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賢狼


 ——あやと。


 ——あやと。


「んあ?」


 ——綾人。


 ——起きろ、綾人


「じ、爺ちゃん?」


「ようやく起きたか。綾人」


 目を開けると空上ジンがいた。

 柔和な笑みで綾人を見ている。

 祖父と孫の久々の対面である、お互い募る話——


「チッ!」


「あれ? 舌打ち? 孫に舌打ちされたような気がするけど気のせいかな? かな?」


 ——募る話など、どうやらないようである。


「かな? かな? じゃあねぇよクソ爺! なにまた出て来てんだよ⁉︎」


「いや、だってほら、儂って孫のピンチに現れる一番おいしいキャラじゃん。綾人キュンピンチじゃん?」


「爺にキュン呼ばわりとか萎えるから止めろや!」


 この孫にしてこの爺である。


「なんだよこの真っ暗な場所はよ」


 綾人の言う通りただただ真っ黒な空間が広がっている。地面もなければ空も無い。ただ黒一色だ。


「場所なんてどうでもいいわ。それよりも、綾人よ——」


 真っ黒な空間で座り込む綾人に、ジンは近づき同じ目線となる。


「な、なんだよ、爺ちゃん?」


 ——賢狼——。


 空上ジンは若かりし頃、そう呼ばれていた。

 高い知性。絆を尊び、何よりも喧嘩の強さがジンがそう呼ばれていた理由である。

 老いたとはいえ賢狼の鋭い眼差しは健在である。

 いささか身をよじり、綾人は少しばかり緊張した。

 子供の頃に悪さをして叱られた、あの時のように、体が硬直する。


 やはり綾人の中では空上ジンという存在はどこか特別な存在なのであろう。


 綾人はジンから発せられる重々しい空気を肌で感じる。 

 賢狼はゆっくりと口を開いた。


「あのTSっ娘は、狙い目だぞ」


「はっ?」


 ジンはにっこりと微笑む。にっこりと——。


「銀髪褐色のエルフも十分に可能性は有る——」


「おい、爺——」


「凛ちゃんは大丈夫じゃ。儂が保証する。あれはえぇ娘やぞ〜男を立てる素養がある。しかもあの可愛さ。二万点じゃな」


「爺、いい加減黙れよ。お前の頭の中は女の事しかねぇのかよ! 俺、孫だけどさ。俺、爺ちゃんの孫だけどさ、マジでちょっと、引いてるの分かる? 爺ちゃんキツイよ」


 ジンはもう一度にっこりと微笑む。


「きめぇ笑顔も止めろや!」


 祖父の顔面目掛けて、足裏を繰り出す孫。孫の蹴りを躱す祖父。


「なんじゃ。なんじゃ! 人が折角教えてやっとるのに、綾人キュンはうぶ過ぎて肩透かしじゃ!」


「キュンとか言うなや! 爺ちゃんマジでキモいわ」


「あっそ! そういう事言うんだ! じゃあもういいわ〜マル秘を伝えたかったのに、残念だわ〜じゃあ爺ちゃん帰るわ、残念じゃ綾人、儂のマル秘情報が聞けずに、あぁ〜残念!」


「もう、何めんどくさいな〜。早く教えてよ。どうせ前の時みたいにそれ聞かないと夢から覚めないんでしょう〜」


 精神年齢でいえば同じなのだろう。

 綾人は前にあった——ミストルティンを思い出し、げんなりする。

 それを尻目にジンは嬉々とした表情で——あれ? やっぱり知りたい? 知りたくなっちゃった? ——などの言葉で煽りまくる。


「聞きたい聞きたい! 早く教えてお爺ちゃま! 聞きた〜い!」


「そんなに知りたいなら教えてあげるわ綾人キュン」


 ジンは綾人の元に近づき、再び賢狼の表情となる。


 またしても空気がひりつく。

 今までのは全部フリ(・・)だったのかと察する。

 賢狼の目をジツと見返す綾人の顔も引きしまる。

 祖父はゆっくりと口を開いた。


「あの黒い鎧の女がおったやろ、初めてはああいうリードしてくれるタイプの方が——」


「死ねクソが!」


「うそうそゴメンて綾人キュン。天使天使、まずは天使の——」


 ジンの言葉は綾人の拳によって中断された——意識がゆっくりと覚醒する。


「胸クソ夢だわ」


 ——夢から覚めた綾人は見知らぬ天井を睨みつけるように起き上がった。


「どこだ、ここ?」


 辺りを見渡すと宿の一室である。

 まどろむ頭で状況を整理するが、何故自分がここにいるのか思い出せない。

 窓の外は快晴であり、陽の光が綾人と部屋を照らし眠気を誘う。大きな欠伸をして二度寝をしだす。

 綾人の中では状況の整理よりも、惰眠をむさぼる事が最優先であった。


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