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剣とか魔法とかチートとか関係ねぇ男なら拳で語れ  作者: 木村テニス
一章~その男巻き込まれ体質につき~
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はきだめには薔薇がある

 複合街ミストルティン。


 大陸南側に位置するこの街は、多種多様な種族が街を闊歩する。この街で暮らす者達は様々な事情を抱えている。


 種族間の戦争から逃げだした者。

 同族・他族から迫害を受けた者。

 腕試しに来た者、高Lvのモンスターを狩りに来た者。

 なんとなく来た者。

 ミストルティンという街はどんな者も拒まない、


 故に悪事を働いた者は大抵此処に行き着く。

通称【はきだめ】ミストルティンはそうも呼ばれている。



「約束通りここでお別れよ。これからどうするの?」



 大きな門や門衛などとくに無く、街全体の建物や歩く地面が石とレンガで作り上げられているミストルティンは、全体的に茶色に染まっている。


 誰でも自由に行き来できる街の出入口で、ティターニは綾人に告げた。



「日本に帰る手段を探す!」



「無一文じゃなかったら、中々に良い台詞かも知れないわね」



 そう言うとティターニは、ポーチから金色のコインを取りだし綾人に渡す。デンバースに来てから初めて目にするが、異世界補正である言語共通のお陰で何かが分かる。



「一万円くれんのか?」



「ええ、餞別よ」



「マジかよ。ありがとティターニお前いい奴だな!」



 綾人は無意識にティターニに右手を差し出し、体に染み付いた感謝の意を表す。



 差し出された右手をじっとみつめたティターニは深いため息を一つ吐いた。



「エルフに触れる、という行為の意味を言語共通は教えてくれないようね。とすればエルフという概念が貴方には無かったという事になるのかしら?」



 綾人覚えておいて、とティターニは何時もの無表情で淡々と告げる。



「この世界にある風習や風土は、率先して覚える事を進めるわ。

言語共通が貴方に教えるのはあくまで貴方自身の見解と認識。

貴方自身が知らない習わしや事柄は教えてはくれないわ」



 それだけ告げるとティターニは綾人に背を向け人波に消えていく。返されなかった左手が何とも寂しいが。



「よし! とりあえず、飯を食うか」



 それよりも何よりも、腹の虫が騒ぎだした。




ーーー




 ミストルティンの街並みは、綾人曰く。



「昔の外国みたいな街だな」



 語彙力が乏しい男の精一杯の表現だ。

通りには馬車や荷物を担ぐ人が足早に歩き、何だか世話しない街という印象を受ける。飯屋を探し歩いていると香ばしい匂い、見ると屋台が軒を連ねる広場に到着する。



「そこの不思議な格好のあんちゃん、良かったら食ってかねぇか?」



 体は人間、顔は鳥、全身青色の人? 鳥人? に話し掛けられ、ふらふらと香ばしい匂いに釣られる。匂いの元を見ると……



「今日入ったばっかのバシリスクの肉だ旨いぞ良心価格の一本700円どうだ?」



「いや、鳥が鳥肉売るて!」



 どうしても言いたかった事を言い3本購入、



「うま! 予想通り焼き鳥の味だ! ビール飲みてぇなぁちくしょう! なぁ鳥さんよ、この街で手っ取り早く金稼ぐにはどうしたらいい?」



 これから一人で生きていくには金が必要だ、それに何をするにも先立つ物は必用、と最もらしい事を考える綾人。


 あわよくばお土産的な物を買い、妹である莉乃にプレゼントし、兄ポイントを上げたい。というやましい考えは微塵も無い。



「なんだあんちゃん金に困ってんのか? そうだな、あんちゃん腕っぷしに自信があるかい? あるんだったら冒険者がお勧めだぞ!」



 ビシッと人差し指を立てる鳥人の指は、人間の指と変わらない。



「へ~冒険者かいいなそれ、で冒険者って何?」



「簡単に言うと魔物を倒して金を稼ぐ職業だ」



 その後、焼き鳥屋の鳥人から詳しく聞こうとするも、冒険者は魔物を倒すのが職業だ。の一点張り。それしか知らねぇんだろ! と言うと。街の真ん中にある冒険者ギルドに言って詳しく聞け! と逆ギレされる。



