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剣とか魔法とかチートとか関係ねぇ男なら拳で語れ  作者: 木村テニス
一章~その男巻き込まれ体質につき~
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口は悪いが器量よし

 何かが俺を襲う、何かから必死に逃げる、何かを振りきれない、何かが笑っている、何かが俺を捕まえる、何かが俺を食い始める、何かは楽しそうだ、光が照らす、何かが俺を離す、何かが光に怒っている、光が俺の手を掴む、何かが叫ぶ、光が俺を救い上げる、何かが追ってくる、光は金色だ、何かが俺を睨む、何かがまた叫ぶ、金色が俺の耳を塞ぐ。



 綾人は目を開くと同時に強引に起き上がり空気を貪る。



 ――夢、か? なんて恐ろしい夢だ、自分が食われる夢とか笑えねぇぞ。


 汗で湿る体はひどく気持ちが悪く、首もとにベッタリと流れる汗を掌で拭っていると。



「あら、起きたのね」と声をかけられた。



「へ?」



 キョロキョロと辺りを探すと、後ろよ。とまた声がする。


 振り返ると華奢な少女が立っていた。



「随分うなされてたから、一応回復魔法はかけておいたけど」



「えっ、あぁ。んんっ?」



 頭を半分下げた所で気付いた綾人はもう一度少女を見る。そして周りの景色を見る。



「おぉ! おぉ! みえる! みえる! みえるぞ~!!!」



 綾人は立ち上がり叫んだ。一頻り喜んだ後にペタペタと自分の身体を触りだし異常無し! と大声で叫ぶ。次に周囲をせわしなく見回したあとに。



「ルードォォォォォォ!!」と叫んだ。



 その光景を一部始終眺めていた少女は、とんでもないバカを助けてしまったかも知れないと後悔する。綾人は少女に近付き。



「なぁあんた、ここに鰐が倒れてなかったか? いや正確には龍なんだけど、って言っても見た目は二足歩行の鰐だけど。俺と一緒に倒れて、ってすまんあんた俺を助けてくれたんだよな!? ありがとう恩にきるよ、ナマステ~。で鰐なんたけど、ってその前にここは何処だ?

夜だからよく分かんねぇな? あのくそ島じゃねぇのは確かだ、良かった~。あっ焚き火だ! 其よりも俺の目って今どうなってる爬虫類っぽくない? 大丈夫? あとあと……」



「黙りなさい」



 終わらないマシンガントークを、少女は無表情のまま一言で止めた。



「今は夜よ。さっきからバカみたいに大声を出して魔物が寄ってきたらどうするの? 少しは考えなさい」



 今まで会ったことも無いタイプの女性に、綾人は少々物怖じする。



「さ、さーせん」確かに興奮し過ぎたなと思い素直に反省する。



「分かればいいのよ」



 語尾が刀の切れ味のような少女は嘆息を吐く。


 華奢な少女はスラリと手足が長く背も高い。綾人からすればちゃんと飯食ってんのか? と思うが女性から見れば圧倒的なプロポーションの良さだ。


 透き通る白い肌に整いすぎた顔立ちには、翠色の目がよく似合っている。


 少女の耳は長く先が尖り、真ん中から分けられた金色の長い髪が、時折長い耳を隠していた。


 そこにある人間離れした美しさに、綾人は綺麗だなと。月並みな感想を抱いた。



「とりあえず元気そうで何よりね。では縁があったらまた会いましょう。さようなら」



 少女は言うが早いか、そそくさと身支度を始める。


 焚き火を消し荷物をポーチに入れ綾人に背を向け歩きだす。


 ああいうバカには関わらないのが一番と足早に去る。それに、と少女は足を止め綾人を見る。


 あの内側に合ったものは呪いに近い何か、少女は歩みを再開する。



 が、「お~い、こんななんにも無いところに置いてくなよ、どっか街とかに案内してくれ。街まででいいから案内頼む、着いたらそっこーさよならしていいんで、ホント、お願いします、着いたらすぐ離れるから、ホント、すぐ、すぐだから、ホント、先っぽだけだから」



