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剣とか魔法とかチートとか関係ねぇ男なら拳で語れ  作者: 木村テニス
一章~その男巻き込まれ体質につき~
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相手を怒らせたら素直に謝るのが吉

「あれ……爺ちゃん?」



「おぉ綾人。良い所にきよった。そこの土掘り返して種植えてくれんかの」



 小さな畑を耕す祖父、空上ジンの姿に綾人は逡巡する。気持ちの良い青空が広がるこの場所は覚えがあった。



 ――ここって爺ちゃん家の畑だよな。



 綾人は小さい頃よくジンの手伝いをしていた事を思い出す。自分が幼い体ではない事を確め、これは夢か何かだと一人納得する。



「何ぼ~っとしとる綾人! 日が暮れちまうぞ」



 ダハハハと笑うジンの姿は相変わらず豪快だった。目の前に落ちていた鍬を拾い土に突き立てる。黙々と作業する綾人はチラリと横目でジンを見た。



「ん、どした? そんな顔して悩み事やったら爺ちゃんが何でも聞いたるぞ」



「爺ちゃんはさ」



「おう、何じゃ?」



「何で家族を捨てて、若い女と駆け落ちしたの?」



「おい! 綾人よ、普通そこじゃねぇだろが。ここは爺ちゃん俺つらいよ助けてよのお涙頂戴のシーンだろが!」



「いや別に辛くねぇし、今の辛さより爺ちゃんが駆け落ちしたのが原因で一家離散になった時のが辛かったし」



「あれ? そこいじっちゃう? 空上家のデリケートゾーンいじっちゃうの?」



 ジンはわざとらしい程の咳払いをする。



「綾人よ儂ほら、物語の主人公がピンチの時に現れるお助けキャラ的な奴として登場の予定だったんじゃけど……」



「ピンチでも何でもねぇから、目の前の敵は全部ぶっ潰す。昔爺ちゃんが俺に教えてくれた事だろ」



 綾人の獰猛な笑みに少し面を食らった後、同じく獰猛な笑みで答えるジン。目の前の敵は全部ぶっ潰す。ジンが綾人に教えた百八の教えの一つ。煩悩の数と一緒なのが何とも言えない所だが……



「何じゃあ綾人いっぱしの目しよって、爺ちゃん安心したわ!」



「俺だって成長してるんだよ爺ちゃん。んで話戻るけど何で若い女と――」



「ハハハッ。綾人! 辛くなったらいつでも爺ちゃんを呼べ。儂はお前の心の中におるからのぉ!」



「待てクソ爺! 話を強引に終わらせようとすんじゃねぇ! 俺の心の中に居なくていいから、気持ち悪りぃからさっさと出てけ!」



「綾人よ! あのどえれぇ別嬪のエルフっ娘と可愛くてボインの受付嬢ちゃんは脈ありと爺ちゃんは見てるぞ。今夜辺り押し倒してみぃ――押し倒してみぃ――押し倒してみぃ――押し倒してみぃ――」



 体から色が消え景色に溶け込んでいくジン。



「下らねぇエコー掛けながら消えんじゃねぇぞクソ爺! ってめ、待て!」




 ーーー




「クソ爺!」



 消え行くジンを掴もうとすると風景が変わる。見知らぬ天井……ではなくギルド仮眠室の天井に変わる。


 体を起こし周りを見る。六畳程のスペースにベッドが置いてある仮眠室。窓から差し込む夕陽が眩しく目を細める綾人。


 どれくらい寝ていたのだろうか体の痛みは消えているが妙な気だるさに鼻息を一つだす。ベッドに座り伸びをしていると。


 ガチャリとドアが開く音。



「あら。やっと起きたのね」



「お、おう……」



 仮眠室に訪れたティターニ。


 夕陽に照らし出される金髪は見るほどに吸い込まれてしまう。髪をかきあげる仕草一つとっても絵になる姿だ。



「綾人?」



「へっ? な、何かな?」



「人の顔をジロジロ見て何か言いたげね?」



「ばっか、全然見てねぇし! やめろし、変な勘違いすんなし!」



 綾人はそわそわと落ち着かずに、またティターニの顔をチラチラと見てしまう。



 ――まぁ、アレだな。やっぱり綺麗っつうか何つうか人間離れした美しさっつうか、まぁエルフだから人間のカテゴリーなのかどうなのか……口の悪さを加味しても全然損なわないのがってクソ! あの爺のせいで妙に意識しちまうじゃねぇか!



