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やるなら派手に


「バケモノ——」

「ど、どうして出られないんだ、なんだよ、この水の壁は! ここから出してくれ!」

「ヒィィィ! 命だけは」

「お、俺らは何も知らないんだ、ただ、亜人族の蛙族(グルヌイユ)を襲うように命令されただけなんだ!」


 無謀にも水王に挑んだ暴漢は悉く情けない声を張り上げ屈服していく。

 小径の出入り口は水魔法で生成された、水の壁によって塞がれている。


「兄ちゃん達が何も知らないのは想定済みだよ。俺を襲うように命令されたんだろ? 誰に命令されたんだ?」


「そ、それは——」


 暴漢達は口ごもり、視線を落とす。

 勿論それも想定済みとばかりブットルは彼らに圧力を放つ。


「言えないのか? それは困る。そうだな、言わないと耳を削ぐ——」


 その言葉には一切の躊躇が無い。


「それでも言わないなら片目を潰す。それでも言わないならもう片目、それでも言わないなら鼻を削ぐ。次は喉、指、腕を徐々に削ぐ。体が短くなるのが嫌なら素直に言うべきだ」


 苛烈な傭兵時代を過ごしたブットルにとっては、拷問など日常茶飯事である。故に淡々と告げられる。


「トドメとしては内臓を掻き混ぜる。死ぬと思うが安心しろ。回復魔法を掛けてやる。それでもう一度耳を削ぐ、次には片目だ——これを繰り返す——永遠に」


 淡々としているから余計に恐ろしく、脅しではない。というのが伝わる。


「お、俺らに命令したのはッ——」


「お、おい! やめろ! 死にたいのか⁉」


 暴漢の一人が恐怖に負け、自分達に命令を下した者の存在を口にしようとした。

 だが、もう一人がそれを遮る。

 埒が明かないと判断したブットルは魔法を操り、暴漢たちの手足を拘束する。発動者以外触れる事ができない水錠が、拷問のカウントダウンを開始する。

 効果は十分であり、口走った暴漢の一人が仲間の静止も聞かずに、真実を語ろうとするが——。


「あ、へ——」


 その口が開くことは無かった。

 体と首が離れた暴漢は自分に何が起きたかも理解できずにそのまま倒れる。

 離れた首は転がり、開かれた口は何も言えずに壁際に当たる。


「お、おい——」


 仲間の暴漢が声を上げるが、その者も首と体が離れ絶命する。


 瞬きする合間の一瞬であった。

 だが水王の初手は流石であり、一人目が絶命した瞬間に後方に跳躍し様子を伺う。

 ブットルに絡んだ暴漢達全員が死んだのと、ブットルが自らの体内に収めている杖を取り出したのはほぼ同時である。


 水王は視線が下げ己の首筋に指を這わせると、全身を覆う透明な粘膜が揺れる。

 この粘膜はブットルの守りを担っている。

 這わせた指先には亀裂があり、斬られた事を証明される。

 水魔法で生成した壁、加えて暴漢達の首、さらに粘膜まで斬られた事に水王の目が険しさを増す。


 小径の出入り口に、二人の人物が姿を表す。

 ブットルが培ってきた戦闘時の感覚は、先ほどから危険警報を告げている。


「あれ? 斬ったと思ったのに、サマリさん見てください。あの亜人族、生きていますよ!」


「コーガ君。何も殺す事は——」


 声は男女の二人組である。

 二人とも黒一色の軍服に似た格好をしていた。男は白い羽織を、女は橙色の羽織を被っている。


「俺の剣を躱すという事は相当な手練れですよ、サマリさん」


 男の喜々とした声が小径に響く。

 白い羽織を翻しコーガと呼ばれた男が一歩前に出る。

 大きな鳶色の目に散切りの黒髪。顔は少し幼さを感じるが、這うようにある無数の傷のせいで、幼さよりも狂気を感じる。

 体はブットルと同じでそこまで大きくはない。

 男はこの世界では東方の武器と呼ばれるものを使用している。それは刀によく似ており、この世界でも刀と呼ばれている。

 コーガは刀をゆらりと構え、ブットルを睨む。


「さて、蛙族! お前に選択の自由を与える!」


「高圧的な態度だ」


「コーガ君。暴力はいけないよ——話合えば蛙族の人も分かってくれ、ると、思ったり、思わなかったり?」


「サマリさん! もっと堂々としてください! あなたは五剣帝・四の剣。サマリ・ビデンなんですよ」


「ふぇぇぇ〜」


「やはり五剣帝か」


 ブットルは改めて二人を見る。

 コーガと呼ばれた男は肌が銀色であり海人族というのが見て取れる。

 一方、コーガに睨まれ慌てふためき、奇声を上げているサマリという女は人族に近い容姿をしているが、パタパタと振られる指と指の間には水かきがある為、凝視すれば海人族という事が判断つけられる。


