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剣とか魔法とかチートとか関係ねぇ男なら拳で語れ  作者: 木村テニス
一章~その男巻き込まれ体質につき~
3/188

天上天上唯我独尊

 煌びやかな宴が終わり、異世界で一日を過ごした生徒達。


 彼ら彼女らは再び転移直後の豪奢な場所、謁見の間に集合し、その中心部に集められた。


 これから始まる俺の俺だけの大冒険と、胸を高鳴らせる男子生徒。


 不安からか肩を寄せあい泣き出す女子生徒。


 辟易しながらも、俺関係無いし、とばかりに明後日の方向を向く生徒。


 生徒達と教師の他に謁見の間に居るのは、王であるドレイク・ミスト・パラディア。大臣であるバラビット、長官、パラディア騎士団の面々。


 期待、不安、緊張が混ざりあうなか、透明な旋律が場の空気を一変する。



「お待たせ致しました皆様、モール神官長様がお出で下さいました」



 扉が開き姿を見せたのは薄青色のドレスを身に纏う、レイ・ミスト・パラディア。


 本日のドレスは胸元が大きく開き、開放気味の双丘が非常に活発的だ。


 レイの手を引くのは高齢の男性、真っ白な司祭服に身を包み、しっかりとした足取りで歩く。


 太い眉と顔からは威厳ある風貌が滲みだす。


 二人は謁見の間、中心部に向かって歩き出す。


 司祭服を着たモール神官長が堂々とした立ち振舞いで謁見の間、中央に立つと。



「では始めよう、勇者達よ!」



 とドレイク王は声を張り上げる。待ってました、とばかりに沸く数名の男子生徒。



「一人ずつ、私の前に立ちなさい」



 モール神官長が生徒達に告げる。だが人間いざ! となるとなかなか勢いに任せられず、尻込みしてしまうのが常だ。

生徒達はお互いがお互いの出方を伺っていると。



「俺が行くぜ!」



 と勢いよく前に出る男子生徒、クラスのお調子者貝塚翔(かいづかしょう)


 モール神官長の目の前に立つ翔、白い司祭服に包まれた両手が動き、両肩に触れない程度に掌を近づけると、モール神官長は祈りを捧げる。


 すると徐々に翔の周囲に淡い光の粒子が発生する。



「うわっ! スゲー」

「どうなってんだ?」

「これが魔法か……」



 生徒達それぞれが見つめるなか、全ての淡い光の粒子がゆっくりと翔の体内に吸収される。


「終わりましたよ。ステータスオープンと言ってみなさい」


 モール神官長が優しく微笑む。


 時間にして凡そ一分、翔のジョブが決定したようだ。


 翔は言われた通りに、ステータスオープンと声高らかに叫ぶ。


 すると何の前置きも無くA5サイズ程ある銀色のプレートが、くるくると横回転しながら翔の前に現れた。


 その光景に沸く生徒達。ドヤ顔を決めプレートを手に取り確認する。



「俺勇者じゃないのかよ!」



 叫ぶ翔のプレートには、


 ~~~~~~~~~~

 貝塚翔

 ジョブ:槍士

 Lv:1

 力:78

 耐久:69

 器用:108

 俊敏:88

 魔力:32


 スキル :槍術・ステータス向上・言語共通

 ~~~~~~~~~~


 と表記されていた。



「うわっ! スゲーなんか力が沸いてくるっていうか……何て言うか、スゲーぞ皆!」



 はしゃぐ翔は早くもこの世界に順応しているのが見て取れる。



「Lv1にしてこのステータスの高さは見事!」



 プレートを眺めた大臣は満足そうに頷いた。

一人目のジョブチェンジが終わると、生徒達はモール神官長の前に並びジョブを授けられる。



「おぉ、俺は剣士か!」

「私は僧侶みたい」

「ん? 魔法使いか。なんか地味ね」

「ちょ、武闘家とか大丈夫か俺?」



 次々とジョブチェンジをする生徒達、半分を過ぎた頃に謁見の間が歓声に震える。



「おぉ、遂に勇者が現れたぞ!」



 ドレイク王が興奮しながら叫ぶと、大臣、騎士団は歓喜に沸き謁見の間がさらに大きく賑わう。



「俺が勇者か……参ったな、でもやるからには全力を尽くしますよ」



 プレートを眺めるのは、クラスの中心人物でもある青峰斗真(あおみねとうま)


 ~~~~~~~~~~

 青峰斗真

 ジョブ:勇者

 Lv 1

 力:107

 耐久:100

 器用:92

 俊敏:102

 魔力:78


 スキル:カリスマ・士気向上・ステータス向上・剣術・限界突破・言語共通

