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剣とか魔法とかチートとか関係ねぇ男なら拳で語れ  作者: 木村テニス
最終章――天使と悪魔と神々と――
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激戦


 天使と人の戦いが繰り広げられる戦争は過激を極めていく。


「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ――――――!!」


 一人の名も無い騎士団員が叫びならが、ボロボロな体を引きづりながらも天使へと迫っていく。

 叫ぶのは空に蔓延る天使の群れにだ。一人では無い、多くの騎士団員が空に浮かぶ天使に叫ぶ。それは挑発であった。

 

 ――地上に降りて俺たちと戦え!!


 そう挑発する。だが天使の集団は空を駆け世界の隅々へと散っていく。

 それでも叫び、挑発し続ける。騎士団が必死に叫ぶ。彼らは皆気付いているからだ、ここで一体でも多くの天使を倒さねば世界に散っていく天使が力のない人々に手をくだすことが。力を持たない人々の中には当然に自分たちの家族もいる。

 だから叫び続ける。己の喉が潰れても、体が動かなくなろうとも、大切な家族を守るために叫ぶ。



「アルス! お願い目を開けて!!」


 ラピス姫は必死に声を上げアルスへと治療を続ける。

 抜き取られた心臓は回復魔法によってとうに完治しているが目を開ける気配がない。ぐったりと地面へと倒れたままである。

 それを守るのは騎士団一行。マグタスの指示の元、陣形を構え天使の使徒を迎え撃ち押し留めていた。


「お前ら!! この場を死守しろ!!」


「「「「「応ッ!!」」」」」


 団長マグタスの怒号に騎士団が応え戦線を押し上げ、天使らをアルスへと近づけさせぬよう奮起していく。


「姉上!」


「騎士団の指示はマグタスに任せよう! 王子の回復もラピス姫に頼るしかない。今は目の前の戦いに集中するだけだ。よろしいですねホッポウ殿!」

 

 白竜騎士の呼びかけに、黒騎士と華剣士が肯く。

 ハンクォー、シルヴァ、ホッポウの三人が相対するのは人に近い形状の男女の天使二名。

 三体二であり数の上では有利だが中々に押し切られずに苦戦を強いられている。


 ホッポウの大剣が振るわれる。豪腕から繰り出される一撃は鋼を両断するが天使には通用しない。

 対戦する女の天使は白銀の髪が美しい。細い腕で大剣を難なく受け止め軽々と切っ先を持ち上げると、二メートル以上あるホッポウの体までも持ち上げてしまう。

 美しく華奢な姿とはかけ離れた腕力に手を打てずに苦戦をしていた。


 シルヴァも同じく攻め手に欠く戦いとなっていた。美丈夫の天使はシルヴァの豪剣を躱し続けるばかりで反撃をしてこない。まるでジッと観察しているようである。 

 このままでは埒が明かないと七大竜守護神破邪(グリジーナ)の使用を試みるが、待っていたとばかりにさらい距離をとり観察を続ける。まるで撃ってこいと言わんばかりの態度であり、それがどうにも気味が悪く撃てずにいた。

 ——七大竜守護神破邪(グリジーナ)を使用した瞬間に何かが起きてしまう。そう思わせる危険な予感にシルヴァは抗えずに結局は剣の乱舞で天使を攻めるしかなかった。

 ハンクォーはホッポウ、シルヴァを補助する形で動き回っているが天使を足止めするまでには至っていない。




 また別の地でも激戦が続いていく。


「樹くん! 空の天使たちをお願い! 真琴はフォローを!」


「応!」「了解!」


 炎滅士である古賀樹の背から紅蓮の翼が生え空中へと飛び立っていく。その際に樹のいく道を阻む天使を園羽真琴が不可視の鎖で拘束していく。

 勇者一行も一体でも多くの天使を殲滅しようと攻撃の手を繰り出し続ける。指揮は勇者一行の頭脳でもある奏真緒。天使らは指示者である真緒を標的にするが当然にそれを許すはずがない。

 

「オラオラオラオラオラ!! ウチのブレインを狙おうたってそうはいかねぇぞ!!」


「然りである!!」


「貝塚君と石巻君はこのまま私の護衛をお願い!」


「応!」

「承知」


 貝塚翔の細槍が天使を瞬時に貫き、石巻寛二の戦斧が数体の天使をまとめて両断していく。 

 指示を出し続ける真緒はゾワリと気味の悪い感覚に襲われ左右を確認する。その正体は視界の隅で大勢の天使を従える一団であった。厳密にいえばその中心にいる他の天使とは違う存在。