 往来を行く人並みや馬車をすり抜け、やって来た冒険者ギルド。


 レンガ調の大きな二階建ての建物を見上げる綾人は、胸が高鳴り口元を上げる。外観を小綺麗に装っているが、この建物はどうにも綾人の琴線を刺激した。


 感じたのは不良(ワル)の匂い。


 最近忘れがちだが、綾人は不良だ。住んでいた街で綾人は街一番の不良と呼ばれ、彼に喧嘩をうる者がいなかった程の不良だ。


 この世界に来てからは色々と設定がブレ始めているが……そこは横に置いといて。



 ――この冒険者ギルドの空気は俺に合う感じがするな。



 そう感じた綾人は期待に胸膨らませ、意気揚々とスイングドアを開ける。中に入った後、意図せず口が動いた。


 広いな。そう呟き辺りを見渡す。召喚初日で見た広い王宮内とまではいかないが、このギルドも中々に広い。


 右側には丸見えの厨房と椅子やテーブル。

左側にはお堅い服装の者がカウンター越しに、せっせと仕事をしている。少し悩んだのち、左側のカウンターに向かう。



「おうおうおう、いいねいいね。この雰囲気。この全然ウェルカムされてない感じ」



 感じる視線に嬉しくなり一人言がこぼれる。例えるなら地元でヤンキーしか寄り付かないゲームセンターに、ルールを知らない新参者が現れた雰囲気。


 あ? あいつ見ねぇ顔だな、ちょっとヤキ入れとくか。


 ここのルールも知らねぇのによくこれたなちょっと面貸せや。


 てめぇどこ中だ?


 そんな声が聞こえてくるようで、思わずニマニマとしている。



「すいません冒険者登録ってのしたいんすけど?」



 綾人の声に書類仕事をしていた受付嬢の一人が顔を上げる。



「はい、ようこそミストルティンギルドへ。ではこちらの書類を一読後に名前の記入をお願いします」



 と一枚の用紙を出す。手に取り薄目のままじっと用紙を眺める、受付嬢が手渡した用紙には、冒険者を生業にする上での心構えや。ルール・マナー、禁止行為が紙一面ところ狭しと並んでいる。


 日本にいた頃から喧嘩三昧の綾人は、長い文字の羅列を見るだけで後頭部が痛くなる。故に端から読む気が無い。



「すんません、この紙に書いてる内容を一言で教えて貰っていいすか?」



 きょとんとする受付嬢。その言葉を聞いていた近くの者達が反応する。



「ぷっ、あいつ文字読めないのかな? 馬鹿は冒険者にはなれはいのによ」

「だな、また馬鹿な新人が一人増えんのか」

「おいお前ら、可哀想な事言うなよ新人君泣いちゃうだろ、っつか泣け」

「見た目も変だし弱そうだしすぐ潰されんな」

「お~い、マテラちゃん! 俺がその新人に手取り足取り教えてやろうか?」



 マテラと呼ばれた受付嬢はカウンターを叩く。



「皆さんルールを守って下さい。冒険者が冒険者を煽る行為は禁止されてますよ!」



 だがそんな煽りよりも、綾人が気になったのはマテラと呼ばれた受付嬢。


 赤黒い肌、赤い目、頭部には羊のような巻き角。薄紫色のショートヘアー。これは俗に言う魔人族ではなかろうかと綾人は察する。


 さて、と身を乗り出すと同時に、マテラの胸がたゆんと揺れるのを綾人は脳内メモリーにしっかりと刻み込んだ。しっかりと。



「一言で表すとですね。冒険者として清く正しく冒険をしようって所でしょうか。彼等のように無闇に揉め事を起こさず、魔物から街を守る、困っている人を助ける、後は――」



 一言と言ったのにマテラはそれからも長々と冒険者の有り様を説明する。右から左に聞き流し、じっとマテラの顔を見る。



「というのが冒険者です」



 柴犬のような笑顔を向けてくる彼女は非常に愛嬌がある。



「ご理解、ご納得してして頂けるのであれば。此方お名前の記入と名前の横に血を一滴垂らして下さい」



「は~い」



 やる気の無い返事と共に用紙に名前を書く、受付から借りた針で指の腹をチクリと刺し、血を垂らす、すると。


 用紙が宙に浮きクシャクシャと丸まり、回転すると銅色の延べ棒に姿を変える



「これは?」



「これは冒険者だと証明する身分証のような物です」



 綾人は掌サイズの延べ棒を持ち眺めると、マテラは説明を始める。


 冒険者はF~Sまでのランクに分かれており見分けるには延べ棒の色で判断するらしい。


 E・Fランクの初心者は銅色

 C・Dランクの中級者は銀色

 A・Bランクの上級者は金色

 Sランクの到達者は黒色


 ランクが上がりギルドに申請すると延べ棒の色は変化する。


 ランクが上がればギルドからのサポートが手厚くなり、対応も好待遇になる。またミストルティンの街自体が高ランクの冒険者を優遇する。故に冒険者は日夜ランク上げに励む。


 ランクを上げるにはギルドに貼り出される依頼を達成する。依頼内容は様々で、薬草採取、魔物討伐、護衛、ドロップアイテム獲得。中には店の手伝いや人探し、ペット探しという、日常生活を助ける依頼もある。