 ~~~~~~~~~~


 勇者が出た後もジョブチェンジは淡々と行われ、遂に最後の一人になる。


 すると、さっきまで自分達のジョブで盛り上がっていた生徒達が、急に静になる。


 その様子に首を傾げる大臣、明らかに召喚者達が警戒しているのを察し、モール神官長の前に立つ、金髪で小生意気な顔をしている男を確認した後、脳内で要注意人物に位置付ける。


 金髪の男の体の周りには、皆と同じように淡い光が輝きだし、ゆっくりと体内に吸収されていく。


 別段変わった事は無い。思い過ごしか、と考え大臣は声を掛ける。



「これで全員が終了したな。さて、何のジョブか教えて頂けるかな?」



 覇気の無いステータスオープンの声。


 プレートを確認した綾人は眉根を寄せ怪訝な表情になる。


 その様子を観察していた大臣は「外れジョブか」と内心で嘆息する。



「天上天下唯我独尊」



 ん? 何? と聞き慣れない言葉に大臣が聞き返す。


 デンバースの人間は聞いたことも無い単語に、頭の上にクエスチョンマークが表れる。

だが同じ異世界から来た人間達は、皆口をポカンと開け、間抜けた表情をする。



「天上天下唯我独尊だってさ、ほら」



 突き出すプレートのジョブ欄には確かに、天上天下唯我独尊と記されている。


 大臣はモール神官長を見る。


「え、ミスってない、ミスってないから! あの、ほら、アレアレ………えっと、ちょっとケツあるんで、帰ります!」


 足早に去っていくモール神官長、先程までの威厳ある雰囲気が台無しである。


「天上天下唯我独尊ってどんなジョブなの? 誰か教えてよ?」


 綾人は周りをキョロキョロしながら訪ねるが、謁見の間に居た全員の心のツッコミは、シンクロ率120%を越えていた。


(((((((((((((((いや、知らねぇよ)))))))))))))))



 ~~~~~~~~~~

 空上綾人

 ジョブ:天上天下唯我独尊

 Lv 1

 力:100

 耐久:100

 器用:0

 俊敏:100

 魔力:0


 スキル :男道・ステータス向上・言語共通

 ~~~~~~~~~~


 なんとも片寄った数値である。




 ーーー




 ジョブチェンジが終わった後、召喚者一行は王宮に隣接する、騎士団の訓練所なる広場に案内される。


 騎士団が整列すると正対する召喚者達も自然と整列する、騎士団の代表が無精髭を擦りながら前に出る。



「え~、パラディア騎士団、団長のマグタスだ、あ~皆はこれから魔人族、魔物、悪魔と戦う事になるのだが、その前に基礎訓練や座学なんかを徹底して……え~徹底して……う~ん、やはりこういうのは苦手だな。ハンクォー後の説明は任せた!」



 歴戦の英雄を彷彿とさせる武骨な顔立ちと体躯のマグタスは、副団長であるハンクォーを呼ぶ。


 呼んだ後、もう知りませんよ、とばかりに腕を組み黙りだす。


 盛大な嘆息を漏らした後に一歩前に出るハンクォー。



「召喚者の皆様、パラディア騎士団副団長のハンクォーです」



 色気ある顔立ちの美丈夫、ハンクォーは優雅に一礼する。



「皆様にはこれより、この世界の知識と魔物、魔人族、悪魔と戦う力をこの場所で培って頂きます。皆様ステータスプレートをお出し下さい」



 召喚者達は皆指示通りにステータスプレートを出現させる。



「ジョブの説明は後で個人個人に説明に行きます、スキルというのも後々お教えします。まず今はLvの欄と各ステータスを確認下さい。

魔物や魔人族と闘う為にはまずLvを上げる必要があります、Lvは自身の魂と肉体の数値、これを上げる事によりステータス数値は上昇します。勿論ですが、数値は高ければ高いほど戦闘を有利に進める事ができます」