 あの別嬪のエルフっ娘は脈あり。


 ジンが消え行く間際に伝えた言葉が、脳内でリフレインされる。


 落ち着きなのない様子に首を傾げながら、ティターニは人差し指を綾人に向ける。



「な、何?」



「なんだか今日の貴方はとても気持ち悪いわ。お願いだからそれ以上獣のような目付きで私を見るのを止めてくれないかしら?」



「相変わらず口が悪りぃな」



水球(アクアボール)



 綾人の言葉を遮ったのはティターニの魔法。直径十五センチ程の丸々とした水の塊が、ぷよぷよと波打ちながら綾人の目の前に現れる。



「とりあえずそれで顔でも洗ったら?」



「お、おう。じゃあお言葉に甘えてっ……」



 ドタバタと紋切り型の音が六畳間の仮眠室に響く。



「何をしているのかしら?」



「――ッ、! す、すまん!」


 ベッドから立ち上がろうとし時、何故か足に力が入らず前のめりに転んでしまう綾人。


 自分だけならいいが、運の悪い事に真正面にいたティターニを巻き込んで転んしまう。


 床に押し倒したような格好になり、近距離で見詰め合う綾人とティターニ。綾人の心臓はドギマギだ、心臓が口から出そうとは正にこの事。


 顔を真っ赤に染め動けずに固まっている。所々ティターニと肌が触れ合っているのも、顔を赤くするのに拍車をかける。軽装鎧ではなくラフな姿のティターニは違った美しさがあり、それに見惚れてしまう綾人。


 あわあわとテンパる綾人だが、ティターニは平然とした何時もの無表情を貫いている。



「手」



 短くそう告げるティターニ。



「へ?」



「手をどかして」



 そういえば……と、左手は床の感触に対し、右手が妙に柔らかい感触である事に気付き。恐る恐る右手を見ると。



「あっ! ちょ! ごめっ。わざとじゃないから! 本当にごめん!」



 なんというラッキースケベ。最近散々いじられていたティターニの貧に……小ぶりで形の良いありがたい膨らみを鷲掴みにしていた綾人。


 綾人には少々刺激が強すぎたようで、落ち着かない子犬のように、手足をバタつかせた後ようやくティターニから離れる。


 今だ尻餅をついたまま、右掌に残る感触を確かめる綾人はムッツリスケベ街道をひた走る。



「全くこれだから童貞は嫌なのよ。わ、私のように少しは冷静でいられないのかしら……」



 と言いながら立ち上がるティターニだが。


「ティターニ……さん?」



「な、何よ……」



 先程のクールビューティーフェイスは何処えやら。綾人以上に顔を真っ赤にしソッポを向くティターニ。


 世話しなく服装の乱れを直し、コホンと咳払いをした後に、チラチラと綾人を見たかと思えば、乱れていない服装を再度直し視線を彷徨わせたりと、非常に落ち着きがない。



「冷静にって、めっちゃテンパってるじゃん!」



「しょ、しょょが、無いでしょ胸なんて触られたの初めてだもん!」



 だもん? だもん? ティターニの語尾がとても可愛くなる。



「だもんって……キャラ変わってんじゃん」



「う、うるさい! 人の胸を揉んどいて何なのその態度は極刑に値するわ!」



 困惑しながら見上げる綾人を目尻を上げ睨むティターニ。



「す、すまん。わざとじゃねぇから」



 しおらしくなる綾人を見ながら嘆息するティターニ。



「……」



「な、何っ?」



「何でもないわ……立てる?」



 手を差し伸べるティターニ。綾人はその手を掴もうとするが躊躇する。


 ミストルティンの街に着いた当初、握手をしようと手を差し出したら、無視された事を思い出す。


 エルフが他種族に体を触らせるのは信頼の証。当然綾人はその事を理解していない。


 上目使いでチラリと見る。照れくさそうに手を差し伸べるティターニ。顔を真っ赤にし目線は別の所を向いている。その非常にウブな様子に思わず笑った後、ティターニの手を掴み起き上がる。



「お前って案外可愛い所あんだな」



「なっな! か、かわっ……お前じゃないわ、ティターニよ」



 しばらく沈黙した後にお互の目が合うと、どちらともなくクスリと笑い合う。



「体の調子はどう? 五日間も眠りっぱなしだったから心配したのよ」



「えっ? 俺五日間も眠ってたの?」



 頷き肯定するティターニ。



「うわ~通りで体がダルいわけか。そういやルードは?」



「散歩に行ってるわ。それはそうと目覚めたばかりで聞くのは酷だと思うのだけれど、綾人はこの後どうするの? ミストルティンの街に滞在するの?それとも何処かに旅立つの?わ、私は――」



