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精霊族の事情と内情

 時間は遡る。凛とサクゴウの処刑日前日の夜。


 深い睡眠から強引に起こされた感覚に陥る二人と一匹。目を開けると目の前の光景が変わっていた。


 ミストルティンギルドの仮眠室ではなく、乱雑に並ぶ木々の群れと、行儀よく生える草花達。


 深い暗闇が空を覆っているが、嘆息すら出る星の煌めきは、押さえられている闇すらも、輝く一面に陶酔しきっている。



「顔を合わせての会話は初めてですね」



 声を出した人物は愛らしい微笑みで目の高さに浮いていた。


 背中から飛び出すのは、空を駈ける者である証拠がその存在を主張している。薄い極才色が光る蝶々を思わせる羽。


 身の丈は成人男性の肘から指先ほど、上質な絹の衣服を纏う彼女は、精霊という呼び名に相違ない出で立ちをしていた。



「エアリアです。お名前を頂戴してよろしいですか?」



 深緑色の髪を揺らし、一礼するエアリア。潤んだ瞳も髪と同じ深緑。母性を感じさせる顔付きには、しっかりとした強い意思を感じる。



「綾人っす。しがないギター弾きです」



「ルード様だ、よろしくな!」



「綾人様とルード様ですね。よろしくお願いします。綾人様、ギター? というものは人間族が使う武具か何かでしょうか? それとも日本という元いた場所に伝わる貴重な宝物でしょうか? やはり異界の方との会話は知らない事ばかりで興味深いです。是非ギターなる物をのちほど説明して下さいませ」



「あ、えっと……はい」



 簡潔に自己紹介をする二人。適当なことを言い妙な誤解を与えたことを反省する綾人。ティターニは黙したまま辺りを警戒している。



「そちらのお嬢様。そう警戒なさらないで下さい。我々に他意はありませんので、よければお名前を教えて下さいませんか?」



 辺りを警戒しながらも、ティターニは名前だけを言い。開けた森の中であるこの場所を、鋭い眼差しで見つめだす。



「いやいや、すんませんね。エアリア先生。このエルフっ娘はシャイなあんちくしょうでして、でも根は良い奴なんで」



 なんとなく雰囲気が悪くなりそうな気配を察し、場を取り繕う綾人に「そうですか」と微笑むエアリア。微妙な空気が漂うなかで、綾人は気まずくなり場繋ぎの話題をふる。



「先生、ここはどこなんでしょうか?」



「あなた様、先生は付けなくて大丈夫ですよ。

エアリアと呼んでください、そちらのお二人も是非」



 言い終えたエアリアは、首を回し説明を始める。



「ここは精霊族の住処の一つです。どうぞくつろいで下さいませ」



 その言葉がティターニの琴線に触れ、刺のある視線と言葉がとびだす。



「これから戦争をしにいというのに随分と悠長なのね? 相手の力量を知らないのかしら? あなた達は亜人族と戦争をするのでしょう? 

それをこんなままごとのような場所で過ごせと言われて、ハイそうですかと、素直に聞くバカはいないわ。戦争の準備はできているのかしら? 敵の数は? 不測の事態への対応策は? 移動手段は? 捕らわれている人達の状況と居場所は? 亜人族は戦争をどう立ち回るのか、少しでも情報は無いの? それすらも把握しないうちに休むだなんて、本気で言ってるのだとしたら、無知の賢者という呼び名が相応しい程に、愚かでバカバカしい事だわ」



 綾人とルードは急に膝の屈伸運動を始める、決してくつろぐ為に座ろうとしたのを誤魔化した訳では無い、決して無い。



「これは大変失礼致しました。少しでも体を休めてもらえればと思ったのですが、いらぬ配慮でしたね。申し訳ございません。我ら精霊族は準備の方は万全です。いつでも獣らを塵あくたに変える準備はできております。亜人族の力量、数、立ち回りは密偵からの報告で確認をしております。