 召喚者達は皆、Lvとステータスと呼ばれる、

力、耐久、器用、俊敏、魔力の数値を眺める。



「Lvを上げる方法で一番手早いのが、経験値を手に入れる事です。

これは戦闘をした相手を倒すと手に入ります。簡潔に纏めるならば、倒した相手のステータスを自分のものにする。といった考えです」



 質問があります。


 と挙手をする学級委員長の奏真緒、ハンクォーが手で進めると真緒は喋りだす。



「相手を倒すというのは、相手の命を奪うという事ですか?」



 矢のような真緒の視線にハンクォーは目線を外さずに答える。



「その認識で間違いありません。最初は戸惑うと思いますが、直ぐに馴れますよ」



 ハンクォーは優しく真緒に微笑む、すると真緒以外の女子数名が黄色い歓声を上げる。



「日々の鍛錬でもLvは上げる事はできるので、皆様には肉体鍛錬、基礎訓練、模擬戦闘を経験していただき、当面はLv10を目指して頂きます。

通常の兵ならばLv1の場合、ステータス数値は10~20が平均です。

ですがLv1でこれ程高い数値は大きなアドバンテージです。自信をもって下さい皆様は強いです。

そう時間をかけずに我々騎士団よりも強くなることでしょう」



 ハンクォーの説明を聞きザワザワと騒ぎ出す召喚者達。



「異世界チートキターーーー」

「マジかよ、俺等って結構凄い系?」

「肉体鍛錬って筋トレとかかな? 私嫌なんだけど」

「なんかゲームみたいで面白いね」

「ふっ…遂に我が右手の力が覚醒の時を迎えたか」

「結局何? どういう事なの?」

「ねぇ? 皆俺の声聞こえてる? 要所要所で○○キターーーーって叫んでんだけど……なんで皆無視なの? 俺居るよね? ちゃんとここに居るよね?」



 騒ぐ召喚者達を見て、騎士団団長マグタスは声を張り上げる。



「小難しい事は深く考えなくていいぞ。単純に死なないために強くなる!それだけだ! Lv10になったら楽しい楽しい魔物狩りが待ってるぞ~騎士団も全面的に支えるから心配しなくて大丈夫だ! あっ、勇者御一行だからって俺は敬語は使わないぞ。

俺たちはこれから仲間だからな。よ~し、じゃあ訓練開始だ~!」



 マグタスはハンクォーに、すまん助かった、と豪快に笑いかける



「苦手だからと言って、全てを丸投げにしないで下さい。団長」



「ははっ、悪い悪い。頼りにしてるぞハンクォー」



 ハンクォーの肩に手を置き一段と豪快に笑うマグタス、それを見て嘆息を吐くハンクォー。


 そんな二人のやりとりを、腐の付く一部の女子がドギマギしながら眺めている事に、マグタスとハンクォーは気付くはずもなく訓練が始まる。




 ーーー




 早い者で異世界に転移してから二週間が経った。

初めの一週間は座学中心だった訓練も、今では模擬戦闘中心に訓練が行われている。


 前衛職のジョブに就いた者は騎士団に、後衛職のジョブに就いた者は宮廷魔導師に指導され、汗水垂らしながら訓練に勤しむ彼ら彼女らをマグタスとハンクォーは眺めながら会話をする。



「多少のバラつきはあるものの、皆順調にLvが上がっていきますね」



「ああ」



「明日は予定通り、城外での魔物狩りでよろしいですか?」



「ああ」



「しかし召喚者とは凄いものですね、通常の倍のペースで強くなっていくのには驚きしかありません。

勇者や上位ジョブに関しては約3倍」



「ああ」



「団長?」



「ああ」



「……」



「今日もいないんだな、面白ジョブのあんちゃんは」



「……そのようですね」



 クラスメイト達が必死に訓練をするなか綾人の姿は無い、厳密に言うと訓練に一度も参加していない。



「如何いたしますか? 全体の士気に関わるので早めに対応した方が良いかと思いますが?」



「ん~どうしたもんかな……」



 マグタスとハンクォーが問題児の対応に頭を悩ませるなか、当の本人は。





「あ~これを吸ったらとうとう最後の一本だよ、悲しい~」



 王宮内のテラスに陣取り煙草に火をつける。

物憂げな表情かどうかはさておき、綾人は今日も今日とてばっちり訓練をサボっている。

初日の話を聞いた時から綾人が思っていたことは一つ。



(なんで他人のお家事情に首つっこまにゃならんのだ、てめぇらの尻はてめぇらで拭きやがれ)



 加えて。



(つぅ~か、今まで話したこともない、知ってる人間もいないクラスメイトと一致団結して敵をぶっ飛ばすとか、苦行以外の何者でもねぇから!

