりきたりしている。



「あぁ~」



 ルルフがたちの悪い顔を綾人に顔を近づける。綾人が耳打ちのポーズをとり。



「脇くさいですよ」



 ………



 ルルフの時間が止まる。

 後ろの冒険者達も止まる。


 正気に戻ったルルフは不動明王もしかりの顔で、綾人を睨み付けるが。綾人の目は真剣そのものだ。



「これ、良かったら」



 と言って綾人がポケットから取り出したのは紫蘇、無限牢獄で命の恩人でもあるルードから貰った紫蘇だ。



「これ良かったら貼ってください。気持ちやわらぐと思うんで」



 ルルフは絶句している。



「あと、後ろの人達も気付いてると思うんで、それとなく注意しといた方がいいっすよ。言わない善より言う偽善って言うか、何て言うか……」



 ルルフはそ~っと後ろを向くと、ものっそい勢いで顔を反らす冒険者達。ルルフは再度綾人を見た後にようやく喋り出す。



「ちょ、ほんと? くさいの俺? 嘘言ったら、もうお前、アレだよ。アレしちゃうからね。ちょ、あのほんと、えっ!? 俺、くさい? マジ、えっ、え、え、どんくらい? ねぇどんくらい?」



「そおっすね」



 と悩む綾人。決意を決めルルフの顔を見る。



「Bランクって感じっすね」



 真っ直ぐな目でルルフを見つめる。綾人に直視されたルルフ。彼はそっと紫蘇を手に取り脇に張り出す。



「じゃあ俺はこれで、なんかすいませんした」



 手刀を切りながら路地裏を抜け出す綾人。

残ったルルフと冒険者五人は誰も目を合わせず、そっと空を見た。



 空はどこまでも青かった。



 匂いなんて気にしないように。




 ーーー




 ルルフ一行と一悶着後に西地区の森林に到着する。



「出てこ~い、ゴブリン~何処だ~!」



 魔物を見つけるハウツーが無い綾人は、若木や老木が(ひし)めく森の中を当てもなく歩く。かれこれ一時間近く歩くがゴブリンどころか、動物一匹も出てこない。



「帰ろっかな~」



 ボヤキながら進むと少し開けた広場に出る。

何の考えもなく一歩二歩と進み立ち止まる。



(明らかに見られてる気がする、何だ?)