移動手段は我等の転移魔法。捕らえられている者達は、別の情報者からの報告で確認済みです。不測の事態への対応策は、検討をしておりますが、再検討をし殊更に詰めてまいります」



 ティターニの辛辣たる言葉を真っ直ぐ受け、愚直に答えるエアリア。揺るがない意志が声に宿り、強い響きがさらに力強くなる。



「ですがあなた様方が関わる、救出の策は変更点がありますので説明させて頂きます」



 エアリアは言葉を一旦切り。しっかりと各々の目を見たあとに、言葉を続けた。



「まず凛や我々の同胞が捕らえられている場所は亜人族の本拠地、亜人帝国です。ここからだとかなり距離がありますが、我々の転移魔法を使えば数分で移動ができます。先程言いましたように、亜人帝国には我々と通じている内通者がいます。その者の情報によれば凛は明日の朝、処刑されるとの情報がもたらせれました」



 クラスメイトの処刑という言葉に眉をひそめる綾人。その様子を横目で確認するティターニ。ルードは思案顔をしている。



「実に腹立たしい事ですが、なぜ凛が処刑されるのかは不明です。凛を処刑し、士気を上げ、我々との戦争に挑むとの情報しか得られませんでした。ですので当初の策であった、戦争中のどさくさにまぎれて凛を助け出すとの策、これは不可能になりました。なので変更致します」



 雄弁に語るエアリアだが、漏れる言葉の節々からは、凛への懸念と亜人族への敵意が溢れている。



「変更の策をお伝えします。凛と同胞達は奴隷館という場所に捕らわれている事が判明しております。奴隷館の場所もだいたいの位置はこちらで把握しています。まずあなた様方は、今から私と一緒に転移し亜人帝国に乗り込みます。

私、綾人様、ルード様、ティターニ様、この四人で奴隷館を見つけ出し、凛と同胞を救いだす。邪魔になるようなら、奴隷館は消滅しようと考えております。助け出したあとは、転移でまたこの場に戻ってくる。

その際、敵の反撃を受けるかもしれませんが、転移魔法を紡ぎながらでも私は戦闘が可能性な為、皆様のお命は必ず私がお守りします。如何でしょうか?」



 エアリアは急に空を見上げた。つられて二人と一匹も空を見上げる。



「幸いこの夜は、いつもの夜より色濃い暗闇が空を覆っています。暗闇に紛れ実行するにはうってつけかと。安直な策かも知れませんが、シンプルに事を成せば、何よりも早い結果が返ってくると思っております」



 綾人は一度エアリアを見る。話す声はどこまでも真剣な訴え、疑う気すら無い綾人は首を縦にふる。勝手に了承した事に、ティターニとルードが何か言っているが、二人の小言を無視する綾人。


 それは奴隷館と言う言葉の響きが、綾人の心内を胸糞悪くしていた為だ。



「おっけ! そうと決まればとっとと行こうぜ先生! 早い話が敵の懐に忍び込んで、バレないように助け出せばいんだろ? スパイみたいでやりがいあんぜ」



 綾人の言葉にティターニのこめかみに青筋が立つ。



「少し黙ってなさい! 綾人はこれ以上何も喋らないで、バカが知恵を巡らせるのは苦手というのは知っていたけども、何というか、言葉もでないわ」



 ティターニはエアリアを見据える。目の前に浮く精霊からは、そこはかとなく強者の風格がある。



 ――もしかして、私より強い? まぁそれは無いと思うけど……確かめてみたいわね、でも今はそれ所じゃない、か。



 ティターニは首を小さく左右にふったあと、改めてエアリアと視線を合わせる。



「まず一つ確認したいのは、その情報というのは確かなのかしら? 疑ってる訳じゃないけど、こういう性分なの。妙に具体性があるから少々怪しさを感じてしまうわ」



「情報に関しては確かです。何故なら情報元が亜人帝国からですので、亜人帝国には我々に協力してくれる者がいます、それは今の亜人族の現状に不満を抱く者達です。情報提供が無くては凛の現状と、数多くの同胞の常態を知ることはできませんでした」