「最後のフレーズに酷く貴方という存在の稚拙さを物語るほど嫌悪感を感じたのだけど、どういう意味?」


 言い終わった後に視線を明後日の方向に向ける少女。舌打ちし背に担ぐ弓を手にし矢を持つ。


 先にある暗闇をじっと見つめる、空気の振動から多くの情報を得ようと少女は集中する。


 先の尖った耳が敵の数、位置、姿、強さを確認する度にピクピクと動く。


 弓を構え矢を目一杯引くとギリギリと音が鳴る。一拍置き矢を射る。



 数秒後に聞こえた魔物の断末魔が闇に吸い込まれる、寸分違わぬ動作でもう一度弓を引く、もう一度引く、更に引く。


 都合四度の断末魔が上がると、綾人にもようやく何が襲ってきたか見え始める。



「あれ何?」



「ヘルタードラゴンよ知らないの?」



 地面を這いながら迫ってくるのは、全長五メートルの魔物。


 頭部に大きな角があり多足を動かしわらわらと迫る、蜥蜴の顔、百足の足、蜘蛛の胴体を混ぜたような外形をしておりその見た目は。



「気持ちわりぃ」の一言に尽きる。



 綾人の言葉を聞かずに、少女は二振りの短剣を持ちヘルタードラゴンに駆け寄る。


 少女の接近にヘルタードラゴンは大口を開け鋭い犬歯を剥き出しにし閉じる。


 獲物を捕らえられずガチンと虚しい音が響くと同時に、首元に赤い線が生まれズルリと落ちる頭部。


 短剣が血を吸い込み次の獲物を寄越せと要求する。


 後ろから迫るヘルタードラゴンは何本もの長い前足で少女を捕まえようと立ち上がる、が次の瞬間には胴体が切断されており間抜けた姿のまま地面に倒れる。



 少女の唇が動く。



 別の角度から角で串刺しを狙うヘルタードラゴンの下方に青色の魔方陣が現れる。


 魔法陣と同時に野太い氷柱が地面から現れ、獲物を串刺しにする。


 少女は舞う、右手に持つ黒い短剣は魔物の血と肉を裂き、左手に持つ白い短剣で臓物を外部へと飛び散らせる、少女はこの場に置いて誰も逆らえない、絶対的な女王になる。



「キシャキシャキシャャャャャ!!」



 一匹のヘルタードラゴンが死の恐怖から少女に迫るのを止め、別の獲物目掛けて走り出す。



「あ」少女が振り向くと、人間が阿保な表情をしたまま恐怖の為か動けずに立っていた。


 助ける事はしない、少女の育った村では、自分の身は自分で守るというのが鉄の掟だからだ。


 逃げるなり殺されるなりお好きにどうぞ、と呟き最後の一匹を砂塵に変える。



「……キモいのが明らかに俺を狙ってるな」



 涎を滴ながら迫るヘルタードラゴンの顔は、蜥蜴がベースになっている為少なからず思い出す。



「聞けキモいの! 俺の命の恩人はなお前と同じような爬虫類系の顔だ、そいつの血を貰った俺はある意味お前らとは兄弟だ、だから似たような奴をぶっ飛ばす気にはなれねぇ。殺るなら殺れよ!」



 綾人の言葉を理解しているのかいないのかは別として、大口を開け補食の準備を開始する。



「って嘘じゃボケェ! 擬似同族嫌悪(天上天下唯我独尊)



 豪快なアッパーカットを下顎にくらい、遥上空に飛ぶヘルタードラゴンは地面に落ちると同時に砂塵になる。



「な……」



 一部始終を見ていた少女は綺麗な顔を大いに歪める。



 ――な、何、今の?


 少女からすれば有り得ない事が起きた。

群れで動くヘルタードラゴンは推定Lv30前後、馴れている者達であればパーティーを組んで、経験が少ない者であれば小隊を作り万全の状態で対峙するのがセオリーだ。


 本来ならば決して一人(・・)では対峙しない、だが目の前の男は一人で倒した、それもただ殴っただけ。



 ――もしかして結構強いのかしら?



