こっちはこっちで
亜人三英雄は多種族との戦いにおいて負けることは死と同義。
三英雄の条約である一つを思い出し、戦闘中には余計だと思考から追い出す。
今までも危険な戦いは何度もあった。死ぬ思いも何度もした、だが死なずにどんな窮地も切り抜けてきたし、これからもそうであろうと考える。
故に目の前のエルフもいつものように戦うだけ。そう考え白い体毛を震わせる。それは恐怖ではなく勝利の反復行動の為に。
興奮の為かいつもより毛が震えたのは気付いていない。兎族のキャロは美醜と呼ぶに相応しい笑顔でダガーをふるう。
戦闘中にも関わらず、目の前に幼いころの自分が悲しげな顔で首を左右に振っている。くだらない。と一笑し小さな白兎の幻覚を足で蹴散らす。
亜人三英雄のキャロは、何者も信じないし屈しない、例えそれが過去の自分でも。胸中でそう叫けんだ自分が珍しく高揚していると気付き、可笑しくなり喉をならした。
短剣とダガーの撃ち合いは互角に渡る。
強者二人の周囲には誰も近寄れずに、上空から見るとその場だけポッカリと穴があいた状態になっている。
ティターニは近距離での斬り合いをやめ距離を取る。素早く二振りの短剣を腰鞘に収め、弓を取り矢を連続で放つ。
当然のようにキャロは矢を躱し、回避が追いつかない場合は手に持つ小ぶりなダガーで打ち落としていく。
ティターニは内心で「でしょうね」とつぶやきながら周囲を確認する。
弓を引いたのはあくまで時間稼ぎ。目的は距離を置き周囲の様子を確認する為。つい先程まで喧騒に満ちていた中央広場の亜人達が、妙に静かなことに眉をひそめる。
何らかの形で状況が動いたと予測し、エアリアに思念魔法で確認しようと試みる。
が、「ねぇ? さっきから様子見ばっかりでつまらないんですけど」
横目で状況を確認していた一、二秒の間に距離を詰められ言葉と共にダガーの突きもらう。頭を振り回避するが、首筋には血が滲み白肌に赤の色彩が加わる。
「あなた、しつこいし本当に邪魔ね。お願いだからどこかに消えてくれないかしら?」
弓を捨て瞬時に短剣で応戦する。冷静につげたティターニだが声音は固い。何故なら目の前の兎族の女は強くて素早く、決して逃げられないからだ、そして何よりもキャロは――
「つれないこは言わないで、ってか言わせ〜い☆★」
「……その言葉尻が阿呆のようになるの本当にやめて頂戴。聞いているだけで耳に蛆が湧いてきそうだわ」
「え〜なんでなんで? これすっごく可愛いじゃん☆★甘えたようにやると男受け抜群だよ★☆」
「……興味ないわね、えぇ。本当に興味が無いわ」
語尾にきゃるるん☆★と音が鳴りそうなキャロの言葉使いに、ティターニの秀麗な顔が苦虫を千匹ほど噛んだような相貌に変わる。生理的にこの女とは合わない。そう感じていた。
「とりあえず死んで」
強引に距離をとったティターニの両肘から先が黒く変色する。赤い血管が痛々しいほどに腫れ脈動していく。まなじりを上げ変化した両腕をふるう。
スキル:羅刹
効果:絶対的な一撃で相手の命を奪う、奪われた命は悪鬼により永遠に弄ばれる。
ティターニ必殺の一撃は、三日月型の赤黒い斬撃に姿を変えキャロを襲う。
「あは! やっとやる気になったのかな? じゃあキャロちゃんも本気だそっかな☆★」
全長三メートルの斬撃がキャロを襲うが、本人は慌てた様子はなく。むしろ喜んでいるようにも見える。
「出ておいで〜」
キャロに足元に現れたのは灰色の魔法陣。
キャロの背後が揺らめく。次に空間を曲がり、黒々と色を変える。瞬時に現れたのは五メートルサイズの門。黒く重々しい門はひび割れや、傷が目立つ。どこの言葉とも判別しかねる文字が扉一面に刻まれており、乾いて変色した血や鮮血の赤が前衛芸術の如く散らされている。
門が左右に開くと中は黒の伽藍堂。先が見えない闇にティターニの危機感知が警告を鳴らす。だが必殺のスキル羅刹はキャロの目の前に迫っている。
これがティターニにわずかな油断を生ませた。
門に気をとられていると左右の両肩。軽装の鎧が破壊され肩口から血が噴出した。
「なっ!」
なに? そう言おうとしたが先が言えない、それよりも次の一撃を躱せと脳内が告げている。本能に従って短剣を目の前で交差させる。
直後に短剣に重く響く一撃。だが衝撃のみで攻撃した正体は不明。ティターニの視界は敵の姿を捉えていない。前方には自らが飛ばした斬撃と標的のキャロしかいない。だが確実に一撃はもらった。
その一撃は巨大ハンマーで殴られたような感覚。不可視の一撃に舌打ちをし痺れた両腕に堪らずに後方へと跳躍する。
視線を前方に定める。羅刹の斬撃はキャロの鼻先で止まりあらがうように暴れている。キャロは今だに一歩も動いておらず、ただただ楽しそうな笑顔でティターニを見つめている。
不可解な顔のティターニに満足すると羅刹に、ふっ。と息を送り込む。