「情報元は聞いても問題無いかしら?」



「はい。亜人帝国の首脳陣四名です。私は彼等と密に連絡を取り合い、凛や他の同胞の安否を確認しています」



 エアリアは一度話を切ると、今までとは違う声色になる。



「話は少々ズレますが、亜人帝国にはタルウ公爵という豚族の人物がいます。その者が我々精霊族を滅ぼそうとした張本人だとの情報を得ています。あなた様方が奴の姿を目にする事は無いと思いますが、もし目にした場合。直ぐに私に知らせてくださいませ。奴には死すらぬるい罰を下さねばならぬので」



 平静を装うエアリアだが、その声色は陰惨なほど闇に落ちている。深緑の瞳も闇に紛れて、うっすらと黒を帯びる。



「この公爵は何がなんでも我々が殺します。それは天地が覆ろうと変わらぬ事実、そうじゃなければ何の為にあの様な――」



 ふとした間が空いた。エアリアが自身の言葉をのんだ為だ。やや間を置いて喋りだすが、ティターニはのんだ言葉に引っかかりを感じる。



「話が少し逸れましたね、如何でしょうか? 協力の意は頂けますか?」



「……引っかかる所はあるけれど、概ね了承したわ、最後に一つだけ聞かせて頂戴」



「はい。何なりと」



 ティターニの射抜くような視線を受けても、平然と答えるエアリア。



「私達……というよりも、なぜ綾人に助けを求めたの? 私にはどうしてもそこが腑に落ちないの。精霊族はその渦中の少女に恩を感じているのなら、皆で助けに行く、という案は無かったのかしら? それか、あなた一人で助けに行くとか……あなた程の強者なら一人で救い出すくらいできてしまいそうだけど? このバカに頼った理由を聞かせてくれないかしら?」



「ティターニはアレだな、俺の事をどうにかしてバカって呼びたい病なんだな、うん。きっとそうだな」



「相棒、さすがの俺様でも、この雰囲気では口を挟まねぇ方が良い、って事ぐれぇわかるぞ」



 今まで空気となっていた綾人とルードの会話を聞きクスリと笑うエアリア。彼女は笑顔のまま目を伏せる



「そうですね。綾人様には事情は説明しましたが。凛を匿った事により、亜人族に攻め込まれたと勘違いをしている同胞達がおります。

その声を無視して、凛を救いに行くには反感を買ってしまう恐れがあるからです。戦争前には我等精霊族は一枚岩でなくてはなりません。

故に表だって助けるのが少々難しい状況です。あと、私は臆病ですので。一人で助けに向かうのは気が重いのです。動けない状態では第三者の協力が必要になりました」



 エアリアの唄うような声は、何よりも耳に心地好い。亜人族への敵意の言葉より本来彼女はこうした慈しみの言葉が似合う。


 綾人はエアリアの視線に気付き、気まずくなり頬を朱に染めながら顔を反らす。



「思い付いたのは凛と同じ、日本から来た方々。私はそれらの方々に思念魔法を使い接触を試みましたが、全て弾かれてしまいました。

ですが綾人様だけには通じたのです、これも何かの道標ではないかと私は考えています。理由と言うには明確な理由はありませんが、納得していただけましたでしようか?」



「本当にそれだけかしら?」



「ええ。本当にそれだけです」



「……分かったわ。最後と言ったけれどもう一つ聞いていいかしら?」



「何なりと」



 ティターニは引っかかりをあえて避け、別の質問を投げかける。ティターニが何かの疑問を抱いている事に気付くエアリアも、この場ではあえてその事に触れないようにしている。



「貴女は精霊族の代表なのよね?」



「はい、その認識で間違いありません」



「その代表が亜人帝国の首脳陣と繋がっている。ということはこの戦争は既に話がついているんじゃないのかしら? 私は無駄に血を流す戦争はあまりオススメしないけれど」



「……ティターニ様の仰る通りです。この戦争は既に話がついております。亜人族の首脳陣との話し合いで決まった事はただ一つ。精霊族の地に踏み込んだ獣は全て亡き者にする。