 不思議な格好の人間に少女は興味を抱く。


 戦闘が終わり一息ついた所で、お互いが歩み寄る。少しの間を置いた後に。



「貴方、名前は?」



「ミ……空上綾人」



「ミ空上綾人ね、私の名前はティターニよ、不躾なお願いではあるのだけれど、ステータスプレートを見せてくれないかしら?」



「ミはいらない、ミはいらないから! 空上だけ!」



 ティターニは綾人をジロジロと観察しだす。



 ――若いわね、背は私と同じ位、変な格好は置いといて、随分間抜けた面構えだけど、まぁ悪くは無いわね、外見は特に変わった所は無い、やはり。


 と思い綾人の胸の辺りを見る。


 ――この私が言い様の無い不安に襲われるなんて。


 ティターニは綾人の内側を感じようとすると、胸がざわつき始める。みたら最後と思わせる何かがある為、そっと目線を外す。



「ステータスオープン」



 やる気の無い声と同時に現れた銀色のプレート、綾瀬は手に取り差し出す。



「ほらよ」



 ティターニは翠色の目を閉じ嘆息する。



「普通はステータスを見せろと言われて、素直に見せるバカはいないわ、自ら手の内を晒すのと同じ事よ、そんな事をする人間なんていないしそいつは只のバカよ、ごめんなさいここにいたわね。

本来ステータスは見せ合うものよ。他人同士なら尚更、個人のステータスはお金にもなる。

強ければ強い程値段も上がる、自分自身の情報というのは何よりも貴重よ覚えておきなさい。

貴方がバカというのは十分に理解したわバカミ空上綾人」



 言い終えた後、ティターニはステータスオープンとため息混じりに呟き、綾人に銀色のプレートを差し出す。



「お前さ」



「お前じゃないわ、ティターニよ」



「ティターニってさ」



「何」



「友達いないでしょ?」



「……」



 綾人の言葉を無視して、ティターニは銀色のプレートを眺めた。




 ーーー



 ――何これ……。



 ~~~~~~~~~~

 名前 ティターニ・L

 ジョブ:暴蘭士(ぼうらんし)

 Lv 78

 力:579

 耐久:380

 器用:879

 俊敏:723

 魔力:999


 スキル :弓術・短剣術・剣術・槍術・斧術・照射・投擲・ステータス向上・全属性魔法適正・魔力上昇・全属性魔法威力上昇・全属性魔法耐性・詠唱省略・魔法発動後縛り排除・自動回復・魔力自動回復・気配感知・魔力感知・戦意高揚・鷹の目・夜目・剛力・刮目・魅了・羅刹・森羅万象・神威・絶対女王

 ~~~~~~~~~~



 ――何これ……。



 ~~~~~~~~~~

 名前 空上綾人

 ジョブ:天上天下唯我独尊

 Lv 9

 力:190

 耐久:190

 器用:0

 俊敏:190

 魔力:0


 スキル :男道・ステータス向上・言語共通

 ~~~~~~~~~~



 顔を見合せもう一度プレートを食い入るように眺める二人。先に口を開いたのはティターニ。



「色々と言いたいことはあるわね、そうね。

これだけ言いたいことがあると、どれから言えばいいか分からないわね、そうね。まず、いえ、ちょっと待って、まずこっちから先に聞きましょう、そうしましょう。

ジョブの欄にある漢字の羅列は何? ふざけてるの? 初めて見たはこんなの、ふざけてるとしか言いようがないわね、バカでふざけてるって救いようが無いわよ?」



「お前ほんと口悪いな」



「お前じゃないわ、ティターニよ」



 ティターニは大いに混乱している。

基本的に喜怒哀楽が殆ど無いティターニは、今自分が混乱してることに混乱している、結果何を喋ってるのかも良く分からない状態になっている。


 これ程までに感情が揺れるのは何年振りだろうか。


 自身でも驚いているのが混乱に拍車を掛ける、口が悪いのは生まれつきだ。



「天上天下唯我独尊ってジョブは俺にも分かんねぇよ、知ってる奴が居たら教えて欲しいわ!」



 そう、と答えたティターニはまたプレートを眺め、



「次にこのステータスの高さね、Lvに対して余りにもバカ高いのはなぜ? バカ高いのバカと貴方自身のバカが合わさるとこういう数値になるのかしら? 一番の疑問はLv9でヘルタードラゴンを倒したというバカみたいな所業ね、しかも素手で、しかも一撃で、いくらバカバカしいステータス数値だからといってこの事が一番バカげてるわ。是非理由を知りたいわ、教えてバカ?」



