戦い⑤
騎士団と斗真一行も勿論困惑している。
次々に魔物を狩る人物は一体何者なのか?
それぞれが応戦しながらも、様子を伺う。
その隙を伺い、あの厄介な魔物の槍が襲う。
「翔!」「翔ちゃん!」「翔さん」
乱入者に意識を持って行かれた翔にスクルスの槍が襲う。
咄嗟であった、数秒後には翔の頭蓋を貫通するだろう。
翔自身もそう感じたが——それを止めたのは。
「斗真!」
勇者である。
槍の一撃を防ぎ、さらには一刀両断で始末する。
再生を防ぐために幾重もの切り傷がスクルスの体に刻み込まれていた。
だが、斗真当人は浮かない顔で視線を動かす。
そこにいたのは——。
「なるほど。その剣を持っているという事は君が噂の勇者様なのですね」
柔和な笑みのアルスが立っていた。
「あ、ありがとうございます」
「どういたしまて」
勇者と王子の会話に周囲は首を傾げる。
分かる者は分かる事だ。
翔を助けたのは斗真ではなくアルスである。
「勇者様。魔物の駆逐に助勢させていただきます」
「は、はい」
斗真とアルスの会話は短く終わり戦闘が開始された。
「さて、サクッと終わらせようか」
アルスはそう呟く。
魔物の数を考えれば、そんな言葉はそうそう出るものではない。
だが、アルスの口からなんの躊躇いもなく零れ出た言葉である。
「一の剣 火鱗」
アルスが腕を横薙ぎに振るうと火炎が発生する。
火の範囲は広く多くの魔物を焼いていく。
振るわれた手には一振りの剣が握られていた。
それは原色の赤に長年漬けたように、全てが赤々としていた無骨な剣である。
「二の剣 水孤」
アルスの次攻撃。
今度は腕を振り下ろすと、狐が現れる。だがそれは水でできた狐である。
水狐は自身の身体に波を立たせながら燃える大森林を火を消していく。
次いで火脹れする魔物を次々に体内に収めると、魔物の体は火ともに水狐の体内で消えていく。
振り下ろされたアルスの手には赤々とした剣ではなく。
水色で美しい細剣が握られていた。
「三の剣 木蓮」
水狐で小型の魔物が一層された後、アルスの標的はヒュドムに向く。
胸の位置で両腕を交差させ真横に振るう。
握られているのは水色の細剣ではなく。茶色い二振りの短剣であった。
ヒュドムの足元から小さな芽が、焼けた地面から顔を出す。
芽はぐんぐんと伸び、緑を増やしと、やがて大きな一本の木となった。
木は成長の過程でヒュドムの体を巻き取りとった為、木と魔物が混然となっている。
木と同体になったヒュドムは身動きできない体に焦れ、七つの口から炎を吐き、緑を燃やす。
木は燃えるが直ぐに新しい緑が生まれ、枝が分かれては伸びる為、一本の木の形状は変わらない。
ヒュドムは敵対するアルスに威嚇の咆哮を放つ。
超大型の魔物の咆哮は、直撃すれば死ぬことすらある。
現に周囲の者達は耳を塞ぎ、その衝撃に耐えている。
「四の剣 風猫」
だが向けられた当の本人は何処吹く風で、次の一手を繰り出す。
胸に掲げられた腕を空へと伸ばす。
手には短剣ではなく、レイピアが握られていた。
風が吹く。
さして気にする程でもないが、技を受けたヒュドムは既に息絶えていた。
木と同化していたヒュドムの体は細切れになっており。
肉片がぼとぼとと地面に落ちる音だけが微風に乗り、周囲の者の耳に届いた。
「危ない!」
斗真はアルスの危機に声を上げ、剣を振るう。
それは、スクルスの攻撃である。
アルスが次々と魔物を狩る姿を見て危険と判断したスクルスは、その無骨な槍を投擲しアルスの命を狙うがそれは斗真の一撃で避けられた。
「ありがとう勇者殿。厄介なスクルスの数が多いですね。よし! 勇者殿。私の周囲から離れてださい。一気に片付けます」
その言葉に斗真は理解が遅れた。
「さぁ、お早く」
柔和な笑みで微笑みかけられ斗真はまたしても判断に迷う。
「お主が勇者か? 随分と若いの」
視界が一瞬だけ暗転すると、目の前には小人族の老人の姿があった。
視線を転じると先ほどまで自分が立っていた。箇所に目が行く。
そこにはスクルスに囲まれるアルスの姿があった。
アルスの周囲には誰もいない、何も無い。
「安心せい勇者よ、王子はアレをやるつもりなのじゃろ、故に我に合図を送り、周囲の者達を遠ざけた」
助け出そうとした斗真だったが、その一言で思いとどまる。
「ほれ、使いよる。この戦はもう終りじゃわ」
アルスの周囲が黒に染まる。
「九の剣 闇柊」
腕を胸の位置で横薙ぎに振る。
アルスの手には何も握られていない。
手の平の周囲だけが僅かに、黒く歪んでいた。陽炎のようにぼんやりと。
そして大森林での戦闘は終わりを迎えた。
凝視していた斗真には、アルスが死神が鎌を振るったように見えた。