 サマリは可愛く幼い顔立ちで、淡い桃色の髪は三つ編み。垂れ目のせいかどうにも迫力が無い。忙しくなく動く目尻には涙が溜まっている。

 見た目は完全な魚から、人に近いが、どこかの箇所が魚に通ずる所があるのも海人族の特徴である。


「厄介だな」


 ブットルは再度首筋に触れ、斬られた粘膜を撫でる。

 前方ではコントのようなやり取りをしている五剣帝の二人。状況は不利といえる。


「あんた達と揉め事をしたい訳じゃない。だからその刀を納めてくれ。俺の名前はブットルだ、まずは話をしたい。俺はいきなり斬られる謂れはない筈だが?」


「ブットル? はて、どこかで聞いた名っ——なんだ?」

「爆発⁉︎」



 —————————————————————!!!!。



 コーガとサマリの言葉は大きな音と、地面の振動によって消えた。

 対峙していた三名は、平均感覚を奪われ地面に踏ん張る。

 突如として大きな爆破音と破壊音が色街の一画で発生した。

 爆発の後には黒煙がもうもうと上がっている。火事や地震ではない。振動があった事が証明されている。恐らく魔法である。


 色街の一画に破壊が訪れたのは、あまりにも唐突である。

 建物が崩れ、暴風が舞う砂塵が一画を覆う。

 崩れた一画はブットルの直ぐ近く、五剣帝の二人も突如訪れた破壊に面を食らっている。


 次には小規模な爆炎が辺りを包む。通りは叫び声と破壊音でひしめき合う。

 一般人が逃げ惑う。黒煙がもうもうと空に伸びるが雨によってそれは防がれる。


 黒煙の中から何者かが空中に飛び出した。

 長い金髪を手で押さえ騒ぐ群衆を見下ろし、何かを睨む。その顔すらも美しく見る者を魅了する。


「ティ、ティターニ!」


 ブットルは素っ頓狂な声が出てしまった。

 朝方まで一緒だった旅仲間が爆煙から飛び出し、空中にいたからだ。金髪のエルフは爆発の余波に巻き込まれた——ようではないようだ。


 ティターニの地面に向けていた手の平には、赤色の魔法陣が描かれていた。推測するに、火の魔法である。となると、犯人なのでは? と思うが、往来で魔法を使うなど愚の骨頂。

 被害を考えればまず普通はそんな事はしまい。憲兵にでも捕まってしまえば、牢獄のご厄介になる事は確実だろう。


 常識人であれば使用はしない。


 空中に漂うティターニはブットルを確認すると、あら? と近所で知り合いに遭遇したかのような、日常的な雰囲気を出しつつ着地した。


「奇遇ね。ブットル」


 長い金髪を手で払う所作も美しいが、それよりも淡々とした口調にブットルが難色を示す。

 破壊の元凶がおそらく目の前の人物であろうと、予測を立てる。


「にしても海国という場所は少し不快ね。海風で髪がベトついてしまうわ」


 どこか午後の休憩で紅茶を嗜む気品さを漂わせるティターニだが、その所作がとてもわざとらしく、あたかも——私は爆発とは関係ないわよ——といった思わせぶりな態度である。


 ブットルは何と言ってよいのか分からず口を開けたまま固まっている。

 ティターニは綾人の事を常識のない非常識人間のような事を言っているが、今のティターニは十分に非常識人間である。


「今の爆発——」


「それよりも、ブットルはどうしてここにいるのかしら? 何か探しもの?」


「ティターニ、さっきの爆発は——」


「綾人を探しにでも来たのかしら?」


「いや、ティターニ、そんな事よりさっきの爆発の犯人——」


「それともやっぱり、アレかあしら? 英雄と呼ばれる貴方でも所詮は男という事かしら?」


「いや、爆発の犯人はおまっ——」


「ちょっとちょっと。なあにその辛気臭い顔は、貴方が色街で楽しんでる事はバカ二人には黙っておくから安心なさい」


 少し悩ましげな顔をするティターニは——私は分かっているから——のような雰囲気を纏いだす。


 流石の天然蛙も、薄目になる。どこ吹く風で明後日を向くティターニ。

 その時、さらに大きな爆発が発生し色街を崩壊に導く。


「いたぞ! 犯人はあのエルフだ!」

「犯人がいたぞ! あの金色の髪のエルフだ!」

「集まれ、爆発の犯人のエルフがいたぞ!」


 ブットルの目がさらに薄目になる。


「コホン」と実にわざとらしい咳真似をするティターニは、少し悩んだ後に口を開く。


「——違うのよ」


 枕の言葉から怪しさ満点である。


「違うと言うのは?」


「この爆発は不可抗力だから。憲兵に捕まる事はないわ。堂々としていましょう。裁判のような場では常に堂々としていた方が印象が良いわ。協力していきましょう」


「いや、さりげなく巻き込まないでもらっていいか。というか、何があったんだ?」


「どうにも尾行されているような気になってしまってね。ここ三日ほどずうっとよ。私の美貌に当てられれば仕方ないかとも思ったけれども、どうにも視線が粘着質なのよね。海国について思うところがあったから色々調べていたのだけど、その度にどうもねばっこい視線を感じていたの」


 加害者の癖に被害者ぶる態度にブットルが難色を示す。

 遠回しに私は悪くない。という言い訳を聞き終わった後に、二人を囲むように憲兵らが集まりだしていた。


「不味いな」


「そうね。それもこれも全部綾人がいなくなったのと、魔人族の仕業かしら?」


「いや、どう考えてもティターニの爆発——」


「ブットル。男は小さな事に拘ってはダメよ。もっと大局を捉えていきましょう」


「大局を捉えても、爆発は捉えきれないぞ」


「ふっ。全然上手くないわよ、水王の二つ名が泣くわ」


「——なにをごちゃごちゃ言っているんだ貴様ら!!」


 若干溝が埋まった二人の会話に、五剣帝・五の剣。コーガ・モトブの怒号が飛んだ。


ペースアップしていきたい……

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