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剣とか魔法とかチートとか関係ねぇ男なら拳で語れ  作者: 木村テニス
最終章――天使と悪魔と神々と――
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一撃


「あ、綾人」


 誰もが茫然自失している中でようやく言葉を発したのはティターニであった。

 沈黙が再び続く。いくら攻撃しても一切の傷を負わない神が少年の拳によって吹き飛んだ。

 神が吹き飛んだ方向を見るでもなく、綾人はジツと己の拳を見る。


「なんか、イケそうっぽい?」


 綾人はそう呟く視線を正面に戻す。

 目前には神が翼を広げ悠々と立ち尽くしていた。

 もしや攻撃が通用するのか? 試しにティターニは弓を引く。並行してブットル、凛が攻撃魔法を仕掛ける。それにならって多くの者が攻撃を仕掛ける。

 

「無駄無駄無駄! 僕と綾人の殺し合いの邪魔するなよ!!」


 神は激昂する。矢も魔法もやはり効いていない。攻撃は当たるがそれだけだ。一切の傷がつくことはない。


「やらせるかよ!!」


 神は腕の一振りで周囲の人間を弾き飛ばそうとするが、駆けつけた綾人がそれを阻止。

 再び拳が神の顔面に命中する。だが——。


「——あれ?」


 繰り出した拳は勢いよく、当たれば相手を吹き飛ばす勢いの拳だが、神には全く効いていない。


 正確には当たっただけである。拳は神の頬で止まっている。

 それは赤子が大人に対して攻撃を仕掛ける程度の威力しかなかった。

 頬に拳を当てられた神はいやらしくニタリと笑う。


「あれ〜。やっぱりさっきのは偶然だったのかな?」


 そのしたり顔はいかにも小馬鹿にする様であった。 

 

「オラオラオラオラオラオラオラ!!」


 何かの間違いであれと綾人は拳の連打を繰り出す。

 顔面、腹部、頭部、喉、胸部と至る箇所に攻撃を仕掛けるが先ほどと同じように届いてはいるが効いている気配は無い。

 

「今度はこっちの番だ!!」


 痛みがないことに焦る綾人。それを見下す神。楽しむように神も拳の連打を放つ。

 まともにくらえば立てないまでのダメージであることが想定される。

 たまらず後退する綾人。その際に不安定な態勢となり転倒してしまう。


 それを好機と見た神は追い討ちをかけていく。

 転ぶ綾人に迫り、大きく拳を振りかぶる。その様子は綾人がよくやる戦闘スタイルそのままである。

 

「綾人!!」


 ティターニが直ぐ様フォローに入る。神と綾人の間に入り攻撃の一撃をいなそうとする。

 ブットルと凛が水魔法で神の体を拘束しようとする。

 サギナが綾人を抱え、距離を取ろうとするが——。


「無駄だよ! 無駄無無駄無駄!!」


 それを神が許さない。全てを黙らせるほどの圧力。咆哮。そして一撃で助けに入ろうとした仲間達が四方に散っていく。

 他にも武器を掲げ、綾人を救おうと行動した者達、勇者、クラスメイト、光の王子も駆け付けるが、同じように神の前では無力であった。

 

 神に対抗できるかもしれない唯一の男をここで死なせるわけにはいかないと、皆が行動するがダメージを与えることができない。 

 このままなす術なく終わるのか。そう思った一人の騎士が叫ぶ。


「頼む!! 神を倒してくれ!!」


 その願いはずいぶんと勝手かもしれない。叫んだ本人は思った。

 自分は何もできない。だから、何かをできそうな男へ願いを託すしかない。

 願いを叫ぶという行為でしか表せなかった自分に腹が立つ。それでも叫ぶことしかできない。だからもう一度叫んだ。


「神に裁きを!!」


 それは叫んだ者とは別の人間である。彼もまた神を止めるという行為を、その願いを託す。

 それを皮切りに多くの者が叫んだ。


「神をとめろ!!」「神に抗え!!」「神に拳を!!」それは一つのエネルギーの塊となって綾人に届く。

 皆の思いが、託された願いが、綾人の拳に宿る。


「無駄無駄無駄むっ————」


「オラァァァァァァ!!」


 神は綾人に止めを刺そうと、上方より激しい勢いをつけて拳を落とす。

 綾人はそれに抗うように大地を踏み締め。下方から拳を繰り出す。


 そして託された一撃が再び神に届く。

 綾人の拳は神の拳を砕く。大きな衝撃音と共に神は拳ごと後方へと弾かれていく。 


 先ほどまでの赤子の一撃とは違う。正しく届いた攻撃。違いがあるとすればたった一つしかない。

 綾人は己の拳と周囲を見比べる。


 神の拳との衝突により皮膚は裂け、指が折れ、あらぬ方向へと曲がっている。血に塗れた拳を再度握る。

 皆は再び綾人の拳がとどいた事に歓喜している。拳は美桜の回復魔法により直ぐ様完治していく。


「みんな、俺が神をブッ殺すって、祈っててくれや!!」


 士気の上がりは、戦いを見守る者達の咆哮となって空にまで響く。

 神に届いた一撃は明白である。人の願いが、想いが集結すればそれは神に届くことが証明された。

 世界の滅亡を防ぐには、この状況を打破する為には、皆が一つになって綾人へと想いを託すことであった。

 