それを新亜人政権は邪魔しない、これだけです。おそらく新亜人政権もそのように兵を準備をしているはずです。

精霊族の土地を汚し、同胞の命を奪った全ての者に天罰を下した後に、亜人族との和平という道筋です。殺された同胞の敵も討てずに和平など、例え精霊神ルミスが許してもこのエアリアは許しません。

愚かだとお笑いになりますか? まるで何者かに操られている傀儡のような我々を」



 ティターニはそれ以上喋らなくなり、腕を組み何かの考え事を始める。その姿は、ティターニなりの了承の意を表しているのだろう。



「話終わった? まぁ色々ごちゃごちゃしちまう前に行く? 早速行く? その亜人何ちゃらに、んでパパッとやっちまう? 先生が俺をご指名してくれたからよ、綾人君頑張って期待に応えちゃうよ」



「亜人帝国な相棒。阿保なふりして空気和ますのもいいけどよ、そろそろビシっとしろよ。まぁ阿保なのは元からだけどよ」



「分かってねぇなこの黒豆竜は、ガチガチにりきんで行っても結果は変わらねぇだろ、ここはもっと楽しげに――」


「話は終わりましたか? エアリア様」



 固い声が耳に届き、綾人とルードの軽口の応酬が潰れる。


 赤く燃えるような髪色の精霊。髪だけてはなく全体が赤い精霊は強気な顔立ちで浮いていた。


 少年のようだが大人のようにも見える赤い精霊は、エアリアと同じ程の身の丈だが、内から発せられる空気は刺すような鋭さがある。


 エアリアの横に並び、纏う空気と同じく刺すような視線を綾人達に向ける。



「凛を助け出す事を了承して頂き感謝する。

だが貴様達はエアリア様と共に亜人帝国に渡るには、少々見劣りするな。エアリア様は我ら精霊族の代表であるお方、お手を煩わす様であれば承知ができんぞ?」



 あからさまな敵意を発する赤い精霊は、綾人、ティターニ、ルードを順繰りに見やりながら鼻息を漏らす。



「口が過ぎますよ、サラマン。彼等の善意に泥にも似た悪意をぶつけて何が楽しいのですか? それ以上不敬な口を叩くようであれば、私は黙っていられませんが?」



 サラマンと呼ばれた赤い精霊はエアリアの言葉を聞き流し、ゆっくりと形を変えていく。



「不敬な口には対応できませんが、彼等の力量には対応して見せましょう。エアリア様どうか我が蛮行には目をつぶり、宝玉(ほうぎょく)の進言で許しを頂きたい。

 なに、ほんのお遊びですよ。彼等が凛を助けるのに相応しい勇猛足る戦士か、はたまた愚者がこうべを垂れる、薄い頭蓋のような軽薄さか、このサラマンに確認させて頂きたい!」



 身の丈三十センチ程だったサラマンの姿はどんどんと肥大していき、綾人達を優に越えていく。形状も人形から亜人族の獣族を思わせる、それへと変化していく。



「我が名はサラマン! 四大精霊の一角にして、火の精霊が頂点に立つ者。貴様等の力量を計ってくれる」



 大型の蜥蜴に変貌を遂げたサラマン。



 体の端々は火炎を纏い、綾人など一飲みにしてしまう程の大きさを誇っている。その勇猛たる姿は火竜を想像してもおかしくは無い。


 その姿と発せられる強者の風格にティターニは喉を鳴らす。



 ――こ、これは、予想以上ね。



 サラマンの力を感じとり、さてどうしたものか。とティターニは悩む。



 ――力を見せると言うことは戦うということよね、そうなるとルードは除外される。私と綾人のどちらかになるのは確実だわ。でも、これ程の相手を綾人に任せるのは、ちょっと無謀かも知れないわね、となるとやはり私が。



