表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
剣とか魔法とかチートとか関係ねぇ男なら拳で語れ  作者: 木村テニス
一章~その男巻き込まれ体質につき~
14/188

最悪のプレゼント

「お母さ~んトマトの箱は何処に置くの~?」



「お~い東側の野菜収穫するぞ~手伝ってくれ!」



「北側の畑にビッグトードが現れたぞ! 冒険者は至急向かってくれ!」



 ミストルティンの街から三十分程歩いた所には広大な畑がある。様々な野菜が作られるこの場所は、ミストルティンに住む多くの者が朝から農作業に精を出す。


 塀は無く野ざらしな畑で働く人々は、魔物にとっては格好の餌食となるが、ギルドとの業務提携により、二十四時間体制で冒険者が常に安全を守っている。



 冒険者の声を聞きながら農作業をする各種族の人々。農作業を邪魔しないように手早く魔物を狩る冒険者。


 長年守られてきたこの畑は今日も今日とていつもの朝だった。



 一人の冒険者がそろそろ交代の時間かな。と空を見ると何かが降ってきた。地面にドサリと落ちたそれに目をやると、年老いた亜人だった。。農作業着をきた狼人(ウェアウルフ)は腹部に大穴が空き、既にこと切れていており。



「まっ――」



 魔物の敵襲だ! と声を上げようとしたがその声は上がらなかった。冒険者が最後に見たのは自分自身の体を包む鎧。


 首を切断された事に気付いたと同時に、倒れる自分の体を見ながら冒険者は絶命する。



「お母さ~ん! お母さっーー」



「魔物の群だ! みんな逃げッーー」



「至急ギルドに応援要請だ! このままだと全滅ッーー」



 次々と命を奪われていく農作業員と冒険者達。魔物が大群を率いて、まるで連携するように襲ってくる。


 畑から離れた場所で一部始終を見ていた冒険者が「ありえない」と漏らし背を向け逃げ出そうとするが、目の前に降り立った魔人族の色男に首を捻られ呆気なく殺される。


 畑にいた全ての者が殺された事を確認すると、太陽に照らされた大男がマスクに覆われた口許を三日月に歪めた後に、大きく頷いた。





 ーーー





 チュンチュン。



「んあ、あ~。朝」



 カビ臭いベッドから起き上がる、異世界でも雀的な鳴き声で人は起きるのか、と妙な親近感を覚える綾人。


 体を伸ばしたあと立ち上がり、日の光を浴び今日一日の動きを考える。



「よ、よう。おはよう……相棒」



 勝手に相棒認定してきたルードが朝の挨拶をする。年齢三千五百歳だが見た目は産まれて間もない幼竜の姿。リアル見た目は子供頭脳は大人の持ち主……だが何故かそわそわしている。



「相棒、今日、どうすんだ? ギルドに行くのか? つ、疲れてないか、何だったら俺しばらく外出てるけど……」



 何だか妙な気遣いをみせるルードが気持ち悪く、半目でずっと見続けると



「やっ、まぁ、その、なっ! 相棒もそういう年頃だったなと思ってよ。ルード様としたことが気付いてやれなくて悪かったな」



「待て! 全く話の主語が伝わらねぇぞ何モジモジしてんだ言いたいことあるなら言えよ」



「いや、だから、その、アレだよ。相棒昨日の夜中に一人でごぞごそと………なっ! まさか架空の人物とその、まぁ趣味っつうのは人それぞれだし次やる時は一声掛けてくれりゃあ外出とくからよ」



「ちょっと待て。何か勘違いしてないか? 夜中にちょっとした会合っていうか人と話してたんだよ!」



 綾人の言葉を聞き狼狽するルードは。



 「設定とか説明しなくていいからよ」



 と告げ部屋を後にする。



「おい! 聞け! 何となく想像ついたけどその勘違いはマジで止めろ! 聞けって!」



 扉がバタンと閉まり一人になる綾人。



「聞けって!」



 綾人の叫びを耳にたルードは大人の表情で外へと向かった。




 ーーー




 宿を後にしギルドへ向かう綾人とルードだが、



「だから違うって夜中に頭の中に話し掛けてきた奴がだな」



「相棒その話は終わりにしようぜ。ルード様は全部分かってるからよ。なっ?」



 なっ? の部分で尊いものを見る表情のルード。



「てめっ話ぐらい聞けよ!」



 ミストルティンの街は朝から人の行き来が激しく、相変わらずの忙しなさだ。綾人とルードが言い合いをしていると、品のある清潔な声が掛けられる。



「あなた達は朝から煩いわね。低血圧な私にはその低俗な声がいたく耳障りだわ」



「お前は朝からブレないんだな」



「お前じゃないわティターニよ」



「ちょっとちょっと聞いてくれよティターニ! 実は昨日綾人の奴がよ!」



「てめぇクソ邪龍! 勘違いしたまま変なこと言うんじゃねブッ殺すぞ!」



 この三人で居ることに、違和感を感じなくなったティターニは思わず笑ってしまう。



「それはそうと綾人、貴方もしかしてずっとその格好のままだったのかしら?」



 ティターニが怪訝な眼差しを綾人に向ける。それもそのはず綾人の服装はボロボロだ、黒のTシャツとボンタンはあららこちら破れ、素肌が見えている。それに泥だらけのローファー。とてもじゃないが一緒に歩きたくは無い。