「最後は、仲良しこよしってことかい? 愚かなだよ。人ってのはそうでもしなきゃ神に抗えないなんて」


 後方へと飛ばされた神が、人々の希望に酷く落胆していた。

 綾人と同じように砕かれた拳が直ぐ様回復していくと、ゆっくりと歩みだす。


「人の願いが託された拳が神に届くなんて、酷く滑稽だ。安物の喜劇だ。そんな歯が浮くような感情はどうでもいいんだよ。君らは絶望の中でこそ生きなければならない。それが人だ。絶望の中で僅かな希望に縋る。それが人だ。そして——」


「ごちゃごちゃうるせぇよ!!」


 神の長広舌が始まる前に綾人は阻止する。

 悪魔時代からのベルゼの話は人を惑わすと分かっているからだ。

 綾人はこれでもかと睨みながら近づいていく。


「てめぇが人様をどうこう言えるほどエレェのかよ! いいんだよテメェの話なんかよ!!」


 綾人は再び拳を振るう。それは人々の想いがのった拳だ。

 誰もが祈っている。仲間が、クラスメイトが、騎士が、皆が祈っている。綾人の勝利を。 


 ——天上天下唯我独尊。繰り出す拳の上にはぼんやりとその文字が現れていた。

  

 咆哮と共に繰り出す拳を神はまんじりとしながら受ける。

 神の頬に拳が当たる。めり込み、顔が振れる。次いで体も振れる。大きく。真横に吹き飛ぶ神は何度か体を跳ねさせながら地上に横たわる。

 まともな一撃をくらった神は倒れたまま起き上がる気配はない。


 それは見つめていた周囲は皆は大きな歓声を上げる。

 これで世界は救われると多くの者が感じたその叫びは殊更に大きく世界に響く。喜びのあまり泣き出す者、抱き合う者、歌を奏で、人が人を祝福する。


「——立てよ、ベルゼ。お前がこんなんで死ぬはずねぇよな?」


 だが空上綾人は油断しない。何度も辛酸を味わった男はベルゼから一切視線を外さない。

 仲間達も同じである。ベルゼは人を油断させることにかけては他の追随を許さない。

 綾人の言葉で歓喜の声は止む。神を討った英雄の言葉に誰しもが従っていく。


「立てよ——」


 ゆっくりと重く響く綾人の声。それに反応するようにベルゼは動き出す。

 

「ハハハハッ——。倒したと見せかけて、油断したところに絶望の一撃で形勢逆転と思ってだんだけど、アテが外れちゃったかぁ〜」


 盛大に吹き飛んだ神の声音は明るい。まるでダメージが一切無いと言わんばかりである。

 立ち上がり不適に笑う。笑った。笑った顔が見えた。

 今の神は悪魔時代からの名残である骸骨マスクが破れ素顔を晒している。歯を見せ笑っている。眉を上げ笑っている。目はどこまでも楽しげに弓形になっていた。



 誰もが神の顔をマジマジと見つめる。

 そして誰もが、何も言えなくなっている。

 そんな中で神の笑い声はよく響く。


「おい。あの顔って――」


 その声はルードである。


「えぇ。そうね——」


 その声はティターニである。

 二人は何かを言いたげだが、上手く言葉にできずにいた。


「え? どういうこと?」

「凛、気をしっかり持つんだ」


 神の顔を見ていた凛は足元から崩れそうになる、サギナが受け止める。

「おいあの顔——」「どうなってんだ——」周囲でも同じような感想がそこかしこから聞こえてくる。


「綾人——」

「チッ——気分悪りぃぜ」


 ブットルの問いかけは綾人に届いていない。

 綾人は舌打ちのあとに悪態をつく。


「神々しい顔にみんな驚いちゃったかな、神だけに!!」


 いつもの調子のベルゼが声高らかに叫んだ。

 神の顔は生意気な少しあどけなさが残る顔立ちであった。

 

 仲間達が、クラスメイトが、多くの者が神と綾人の顔を交互に見比べる。

 何故なら神の顔は、綾人の顔によくよく似ていたからだ。

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