単純に気まずいから、皆俺を腫れ物扱いだから、前に絶妙なタイミング(注※本人が思ってるだけ)で話しかけたら怖がられて無視されちゃったから。結果俺ただのぼっちだから)



「あ~あ、莉乃は元気でやってんのかなぁ~」



 莉乃とは綾人の妹 空上莉乃(そらうえりの)の事、家庭の事情から妹と二人暮らしする綾人は、元の世界においてそれだけが気掛かりだった。



「こら! 訓練サボって煙草吸うなんてダメじゃない」



 振り向くと教師である小野小梅が、怒っているふり(・・)をしながら綾人に近づいてくる。



「いやいや、先生もサボってるじゃん?」



「私は非戦闘ジョブだから、訓練免除の許可を得てますよ」



 綾人の近くまで来た小梅。


 テラスから射し込む日の光に目を細めると、煙草を指で摘まみ没収する。煙草は捨てられずに小梅自身が吸い始めた。



「あ~あ、貴重な煙草が先生に取られちまったよ、いいのかな~先生が生徒達を見ずに煙草吸っちゃって?」



 綾人の言葉に小梅は直ぐには答えない、白い煙を数回吐き出すと、非常に退屈そうな表情を浮かべる。



「正直、良い先生でいるの疲れちゃてさ、こんな所で教師の仮面つけてても意味無いし。

世界を救うとかどうでもいい、生徒達は盛り上がってるみたいだけど、勝手にどうぞって感じだし……」



 まだ若い小梅は色々と思う所があるようだ、内心の黒い感情を全て吐露する訳ではなく、上部だけの部分を綾人に話しかける。



「………」



 綾人は何も答えない。


 自称レディファーストの綾人は聞き役に徹する。


 それからも小梅の愚痴は続く。


 綾人と小梅はいつの間にかこの時間、この場所で会合を重ねるようになっていた。

訓練に励む生徒達には勿論後ろめたい気持ちはあるが、小梅にとっては綾人に話を聞いてもらう(何時も返事は返ってこないが)この時間だけが心の支えになっている。



「そういえばさ」



 声のトーンを変え小梅は訪ねる。


 綾人は愛玩動物のような可愛らしい小梅の顔を見る。

身長も低く守ってあげたいと思わせる雰囲気は、さぞモテるだろうなと思った。



「ていの良い二択って何? こっちに来た初日に小声で言ってたじゃん」



「……ああ」



 その言葉に記憶を呼び戻し綾人は答える、別にそんな大層な事じゃないけどさ、と前置きした後、説明を始める。



「あの場面において俺達はただの異邦人、右も左も分からない俺達を従順に染める事にこの国は特に苦労しないはずだ、実際簡単に染められてるし。

でも奴等はあえて選ばせた、敵を討つのに協力をするかどうかの選択を【貴方は勇者です、英雄ですどうか力を貸して下さい】

こんな言葉を聞けば人間誰しも悪い気はしない。

ここで素直に話に乗るようなら心強い同胞、これが選択一」



 綾人はラスト一本の煙草を吸おうとするが、渋面を作りポケットに収める。



「選択二は、話を断っていればこの国にとって体の良い駒になる選択。

 この国だってどんな奴等が召喚されるか分からなかったと思うんだよね。俺らが最初に見たあの広い部屋、壁際にいた鎧の奴とかは何時でも動けるように構えてたし。

得体の知れない勇者候補が頑なに戦いを拒むようなら、恐らく力付くで従わせる方法にでるはずだ。

この国がどこまでブラックかは分からないけど、魔法なんて代物がある位だから洗脳とか催眠なんて御手の物でしょ?

何の力も持たない俺等はあっさり捕まり、強制的な駒として戦争に参加させられる。つまり――」



「つまり英雄になるか、駒になるかの二択って事か」



 話を遮り小梅が結論付ける。



「まっ、あくまで俺のひねくれた感想だけどね」



 綾人の言葉に、ふ~んと相づちを打つ小梅。


 生徒に向けるだけでは足りない何かの感情を綾人に向ける。

だがこの窮屈な異世界では、お互いがお互いにそれに気付くことはなかった。


 次の日、召喚者である生徒達は初めての魔物狩りの日を迎える。

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