「そういやボロボロだなこの服、俺のトレードマークであるスカジャンも無いし。ヤバっ! なんか急に恥ずかしくなってきた」



「ギルドに行く前に装備を揃えに行きましょう。お金は私が出すから昨日の報酬を貰ったらちゃんと返してね」



 ティターニは嘆息を一つ吐き歩き出す。絶命女王の威厳だろうか。綾人とルードは逆らうことができずに淡々と後を追う。



 ミストルティンで一番の装備品を扱う店(ティターニ談)を訪れた三人。店内は鎧や盾、剣に槍、その他にもローブや軽装の服がこれでもかと並んでいる。



「いらっしゃ――ってなんだあんたか。注文の品は出来てるよ」



 店内奥に座るのは上背が低く、樽のような体型の亜人ドワーフ。店主であるドワーフは店内のさらに奥から、一つの鎧を持ち出しカウンターに置く。


 置かれたのは白と緑を基調とした軽装の鎧


 鎧と呼ぶには衣服の部分が多いそれをティターニは手に取る。



「ご要望通りに金属部分には、超硬度のミスリルとペンタゴンドラゴンの鱗を混ぜ合わせておいたよ。重さはどうだ? あんたの動きを邪魔しない位にはしてある筈だ。

衣服部分にも注文通りに白金竜の皮膚で仕上げといたぞ、全属性耐性の付与付きだ。作るのに半年も掛かっちまったからな。代金はガッポリ頂くぞ」



 店主の声を聞いたティターニはニヤリと狩人の笑みをする。



「流石ミストルティン一の腕ね。お金は言い値でいいわよ。こんな素晴らしい鎧には二度と御目にかかれないもの。それと彼に防具を一式与えて頂戴。代金は私が払うから」



 ティターニに指を指された綾人は、展示されている鎧をルードと一緒にペタペタと触ったり、兜を被ったりと、完全に冷やかしにきた客のように遊んでいる。



「奥で着替えさせてもらうわ。覗いたら殺すから」



「けっ! 誰が覗くか」



 ティターニの言葉に悪態で返事をする店主。



「おい兄ちゃん! 兄ちゃんは何の武器使うんだ?」



「武器?」



「扱う武器によって防具も変わってくるからだ。でっ、何の使い手だ? 剣か? 槍か?」



 あぁ~と、相槌をする綾人。自分が何の武器を使うのか考えた後に、一つの美学を思い出す。



「オッサン俺の武器はコレよ!」



 拳を胸の高さに上げ、ドヤ顔を決める

 何故か綾人の後ろでそれらしいポーズを取るルード。



「拳か? って事は爪を装備するのか、近接系となると……」



 店主はぶつぶつと言いながら、店に陳列されている防具を選び出す。



「いやいやオッサン。爪なんて装備しねぇよ。俺は素手喧嘩(ステゴロ)主義だから」



 綾人は再度ドヤ顔を向ける。何故か綾人の後ろでそれらしいポーズを取るルード。



「あんちゃん多分だけどバカだろ?」



 と真顔で店主に突っ込まれる。



「素手で戦う奴なんて人間族にはいないぞ、武闘家やらの近接系のジョブに就いた奴は爪を装備するのが普通だ。ここにも其なりの武器があるから見繕ってやるよ」



「武器はいらねぇって、それよりいい服用意してくれ! スカジャンとかある?」



「すかじゃん?」



「龍とか虎とか刺繍されていれば尚よしだ!」



 店主は大いに顔を歪めた後に、ちょっと待ってろと告げ、ごそごそと服のスペースを漁り始めた。




「素晴らしいわね」



 新調した鎧を身につけたティターニは、感想を述べながら再度店内に姿をみせる。



「おっ! ティターニいい感じじゃねぇか」



「綾人……新調したのよね?出会った頃とあまり変わらないような服装だけれど」



「そうか? まさか異世界にもスカジャンがあるなんてな思わなかったぞ。オッサンいい仕事すんじゃねぇか!」



 綾人が新調した上衣は背中に龍と虎が描かれた、白と黒を基調とした分厚めのスカジャン。下は黒色のズボンとブーツ。


 今まで着ていた服と見た目はあまり変わっていないが性能は段違いだ。



「その服も一級品だから大事に着てくれよ。にしても兄ちゃん本当に武器はいらねぇのか? ナイフ一本くらいは持っといた方がいいんじゃねぇか?」



「店主の言うとおりよ綾人。武器の一つも持たない冒険者なんていないのだから早く選びなさい」



「んなことより見てくれティターニ、ジャジャ~ン!ど~よこのTシャツ! ダサすぎて一発で気に入っちまったよ」



 何故か綾人の後ろでそれらしいポーズを取るルード。【三代目 俺 】と書かれたTシャツを自慢する綾人と騒ぐ幼竜