 先の三人が対戦しているような人の顔をした天使である。しわがれた老人。腰が曲がっており、移動する姿もフラフラだが真緒は老人の天使を見た瞬間に警告の鐘がなる。


 ——あの天使は不味い——直感がそう告げていた。即座に戦力を分析し次の一手を計算していく。

 

「——真緒! もう限界だよ!」


 計算しながらも向けられた声に首を動かす。そこには大量の天使を押さえる真琴の姿。

 鎖で捕らえる天使は動き回り真琴の力量を超え始めている。


「ヤバイよ真緒! 樹ちゃんが!」


 焦った声は七海アスカの声。上空の樹が一人天使の群れと混戦しているがどんどんと高度が下がり苦戦しているのが見て取れた。


「奏! どうする!?」

「真緒!?」

「奏さん!?」


 天使を斬り捨てた勇者が奏に指示を仰ぐ。仲間の安否を気遣うアスカも同じように指示を出せと急かす。

 獣王に乗る小梅も奏を見つめる。真琴も翔も、寛二も皆が真緒の指示を待つ。


 真緒はそっと目を閉じた。一秒でも早く指示を出さねばならぬ状態で目を閉じた。


 終わる事なく迫る天使の群れ。さらには大量の天使と共にこちらに向かう危険な老人の天使。

 上空の樹は徐々に高度を下げ危険な状態。天使を抑える真琴もこれ以上は限界であった。  

 次から次へと変わる状況に真緒の計算が追いつかなくなっていたのかと誰もが感じ。絶望を顔に張り付かせた瞬間であった。 


「計算通りね」


 真緒は不適に笑った。


「真琴! 拘束を解いて!」


「え! この状況で!?」 


「早く!」


「りょ、了解!!」


 真琴は大いに戸惑いつつも真緒の指示に従った。

 不可視の鎖から解放された天使は様相通り樹を標的に動き出す。


「ガウちゃんさん、先生! 地底人の皆さん! それとアスカは真っ直ぐ進んで! 階段を上って踊り場で樹君と合流。真琴はそのフォローをお願い」


 名を呼ばれた皆が真緒の指示通りに真っ直ぐ前を向くと大きな階段が出現していた。自然の中に階段があるという、なんともアンバランスな光景となる。伸びに伸びている階段の最終地点は草野球でもできそうなほどに大きな踊り場が展開されていた。

 そこは丁度、高度を下げ続けた樹が足場として到着した高さであった。


「うぉぉぉぉぉ! 樹ちゃん今行くよ〜!!」

「ガウちゃん!! ごぉー!」

「待ってろよヘタレ樹!!」

 

 アスカを先頭に獣王と小梅、真琴が、三人を追うように多くの地底人が怒涛の勢いで階段を上りだす。


「ありがとうコッコちゃん」


「階段を作るくらいお安い御用さ」


 真緒は左肩に指を向けると子猫の精霊コッコちゃんが喉を鳴らし指先に額を擦り出す。


「ひゃ〜、これ全部計算なのかよ。恐ろしい女だなお前」

 

 一連をどこか他人事のように眺めていたのはウルテアだった。

 敵討ちという目的を果たしたウルテアは手持ち無沙汰となっていたが真緒の指示に関心を示し出す。


「で? この場に勇者を残したのはアレにブツけるためだろう? でもいいのかよ、勇者一人では少し数が多いぜ」

 

 ウルテアが指差すのは老人の天使を中心とした一団。斗真は分かっていたように聖剣を構える。


「いいえ、斗真君一人ではないわよ。危険な相手に勇者一人で向かわせないわよ。強力な戦力と共に向かってもらうつもり」


「うげぇ。私の行動まで計算済みってことかよ。嫌な女。おい勇者! 足引っ張んなよ」


「そっちこそ! 足を引っ張るなよ」


 ウルテアと斗真は目を合わせお互いに不適に笑い合うと、老人を中心とした天使の一団へと向かっていき、数秒後に派手な戦闘音を発生させる。 

 老人の天使は危険な存在である。であるならば最も戦闘力の高い者を向かわせるべきである。真緒は手持ち無沙汰になっていたウルテアの存在に気付いており、ここぞというタイミングで彼女を利用した。

 四方を囲まれている状況で最も適した布陣といえる。


「どこまでもあらがってやるわ。神様」


 空を睨む真緒。左肩ではコッコちゃんが「フレ〜フレ〜真緒」と踊りながら応援していた。

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