 周囲に気を配る。綾人に気配感知のスキルは無い、だが何だか居心地が悪い。実際感じた不快感は脳が起こした錯覚かも知れない。


 だがこの時ばかりはその錯覚もタイミングが良く。



「うっそ!」



 後ろを振り返るとこぶし大の石が飛んでくる。だが俊敏190の綾人は回避するのは造作もない。地面を蹴りつけ横移動で回避する。



「ギィギギギ」



 石が飛んできた場所から声、目を凝らすまでも無い。



「ゴブリン見っ~っけ!」



 体長約百五十センチ、全身緑色に弛みがちな皮膚、胃下垂のような腹、見ててなんかムカツク面構え。全てがマテラから聞いた特徴と一致した。



「まず一匹!」



 全力でゴブリンに駆け寄る。ギィギィ! と言いながら鉄の剣を構えるゴブリン、だが目の前にはすでに。



「はいさよなら」



 振り抜いた拳は綺麗にゴブリンの顔面に直撃。膨らみ過ぎた風船を針で突いたかのような音と同時に、眼球や脳髄が辺りに飛び散る。



「うわっきもっ!」



 顔を失ったゴブリンは後ろに倒れ砂塵になる。拳に付着した血や反り血も煙を上げ蒸発する。砂塵の上にはドロップアイテム(戦利品)であるゴブリンの耳。



「ドロップが耳って、キモいな」



 摘まみながら持ち上げ顔を顰める。ゴブリンの耳をポケットに入れ周りを見ると



「血?」



 視線の先には血痕が等間隔で地面に落ちている。生き物の血であるのは間違い無い。道標のように続く血痕を見つめる。


 この依頼は被りと言ったマテラの言葉を思い出した綾人は「嫌な予感がする~」と自分を鼓舞するように戯け歩き出す。




 ーーー




 西地区の森林には幾つかの小洞窟が存在し、その中の一つから叫び声が上がる。



「クソっ!」



 松明が辺りを照らす洞窟内でリーズは悪態をつく。



「リーズこっちに来たわ!」



 サシャは回復魔法を発動するべく詠唱していたが、迫るゴブリンに慌てて声を出す。



「サシャ今行く!」



 疲弊した体に鞭打ってショートソードを強く握る。



「リーズ、サシャ一旦引こうこのままだと全滅するぞ!」



 全身鎧と大型の盾を身に付けたシュナルが声を上げる、鎧の隙間からは血が滴る。



「シュナルお前はカトラを見捨てるのかよ!」



 リーズは叫びながらも左右から迫るゴブリンを斬り伏せる。砂塵に変わると同時に次のゴブリンが現れ、手に握った短剣の突きが守りの薄い右肘を、(なぶ)るように抉る。


 痛みに負けショートソードを落とすとリーズに影がかかる。狙っていたように現れた大型のゴブリンが、野太い棍棒をリーズの後頭部に振り下ろす。



「――っが」



 前のめりに倒れるリーズは辛うじて意識はあるが、体は一ミリも動かせない。



「リー、ズ、っ。」



 倒れたリーズに駆け寄ろうしたサシャは膝から崩れ落ちる。太腿に激痛。下を向くと真っ白な司祭服の下半分は血が滲み、両太腿に矢が一本ずつ刺さっている。



「ギィギ」



 顔を上げると下舐めずりをしたゴブリンが二匹。新しい苗床に喜んでいるのか、ニンマリとした顔をサシャに向ける。



「やっ、やっ」



 弱々しく嘆く声は二匹には関係が無い。



「リーズ! サシャ!」



 声に出すが動けない。重装士のシュナルは本来であればゴブリンの攻撃など物ともしない。



「何だ!」



 声は力なく響く。



「何なんだこのゴブリンメイジは!」



 シュナルの体を傷付けているのは魔法。ゴブリンの集団に出会った直後、重装士のシュナルは敵の攻撃を引き付ける為に前へ出ようとするが。


 足元に生まれる緑色の魔法陣。回避行動をとるが前方から風の刃が襲いかかる。


 大盾で風の刃を防ぐが、足元から伸びた蔓が急激な成長を始める。蔦に絡まるアサガオのようにシュナルの体の自由を奪う。


 片手に持つランスを振るい蔓を振り払うが、次の瞬間には爆炎がシュナルに直撃する。間を置かずに風の刃がまたシュナルを襲う。次には蔓が体に纏わり付き振り払うと爆炎が襲う。


 その一連の流れはもう一度繰り返される。


 そしてもう一度


 三×三の隊列を組み、一列目が魔法を放つ。二列目が前に出て間髪入れずに魔法を放つ。二列目が終わると三列目が前に出て魔法を放つ。


 一周した一列目は詠唱を終えており魔法を放つ。


 それが繰り返される。延々と。ゴブリンメイジが連携をするという、あり得ない自体にシュナルは絶句する。



 統率のとれた動き。

 個々が役割を分かっているかのような動き。

 重装士の役割をやらせないかのような配置。

 ゴブリンの戦い方ではない。

 明らかに指揮を取る者がいる。



「うおおおおおお!」



 叫ぶシュナルに爆炎が直撃する。


 全身から煙を上げとうとうシュナルも倒れる。大型ゴブリンが止めを刺す為にのそのそと歩きだす。リーズの血がべっとりと付着した野太い棍棒が、次の血を求め勢いよく振り下ろされる。


 霞む意識の中で聞こえてきたのは、耳障りなゴブリンの声に混ざる人間の声。


 何かを確める力も無くシュナルは目を閉じ、己の死を受け入れる。


 が、いつまでも経っても死神は現れない。

ゆっくりと目を開くと大型ゴブリンが肉塊に変わっている光景。



「なっ……」



 何があったと全てを言えない、それほどシュナルは疲弊してしている。状況は整理できないが、恐らく自分を庇うように立つ少年が助けてくれたのだろうか?



「おっさん大丈夫か?」



「あ……あぁ」



「おっ! 生きてるみたいだな。良かった良かった」



 此方を振り向き屈託の無い笑顔の少年は何とも幼く見えた。こんな少年までゴブリンの犠牲にさせるわけにはと、シュナルは力を振り絞り叫ぶ。



「少年、逃げろこのゴブリン共は連携をとってくる、恐らく指揮官が」



「ギィギギギ」

「ギギギギギ」

「ギィィィイ」



 シュナルの言葉はゴブリンの叫びと足音がかき消す。 新しい肉が来たと興奮し駆け寄るゴブリンの群れ。



 ――この少年だけでも逃がさなければ。



 ランスを地面に突き刺し痛む体を無理矢理起こす、膝立ちの姿勢のまま重装士本来の仕事である。敵の攻撃を引き付けるべく盾を構え怒号を叫ぶ。



「うおおおおおお! 来いゴブリン共!」



 その声に反応しゴブリンは一層騒ぎ出す。



「少年いまのうちに逃げ――」



 少年を見る。先程までの幼い顔が歪み悪魔が笑っていた。シュナルは死の恐怖よりもその笑顔に強く惹かれる。



「大勢でわらわらとクソみてぇな喧嘩しやがって、笑えねぇな。この状況は全然笑えねぇぞ、ぶちギレそうだわ」



「ギィギギギギャ」



 迫るゴブリンを拳の一撃で砂塵に変える。



「でもこれからてめぇらをぶっ殺せると思うと少しは笑えるな」



 そこからは魔物を狩る一方的な作業。


 迫るゴブリンの群れに拳が当たる度に顔面が弾け飛び、大型ゴブリンが振るう棍棒の一撃を回避し、顔面に膝蹴りを入れる。


 仰け反りながら倒れた後に勢いよく顔面を踏み潰す。音をたてて散る肉片。


 ゴブリンメイジが魔法を唱える。風の刃、体の自由を奪う蔓、炎の爆炎が襲いかかる。全てを受けながら歩く。


 風の刃に肉を切り裂かれ血が吹き出ようと歩く。蔓が体を這い回り風の刃で刻まれた傷が一層深くなる、が強引に歩く。


 爆炎を浴び重症な火傷になりながらも歩く。

焦るゴブリンメイジの前に立ち、一匹一匹を殴り殺す。


 綾人が自身の傷も顧みずにゴブリンの群を全滅させたのは、


 二つのスキルが発動した為だ。



 スキル:男道


 効果:目的の為なら歩みを止めない全ステータス一時的急上昇



 スキル:不倶戴天(ふぐたいてん)


 効果:怒り・憎しみが力に変わる

 敵を討つまで全ステータス一時的急上昇



 戦闘中新たに手に入れたスキルは綾人を修羅に変えた。

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