 気持ちの良い位の無視をするティターニは事務的に会計を済ませ、先にに行ってるわ、と告げ店を出る。店主に薄め目を向けられた綾人もそっと店を出た。



 その後は道具屋に寄りポーション(回復薬)等を揃えギルドへ向かう。



「なぁそのポーチってどうなってるんだ? ポーチの大きさ以上の物が出たり入ったりしてるけど」



 綾人が疑問に思うのも当然。装備屋では大量の金貨が入った袋を取りだし。道具屋では大量のポーションをポーチに入れたティターニの腰元にあるポーチは、明らかにその形状より多くの物を出し入れしている。



「収納袋と呼ばれる物よ。中に空間魔法の印が刻まれているから見た目に関係無く結構な物が入るわよ。冒険者を続けるなら持っておいた方が楽よ。かなり高いけれどね」



「へ~便利なもんだな異世界は」



「まぁ収納できる物量も決まっているし。食べ物何かは腐っていくから本当に物を入れる為の袋、という感覚かしら」



「話してる所悪いんだけどよお二人さん。何だかギルドに近付けば近付くほど騒がしくなってないか?」



 綾人の頭に乗るルードが、辺りをキョロキョロと見渡しながら不信感を口にする。



「確かに。騒がしい街だけど何だか今日はより一層だな」



「ちょっと様子がおかしいわね。ギルドに急ぎましょう」



 綾人とティターニは小走りでギルドに向かう。ギルドの入り口前には大量の人山。ギルド職員が走り回り。鎧を身につけた街の衛兵までも、何かに追われるように動き回っている。人山をかき分けギルドの入口に辿り着くと。



「なっ……」



「おいおい」



「………」



 綾人は驚愕しそれ以上声を出せなくなる。


 ルードは幼い顔を歪ませた後に驚きの言葉を口にし


 ティターニは沈黙し目の前の光景に目を細める。



 ギルドの入り口には大量の死体が山のように積まれている。


 老若男女様々な種族の死体は頭と体が分断された死体。

 手足を切り取られた死体。

 顔を潰された死体。

 玩具の人形のように遊ばれた死体。

 辱しめを受けた死体。


 直視するには余りにもな光景に綾人は目を反らす。反らした先には泣いている亜人の男や人間の女、それに子供がいた。周りを見ると人山の大半がなりふり構わず大声で泣いている。


 この状況は察するまでもなく、殺された人達の家族。綾人はやりきれない思いで奥歯を噛み締める。ルードもこの場面では何も言えずに下を向く。ティターニは表情を変えずに目を閉じ冥福を祈った。




【あぁ~テステスマイクテスト1・2これ大丈夫? えっもう流れてるの! ちょっと! オホン。ミストルティンの皆さんご機嫌よう。僕からのプレゼントは気に入って頂けたかな?】



 ミストルティンの街全体に響いた声に、沈痛な空気は一時中断さる。



【僕も本来は無用な命を奪うのは心苦しいのだけども、どうしてもやらねばいけない事があるんだ。まずそれを理解して欲しい】



 街全体に響く声がこの惨状の原因だと皆が理解した。



【今から十分後にミストルティンの街全体に、大量の魔物を送り込もうと思っている。この意味分かるよね?つまり今この声が聞こえている人達は全員死ぬ事になる。私は嘘はつかないよ。疑っている者がいるならギルドに行ってみるといい、素敵なプレゼントが見られるからね】



 その声に誰もが反応できないでいた。威厳ある先生の話を聞く優等生のように、ミストルティンの街は静寂に包まれた。



【だが一つだけこの街を救う方法がある。大量の魔物が襲ってこない方法がある。それは……】



 何かの魔法にかけられたように皆が空を見る。



【冒険者の綾人が東地区の山岳まで一人で来たらミストルティンの街は救われる。たったそれだけだ! 綾人、聞いてるんだろ? さぁ街を滅ぼすか一人で来るか君はどっちを選ぶんだい? あ~楽しみ楽しみ。一人で来なきゃ意味無いからね。ここ重要。街の皆はどうするんだい? 逃げきれると思わないでね。君達が助かる方法は綾人一人が街を出て山岳に向かうのみ! じゃあ今から十分間ね~よ~いスタート!】



 今まで冷静なふりをしていた声は、感情が抑えきれずに騒ぎ出した後。二度と聞こえなくなる。



 ティターニとルードは綾人を見る。綾人は奥歯を噛み締めながら、家族の死に泣く人々をじっと眺めた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