赤黒い斬撃はキャロの吐息に溶かされるように消えてなくなり、羅刹に宿る悪鬼の気狂いな叫が――ひび割れた老婆のような、ともすれば子供のような断末魔が――辺りに響いた。
キャロの後ろには気味の悪い門は開いたまま、こっちへおいで、こっちへおいでと闇を覗かせている。
鼻息を一つした後にティターニは門を見上げる。一度呼吸を整えた後に予想を口にする。
「あなた召喚士なの?」
「んふふ〜教えな〜い。私には戦闘系のスキルは無いけど特殊魔法と固有スキルがあるってのがヒントかな。仮に後方タイプの召喚士だとしてもこの戦闘技術の高さ! キャロちゃんってばほんと天才だよね☆★」
「あっそ」
視線を左右に流し不可視の攻撃に警戒するティターニに剛風が吹き荒れる。美しく長い金髪や軽装鎧の衣服部分がせわしなく逆立ち、ティターニが短剣を上空に構えると同時に体全体が白く輝き出す。
スキル:神威
効果:使用者には絶対無比の一撃が授けられる、神の威である一撃は全ての勝利を約束する。
下方に落とされた二振りの短剣からは黄金の光が飛び出す。一直線に伸びる光りの弾道を表すならば、超強度X線自由電子レーザー集光ビームのようなもの。
「あら? これはヤバそうね」
審判の光にも似た神々しい輝きに照らせれながら、どこか楽しげにそうつぶやくキャロは、回避行動をとる素振りも無い。
「お願いね☆★」
目が眩むほどの光りで周囲を確認できないが、キャロの鼻先で必殺のスキルが止まっているのが分かった。相手に当たっていないのは発動した本人故に分かること。
予想通りとはいえ神威を止められたことに、憤りをかんじつつ目を凝らす。不可視の正体を見極める為に。
ティターニがとらえたのは空間の歪曲。
門から光の弾道までの空間が歪み、戻り、また歪むというのが繰り返されている。おそらくと予想をたてる。
常人には目に追えぬ速さで次から次えと門から何かが飛び出してい行き、光りに向かって体当たりし消滅していく。物理的に数の力で神威を相殺している。
ありえないことだが、目の前でやられている為否定ができない。
ありえない事がもう一つ。
仮に門から飛び出す何かが召喚士が使役した召喚者、もしくは召喚獣でも、自らの命を奪われる為に召喚されるなど聞いたことがない。
今だに判別がつかないティターニだったが、駆けた。正体が掴めない以上は動くのは得策ではないと分かりつつも、足を前に出し走った。直接キャロに攻撃して正体を確かめようと考えたからだ。
――昔の私ならこんな大胆な行動はとらないのに、すっかりどこかのバカに当てられたようね。危険だけど時間をかけてはいられない。
慎重派のティターニにはあり得ない行動だったが、この一撃が思わぬ成果をもたらす。
神威は弱りつつあるが、まだキャロを狙い続けている。光に隠れ一気に間合いをつめるティターニ。
キャロは不可視な攻撃に警戒しティターニはその場にいると予想していた。故に唐突に真横に現れて剣を掲げる金髪のエルフに面をくらう。
右手に持つ短剣の切っ先が上方からキャロの頭上に落ちる。
ダガーで受けようと体制を変えるが、ティターニの早業には及ばない。
――とった。
この時勝利は確実であったが、邪魔者が入る。予想はしていたができすぎた筋書きにティターニは顔を歪め、邪魔者を足蹴に宙を舞い一度離れる。
神威は完全に消え、辺りに景色の色が戻っていき。ようやく邪魔者の正体が判明する。
「ちぇ〜。不可視の魔法と固有スキルの重ねがけで、何者か分からない者に殺される。っていうほうがキャロちゃん的には好みなんだけどな〜。なんでこの魔法って触れるのはよくて、触れられると解除されるんだろ」
「なるほど、特殊魔法である不可視の魔法のせいで、正体が見えなかったのね。貴女の性格にピッタリな蛆虫のやり口ね」
「んふ☆★必死だったくせに」
門から続々と現たのは黒いボロ布を頭からかぶった人骨の集団。人骨達はときおりボロの隙間から骨をのぞかせながら、わらわらとキャロを守るように群がり出す。
白骨の手には鎌、剣、槍、斧、槌などを持ち身構えている。
「紹介するね☆★我が精鋭部隊、骸骨兎軍団!」
主人の声に反応するように百に近い人骨の群が足踏みし武器を掲げ出す。
「……どうでもいいけど、そのお面は悪趣味よ」
わらわら動く骨の顔にはピンク色の可愛い兎のお面が飾られていた。
名前 ティターニ・L
ジョブ:暴蘭士
Lv 78
力:579
耐久:380
器用:879
俊敏:723
魔力:999
スキル :弓術・短剣術・剣術・槍術・斧術・照射・投擲・ステータス向上・全属性魔法適正・魔力上昇・全属性魔法威力上昇・全属性魔法耐性・詠唱省略・魔法発動後縛り排除・自動回復・魔力自動回復・気配感知・魔力感知・戦意高揚・鷹の目・夜目・剛力・刮目・魅了・羅刹・森羅万象・神威・絶対女王




