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剣とか魔法とかチートとか関係ねぇ男なら拳で語れ  作者: 木村テニス
最終章――天使と悪魔と神々と――
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喧嘩祭りの始まりじゃ!!

「今度こそ終わりだ——さようなら人の子よ——」


 ミカイルは再び白炎、終焉齎炎極楽(ロイヤル・ハート)を出現させる。

 人を極楽へと導く炎を一秒と満たない間に出現させる技量は、ミカイルがミカイルたる所以。

 白炎は(ごう)と音をたてる。触れただけで極楽へと導かれる炎に誰しもが近づけに体を硬らせる中、一人勇敢に立ち向かう者がいた。


「うぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 それは光の王子アルスである。長剣を掲げ、真っ直ぐにミカイルへと駆ける。

 彼には仲間を失い悲しみに身を預ける時間など許されなかった。仲間達から託された想いを叶えなければならない義務があった。


「まだ抵抗するのか光の勇者よ。貴様一人が足掻いても、この状況は変わらないと分からない訳でもあるまい」


 一撃を繰り出すアルス。ミカイルは天使達に目配せし敢えてその一撃を白炎で受けた。

 白く揺らめく炎のはずが、まるで鉱物にでも押し当てたようにびくともしない。それでもアルスはミカイルに一撃を入れるべく長剣に力を込めていく。


「僕にはこの世界を導く義務がある! それを邪魔するのなら例え神だろうが斬る! そうでなければ仲間達に顔向けできない!!」


 今のアルスの迫力は並では無い。血の涙を流し、全身を膨張させ、さながら最大最凶の魔物にも似た重圧が放たれていた。気の弱い者ならばそのまま気を失ってしまう。

 ブットルが、サギナが、凛が、勇者一行が、騎士団が、地底人の誰もがアルスを止めることができない。それほどの迫力でなければ、自分を守るために死んでいった仲間達に顔向けできない。


「分からんな――だが」そんなアルスの気概もミカイルは心底理解できないといった表情でタメ息を吐き出す。


「そうそうに貴様を祝福せねば厄介だということは分かった」


 ミカイルの視線は後方に向けられていた。

 アルスの後方、そこには白炎にのまれる恐怖から体を硬らせた者達――はもういない――光の王子に続けと、どうせ散る命なら盛大に争ってやると息巻く者達へと変わっていた。皆武器を掲げ、攻めようかという時――いの一番に動く者がいた。


「あら? さっきまで震えた小動物のような顔をしていた面々が随分と良い顔つきになったじゃない」


 盛大な嫌味であった。それは実に彼女らしく、また間に受けた者達の闘士を駆り立てていく。横合から現れ何体かの天使を二振りの短剣と魔法で仕留め、アルスに加勢する形でミカイルに斬撃を叩き込む。

 咄嗟のことでミカイルの白炎は彼女に及ばず、それを見越して直ぐ様を離れる、と同時にポーチから弓矢を取り出し風よりも早い矢で数体の天使を仕留める。


「ティターニ!」

「無事だったか!」


 凛とブットルが叫ぶと暴蘭の女王ティターニ・Lはいつものように長い金髪を手で払い、仲間達の元へと移動する。

 余りの素早い行動に誰しもが目を奪われた、そんな中で熾天使ラフィールが顔を歪めティターニを睨む。

 

「遅くなってごめんなさい。それと、見ていたわよルード。あなたにしてはよくやったわね」


「へへ、ったりめぇだ!」


 ティターニは凛の胸でぐったりとするルードに微苦笑を送る。それに応える幼竜は照れ臭そうな笑いで返す。

 仲間達からは言葉ではなく視線での質問が寄せられた。

 

 ――ティターニ、決着はついたのか?