 加えて依頼には報酬金が提示されており、依頼達成時に依頼主から現金を渡されるシステム。またドロップアイテムの買い取りもやっており、 腕に自信がある者はドロップアイテムを売り、生計を立てている。



「身分証は自由に加工が許されているので、指輪やネックレスにする人もいますよ」



 へ~と相づちを打った後に。



「因みになんすけど、身分証を無くすとどうなるんすか?」



「その場合罰則金1000万円をギルドに払って頂きます。

他者に渡れば悪用される恐れもあるのでくれぐれも無くさないで下さいね」



「う、うっす」



 一通りの説明を受けた綾人は、ずっと考えていた事を口にする。



「手っ取り早くSランクになるには、どうすればいいんすか?」



 その言葉でギルド内は今日一番の盛り上がりを見せる。



「ダッハハハハハハ! おい! 本物のバカがいるぞ!」

「やべ~、バカもここまでくれば、いや、やっぱバカだわ!」

「頭沸いてんのか新人!」

「気楽にSランクになるとか死ねよ何様だ!」

「誰かルルフさん呼んでこい! バカにお灸を据えようぜ」



 バカバカと言われる綾人。日本にいた頃ならば我慢できずに殴りかかるが、半日ほど行動を共にしたエルフから言われ過ぎた為、慣れてしまったのかもしれない。


 手っ取り早くSランクに、その言葉には流石のマテラもフォローに困り。



「えっとですね。Fランクの冒険者であれば薬草採取やLvの低い魔物の討伐依頼をこなすのが一般的でして、ランクを上げるには地道に依頼を達成して上げるしか無いですよ」



 早い人でもFからEになるのに三か月、EからDになるには半年間かかるとの事。



「そもそもSランクの冒険者は七人しかいないんですよ、それに――」



 右から左に流す綾人

 ――この人話長いな~。


 と思われている事など露知らずマテラは必死に説明する。説明を終えるのを後ろで待つ古参の冒険者達。


 彼らは新人に手取り足取り指導する、可愛がりの為に待機している。


 俗に言う新人潰し。


 だがその目論見は一人のエルフによって半ば頓挫される。



「綾人?」



 その淡々とした口調はギルド内全員が知る、絶対女王の声。



「ん、おぉ! ティターニまた会ったな!」



「貴方が行き着くのはどうせここ(・・)だと思ってはいたけれど、まさかこんなにも早く再開するなんてね」



 ティターニは微笑を向けながら綾人に近づく



「しゃ、喋った……」

「しかも笑った……」

「あの、暴蘭の女王が……」

「な、どうなってるんだ」

「誰か夢だと言ってくれ」

「美しい……」



 マテラも酷く混乱している



「あ、あ、あ、あの、え~と。暴蘭の女王とお知り合いなんですか?」



 暴蘭の女王? 綾人は首を傾げた後、場の反応を汲み取り返事を返す。



「まぁ、知り合いっちゃ知り合いですけど……」



「知り合いというカテゴリーに私を入れないでもらいたいわね、バカと高貴というカテゴリーになら私を貴方の認識の中に入れる事を許すわ」



「どこでもぶれないんだなお前、っつかさ、ぷぷっ、何? ぷっ、ティターニって何? 暴蘭の女王とか呼ばれてんの? 何その中二くさいあだ名」



 ププッと笑う綾人にティターニは顔を赤らめ、普段では見せない表情をする。



「う、煩いわね! これだから女性の扱いに馴れていない童貞は嫌なのよ」



「おまっ! 俺は童貞じゃねぇから! ちげぇ~から! 俺アレだから! 百人斬りとかしてっから!」



「ふん、その隠し様の無い童貞オーラに身を包んでいるくせによく言うわ。バカで嘘を付くなんて少し見ない間に堕ちる所まで堕ちたのね、ガッカリだわ」



 二人のやり取りを信じられない、といった表情で見つめる冒険者達。



(((((((あの暴蘭の女王が会話している)))))))



 ティターニはその美貌から多くの人を惹き付ける、その者は抑えきれずに周りの静止を聞かずに話し掛けるが。



「うまい店があるから食事に――」

「……」

「美しいティターニ様、どうか私とお付き合い――」

「……」

「この間の魔物討伐は見事、是非その話を我々にお聞かせ願――」

「……」


 オール無視! ギルド内でティターニが話すのは担当者のみ、それ以外では職員すらも無視するという徹底ぶり。



 孤高の薔薇

 触れられない女神

 絶対女王



 そうも呼ばれるティターニが、阿保面の新人と話してる。しかも顔を赤らめわなわなしている。


 ありえない。


((((((((((この新人は潰す))))))))))


 ミストルティンギルドの男冒険者が、一つにった瞬間だった。

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