 ティターニはいつものように脳内で計算を始める。それはどう行動すれば、一番効率が良いかを考え始める計算。だが決まって予想の斜め上をいくバカが計算を崩す事に気付き、慌てて首を真横にふる。



「何? どうすればいいの? お前をぶっ飛ばせばいいの? なんかスゲーなめられてるっぽいからさぁ、こっちとして全然ウェルカムだけど」



 待ちなさい! と言うティターニの言葉を無視して、サラマンの目の前に立つ綾人は、指の骨を鳴らし、やる気満々のポーズを取る。


 見上げる綾人に小物をなじるかのような、火竜の鼻息が襲う。鼻息一つだが、それは熱風と化し辺りを息苦しくする。



「勇敢さはひとえに勝ってやろう。だが今求めるのは強者のみが持ち合わせる絶対の力。

それは何物にも変えがたい生命の息吹と言っても過言では無い。さて、どうしたものか? 小さき者をなじって楽しむ不徳な心情を私は持ち得ていないからな」



「さっきからごちゃごちゃとうるせぇな赤蜥蜴! 結局何を言いたいんだよ! あれ、それ、これ、みたいな感じで分かりやすく言えよバカ!」



「……口が過ぎるな小さき者、その口から溢れる醜悪の固まりが、エアリア様に向けられると思うと、航海に旅立つ船乗りのような気分では入られんぞ」



「だから何言ってんだよ! もういいよ。えっ~と、アレだアレ、お互い一発ずつ殴りあうってのはどうよ? シンプルで分かりやすいだろ?」



「……いいだろう。では貴様から始めてよいぞ、戦闘に遊びを取り入れるのも、強者の習わしという言葉もある!」



 サラマンの体が膨れ上がる。膨れに膨れた筋肉は、さらに体を大きくさせる。眺める綾人は、じゃあお先に。と呟くと右の拳を硬く握る。


 ルードは興味が無いのか、地面に寝そべり欠伸をしている。ティターニはこめかみを押さえて、ため息をついている。綾人の行動は止めてもどうせ無駄だと悟ったのだろうか。



 ――綾人は怒るかもしれないけど、いざとなったら私が助けに――えっ?



 そう、考えていたティターニの思考が中断される。



「なっ……小さき者よ。何だ、その目は……それに、その拳も、どうなっている?」



 サラマンはその不思議な変貌に声が出た。綾人の目、正確には眼球が形を変える。


角膜が黒色から黄色に変わる、瞳孔の色は黒色のままだが細い縦線へと変わっていく。握る拳からは黒い鱗が現れる。綾人の戦意に呼応するようにポツリ、ポツリと現れるのは光沢ある龍の鱗。



 スキル:龍眼



 綾人の昂りに呼応するように意気揚々と現れる龍の瞳と黒の鱗。その姿にサラマンは口を開けたまま固まってしまう。



「じゃあ、行くぞ、サ、サ、え~と、名前サラミンだっけ? 俺が殴った後お前の番な!」



「ま、待て! 貴様! 本当に人間族か!」



 サラマンはふいに叫んでしまった! 叫ぶつもりは無かったのだか、目の前の人間族からは、とてもじゃないがマトモ(・・・)な気配がしなかったからだ。


 その気配を感じているはティターニとエアリアもだ。黒い鱗がまばらにある右腕を見るティターニ。彼女は恐怖を感じている。



(な、何? アレは……この私が言い様の無い不安に駈られるなんて、でもこの胸のざわつきは。覚えがある、あの時の……)



 綾人と出会った当時の記憶が蘇る。胸の中にある呪いのような何か、だがそれは、ベルゼが綾人の中からルードを取り出した事により、無くなっていたはずだった。


 はずだったのだが、今見る限り、その呪いは一層濃くなって綾人の体を這っている。


 ティターニは変貌を遂げたサラマンを見た時よりも、喉を鳴らした。皆が驚愕に顔を染めるなか、ルードだけは閉じていた目を半分開き。

ニヤニヤと綾人を見ていた。



「良い感じじゃねぇか、相棒」



 その声は誰も聞くことは無かった。

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