「全て終わったわ」と素っ気なく応えるティターニ。だが口端は僅かに上がっていた。

 自分を慮る存在がいることのありがたさを痛感したからだ。だからこそティターニは言葉を発する。


「ちょっと、あのバカはまだ目覚めないわけ。いい加減ウザいわね。いつまで寝てるのバカ綾人、さっさと起きなさい!」


 苛立たしげな激昂が綾人に向けられる。ティターニは綾人からの反応を待つわけでもなく、ブットル、凛、サギナを順に見やる。


「なにを臆しているの!?」


 厳しいが実にティターニらしい口調であった。


「相手が神の使いである天使でも、私達のやるべきことは変わらないわよ。自分と仲間の命を脅かす者がいるなら全力で抗うだけ」


 これもまたティターニらしい言葉であった。どこまでも正解を導き出す彼女の姿はさながら戦乙女である。

 三人に視線を送ると口角を僅かに上げ言葉を続ける。


「それともあなた達は、綾人がいないと戦えない弱虫の集まりだったのかしら?」 


 忘れてはいけない。ティターニは容姿に極振りた故に、性格がねじ曲がっている女であるということを。

 挑発を受けて先ず応えたのはサギナである。


「ハッハッハッハッ!!」


 サギナは盛大に笑ったあとティターニを見据える。


「なめられたものだな。このサギナ。例え首だけになっても、天使の首を噛みちぎってやるさ」


 怪しく笑う鬼女が二槍を構える。


「これだけ煽られたら、やらないわけには行かないな」


 ブットルが杖を構え水魔法を展開していく。


「私も! 足手まといにならないって、絶対に王子の力になるって決めてるから!!」

「俺様だってまだまだいけるぞ!」


 凛は己を鼓舞するように風魔法を繰り出す。

 ルードも小さな羽を弱々しく動かしもう一度戦う意志を示す。ティターニらしい激励は仲間を奮い立たせる。それを一番に受けなくてはならない男に視線を向ける。


「どうするの——綾人?」


 ティターニが綾人に言葉をおくる。それには様々な意味合いが込められている——その呟きと同時に白炎の勢いが如実に激しさを増す。


 ミカイルが再度のため息を吐き出す。

 何度心を折っても向かってくる人間に辟易としていたからだ。

 もう慈悲をくれる必要はないとばかりに、大きな白炎の柱がミカイルの背より立ち上がる。

 それは世界をのみ込む白炎であった。大きく、尊大で、神々しさに満ちており、人ではなく、超越した天使だから出現させられる威力。

 視界全てが白に染まる。隣に立つ者の姿も白く、木々や緑、空までもが白へと染まる。最高位の天使が全てを終わらせる為に使用した力は、誰も止める手立てを持たない。





 驚愕のまま、誰もが白にのまれていき、終焉が訪れた——だが終わりと寄り添うように希望もまた訪れる。





「綾人君!!」


 坂下美桜の叫びだ。白にのまれる世界で、一切の音が断たれた世界で、美桜の声だけが強く響いた。

 その叫びを聞き、笑ったのはルード、ティターニ、ブットル、凛、サギナの面々。この五名だけは白にのまれる世界でも関係がなく、もうひと暴れしてやろうかといった具合に武器を掲げ、魔法を発動していた。

 仲間達は分かっている。この状況を綾人が許すはずがないと、空上綾人という男は、いかなる危機をも覆すデタラメな男であるということが。




「なんだぁ!! この炎——ゲロみてぇに不味いぞ」




 事実そのような結果となった。

 白にのまれていった世界に色彩が戻る。木々や雑草、空、隣に立つ者、大地の色、そして敵である天使の姿。世界は白色を吹き飛ばし、これまでと同じ姿を人々に見せていく。


「なんだ、貴様は——」


 ミカイルは不可解な者を見る目であった。その視線の先にいるのは白炎から世界を救った空上綾人。


「おえっ!! ——まっず!! なにこれ! 牛乳絞った雑巾みたいな味する〜!! ってか俺、どうしてこんなの食えちゃってんだろ〜!!」


「綾人君! ぺってしないとお腹壊しちゃうよ!」


 心臓をくり抜かれ意識を失った男が、祖父との約束を果たすために復活した。体の傷はもう癒えている、美桜の懸命な治癒魔法のおかげである。

 そして龍の力を得ている綾人は、ルードと同じように白炎を喰らい世界の危機を救う。

 ミカイルの両手から溢れていた白炎は轟轟と音を立て、それが終着点かのように、引き寄せられるように綾人の口内に運び込まれていく。全ての炎の食らったあとに感想を述べる綾人と、妙な心配をする美桜であった。


「綾人君! おかえり!」


「おう! 世話かけたな美桜! サンキュー!!」

 

 二人は高校生らしい笑顔をおくりあうとハイタッチをし無事を確かめ合うと仲間たちが集まっていく。


「王子!」

「婿よ!」

「悪りぃ! 心配かけたな」


 凛とサギナには心配させまいとワザとらしいほどの大声で応え、無事を伝える。

 

「やれるか綾人」

「当然! お前こそやれんのかよブットル?」

「任せてくれ」


 ブットルは不適に笑い、杖を振るう。


「相棒」

「ルード、ぶちかまそうぜ!」

「オウ!!」


 ルードもいつものように綾人と言葉を交わし敵を睨む。


「遅いわよ」

「悪りぃ、ウンコのキレが悪かったんだよ」

「状況は?」

「大体把握してる、意識が戻りそうで戻らないのを繰り返してたかよ」

「そう。ではやるべきことは明確ね」


 綾人とティターニらしい会話である。心配し合う間柄ではない。ただ成すべきことを確認し合うだけだ。

 そこに築き上げられた信頼は誰も介入できない。

 

 指の骨をこれでもかと鳴らしながら綾人は歩く。

 この男にとっては敵がどのような存在かなどまるでどうでもいい。仲間を傷付ける奴を許さない。それだけである。

 綾人の左右にティターニとブットルが並ぶ。そこにサギナと凛も加わる。ルードは綾人の上空を飛び天使達に中指を立てる。歩む中には美桜も加わっている。


「さぁて!! 喧嘩祭りの始まりじゃ!! 死にてぇ奴から俺の前に出やがれ!!」

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