「バカバカバカバカうるせぇよ! 何だよお前は会話の中にバカって付けなきゃ死ぬ病気とかなの!? よくそこまで人をバカバカ言えるな! 会話のキャッチボール中に毒針仕込むの止めろや!」



「お前じゃないわ、ティターニよ」



「もう、いいよそのくだりは! ってちょっと待て、Lv9って言ったか?」



 ティターニから自分のプレートを取り上げ、確認する綾人はおお! と声を上げた。



「あのキモいの倒したらLv9になったかチョロいなLv上げは」



 その言葉にティターニがひっかかる、



「ちょっと待ってバカ()、Lv9になった? ヘルタードラゴンを倒す前のLvは幾つだったの?」



「待て、バカ()は止めようバカと名前を合わせるのは止めよう」



 いいから答えなさい、と睨むティターニに



「あんだよ、Lv1だよ!」



 と返す綾人、ティターニは軽い頭痛を覚える。その後は、歩きながらティターニと会話する。



「だから秘密も何もねぇよ、体が熱くなって気合い入れて殴っただけだって」



「バカに合理的な説明を求めた私がバカだったわ……」



「お前ホントに」



「お前じゃないわ、ティターニよ」



 とか。



「日本? 人間族にそんな領土無かったと思うけれど……日本というのは人間族のどの当たりにあるのかしら? オーラン共和国? それとも軍事国家のレギランス帝国かしら?」



「何処にもねぇよ、日本は地球にあるんだって、この世界には無いよ、俺あれだから異世界人だから、違う世界から転移してこの世界に来たから」



「ちょっと待って、中々に聞き流せないワードが色々出てきたわね、違う世界と言ったかしら? 貴方はデンバース以外の世界から来たの?」



「だからそうだって! 何回も言わせんなよ」



「……ちょっと規格外過ぎるわね」



 とか。



「無一文なの?」



「一円もねぇ」



「呆れたわね」



「そういやこの世界も金の単位は円なんだな? 曜日とか時間はどうなってんだろ」



「綾人のスキル欄に言語共通っていうのがあるでしょ。そのスキルは他人の概念を自分側に引き寄せ共通させるスキルよ。

言語や物事を自分の中で都合の良いように置き換えてくれるという訳、そのスキルが無かったら私と綾人は会話にすらならないわ」



「便利だな」



「異世界人にはありがたいスキルね」



 とか



「そういや何処に向かってんだ?」



「ミストルティンという街よ多種多様な種族が暮らす唯一の街」



「多種多様って言うとあれか、亜人族とかか?」



「そうよ、海人族や精霊族、魔人族、他にも色々入るわよ」



「魔人族? そいつらってこの世界では悪者じゃなかったっけ?」



「悪者には悪者だけれど、全員が全員そうとは限らないわ、中には心優しい魔人族もいる。

 ミストルティンはそういった、世界の思想に馴染めなかった者が集まる場所なのよ」



「ふ~ん」



 歩きながら綾人とティターニは、尽きることの無い会話を続ける。


 綾人からこの世界に来た事情や、魔人族が悪魔を召喚して、デンバースを滅ぼそうとしている話を聞いたティターニは。



「まるで質の悪い伝記のような話ね」と皮肉を言い。


「でもその話が本当なら綾人は英雄なのね」と小さく微笑する。


 初めて見た笑顔に綾人は面を食らう、あまり表情の変化が無いティターニは基本仏頂面だ、故に(こいつ笑えるんだ)そう思ってしまう。


 そしてその笑顔はとんでもない破壊力を持っており。



「どうしたの?」



「な、なんでもねぇよ!」



 直視できない程ティターニの笑顔は綾人には危険なものだった。


 夜通し歩いた二人はようやく多種多様な種族が暮らす街、ミストルティンに到着する。

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