 ――ん? そういや大事な事を忘れているような……あれ、何だっけ? え~と、え~と、確か誰かと話していたような……。


 何か大事な事を忘れている。漠然とではあるが……うんうんと唸っていると。



「ちょっと、聞いてるの綾人!」



「えっ? あぁ悪りぃちょっと考え事してたわ」



 全くと言いながら腕を組み、眉根を寄せぷんぷん怒るティターニを眺める綾人。



 ――そういやティターニってエルフ何だよな、人間族じゃなくてエルフ族? いやっ違ったな。エルフは確か亜人族の系統だったか。



 スキル:言語共通のおかげで、この世界の種族系統をやんわりと理解する綾人。まだ怒りながら小言を言うティターニをまじまじと見ていると。



「な、何よ! まさか胸を揉むだけじゃ飽きたらず私の体を犯す算段をしているのね。その如何にも下卑た三下の目はそうに違いないわね!」



「誰が下卑た三下じゃ! 俺はただエルフも亜人の……亜人?」



 唐突に思い返される記憶。



「あっ!」



 ボロくカビ臭い宿屋で話し合った声と内容。



「あ~~! やっべ~~~! やっば、どうしよ忘れてた! ちょっ! まだ大丈夫だよな? 戦争してないよな?」



 思い返された記憶は魔物の大軍や、魔人族レットと戦う前夜の記憶。頭の中で響いエアリアという女性の声。同じクラスからこの世界に転移した野々花凛の現状。そして精霊族と亜人族が戦争をするという事。



「やっべ! やっべ! どうしよ! 返事するとか言って思っくそ……忘れてた」



「ちょっと大丈夫? やはり戦いの後遺症かしら、綾人がおかしくなってしまったわ……もう一度強い刺激でも与えれば元に戻るかしら?」



 拳を握るティターニを掌を向け制止させ、綾人は心の中で恐る恐る問いかける。



 ――あの~エアリアさん? います? ご在宅ですか? えっと、空上綾人ですけど……。



(……ハイ)



 精霊族代表の一人エアリア。


 意志の強そうな女性の声が綾人の脳内に直接響く。返事は返ってきた。返ってきたには返ってきたが



(うわ~めっちゃ怒ってる~)


 エアリアには伝えず項垂れる綾人。静かに激おこしてるエアリアの声。女性が怒る事に慣れていない綾人は、困り果てしばらく沈黙してしまう。


 意を決し当たり障りのない会話から懐に飛び込もうと決意。やり手営業マン並の低姿勢で話し掛ける。



 ――えっと、あれですねエアリアさん。今日は良い天気ですね?



(……そうですね)



 ――しかし一日はあっという間に過ぎますね?



(…そうですね)



 ――エアリアさんはもうあれですか?戦争の方は準備万端だったりするんですか?



(そうですね)



 ――えっ……とっ。



(……)



 あかんとエアリアに告げずに再度項垂れる綾人。まさか異世界に来てこのやり取りをするなんて、綾人が右往左往している姿を、可哀想な者を目で見るティターニ。


 その目を止めろと言いたいが。今はそれどころでは無い。



 ――本当すいませんでした。わざとじゃないんで許して下さい。忘れてたのは事実ですけど……こっちも色々あって、いや、そう色々あったんだって! 死にそうになったりとかしたから許せよ! 何だよ、そうですね。そうですね。って森田○義アワーかよ! 何だよ、たった一回のミスでそんなに怒ってさ、こっちだって必死なんだよ! 分かれよ!空気読めよ! 人は一度の失敗で十学ぶ生き物なんだからさ! こっから巻き返すからさ。むしろこの失敗をプラスに捉えようぜ! よしオッケー。ハイ仲直り~、あっ! そうですね。ってまた言ったらもう俺アレだから! アレしちゃうからね!



 よく分からない言い訳しながら逆ギレする綾人。直接会話してはいないが気まずい沈黙が流れる。


 折れたのはエアリア。



(すみません。確かに事情も聞かずに無下な対応をしてしまいました。お許しください)



 ――まぁそこはお互い様って事でさ、今回は水に流しましょう。うん、そうしましょ。



 エアリアがジト目を向けているような気がしなくもないが、気にしたら負けだと思い開き直る綾人。



 ――凛を救って下さるかどうかお返事をお聞かせ下さい。



 ――もちろん。救うに決まってんじゃん。



 エアリアの真面目な声に間髪いれず真面目に答える。分かりました。と答えるエアリアは間をたっぷりとってから



(支度が出来ましたらもう一度私に声を掛けてください。少々強引ではありますが転移魔法を使って貴方様を呼び寄せます)



 エアリアの言葉を聞いた綾人は



「また転移か……」



 と一人肩を落とす。

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