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一幕は終わり二幕へ


「錬金術。なんちゃって〜」


 嵐はふざけた様子で膝を曲げ、合わせていた両手を地面につける。

 次には背後の一部の空間が黒へと変わる。全長二メートルほどの黒の空間には映像が映し出されていた。それは先ほどまでの戦い。

 ウルテアが地竜を操り、斗真、飛鳥、翔、ハンクォーが応戦している。レットとマグタスが剛拳と剛剣を交え、樹、寛二、真琴がフォローしている映像は、さながら映画のワンシーンのように流転していく。

 

「へぇ、良い連携だね。これならレットとウルテアが負けちゃうのは仕方がないのかな?」


 一人クツクツと笑う彗。


「皆さん! 曽我部さんを止めましょう!」

 

 ハンクォーが我先にと駆ける。嵐が何を発動しているか見当が付かないが、この場では悪い流れになるはず。という考えは当然であり、現にそのように物事が進む。


「ソネット! 休憩はもう終わりよ!」


「やれやれ、オフィール殿はどうして私にばかり厳しいのでしょうかね。優しく接してほしいものです」


 ハンクォー足を前に出すことを止め咄嗟に屈む。何故そうしたかと言われれば、体がそう動いたとしかいえない。本能が最大限の警告を鳴らしたからだ。


「はは! ソネット。得意の一撃を躱されるなんて全然ダメじゃん!」


「いえいえ彗殿。このお方の腕が立つのですよ」


 ハンクォーが屈むと同時に大鎌が水平に振られていた。一瞬でも回避が遅れれば間違いなく首が飛んでいたであろう。彗はつまらない観劇に野次を飛ばす態度である。

 

「また影からか⁉︎」


 ハンクォーの言葉通り、ソネットは炎に照らされた影より、音もなく現れていた。細剣を閃かせ追撃に出ると、影の中に逃げるソネット。

 ——だがそれは捕縛士が許さない。


「あら? 体が動きませんね」


「ハンクォーさん!」

「助かります、園羽さん!」


 見事な連携である。真琴の素早い行動に彗は口笛を吹き称賛を送るが、それが本意かは不明である。

 ハンクォーは素早く、身を翻しソネットの正面に立つと、美丈夫と死神の妙な対面が果たされた。


「良い男は嫌いですね。殺しましょう」


「奇遇ですね。私も枝のような軟弱な男は好きになれないんですよ」


 ソネットは枝のような体を更に細くするという奇怪な技で真琴の捕縛を抜ける。その細さは爪楊枝ほどである。瞬時に元の体型に戻ったソネットは大鎌を振るう、奇妙な技にも動揺せずハンクォーも細剣を振るい迎撃する。


「園羽! お前ってどうしていつも髪短いの? 長い方が似合うんじゃない?」


「はぁ⁉︎」


 緊張感が満ちる場で先ほどから彗の発言は異端でしかない。観劇中に自らも舞台に立つ素人である。

 真琴のすげない口調にも彗は笑って返答をした。「まぁ、嫌でも伸ばさせてやるさ」と漏らした声は誰にも届いていない。


「ハンクォーに続け、アレを止めさせろ!」


 マグタスの指揮により一斉に動く、アレ(・・)とは嵐の背後で流転し続ける映像である

 映像は、斗真がウルテアを消滅させ、真琴のスキルがレットをのみこんだ所で止まる。 


「オフィールさん」


「はいはい。彗ってば人使いが荒いんだから。さて、勇者様には新たな試練を乗り越えてもらいましょう」


 羽のようにふわりとオフィールの体が浮くと、背後に小ぶりの魔法陣が七つ現れる。

 赤色、青色、黄色。緑色、紫色、桃色、灰色、計七つの魔法陣が回転し移動する。縦横無尽に動くが決してオフィールの背後から飛び出す様子はない。

 

「あら、この子達も興奮してるみたいね」


 魔法陣に対してまるで生き物かのような口調である。

 虹の魔女が何かを仕掛けてくる。全員がそれを理解した。考えられる最善手はオフィールの攻撃を躱し、嵐が発動している何かを止めること。実行する為に皆が駆けた瞬間であった。


 ゾワリ――まるで胸元に刃を突き立てられた衝撃が美桜を襲う。

 美桜と真緒だけはその場から動いていない。堕天をしていない美桜と、非戦闘の真緒では足手まといになることが目に見えているからだ。故に気付けた。


 ――このまま向かっていけば、みんな死んでしまう。


「ダメ! 止まって!」


 美桜は喉が張り裂けんばかりに叫ぶ。

 駆ける者達はそれに驚く、大声を出さない美桜が必死に叫ぶ姿を。

 

 ——瞬間に景色が変わっていた。城攻めを受けた庭園から、日差しの強い海岸へと変わっていたのだ。


 さざ波が聞こえる。波がちょうど寄せては返す瞬間であった。砂浜もあり波打ち際に立っていた。僅かに濡れる足元。

 海は碧く、空は蒼い。照りつける日差し。状況さえ許せばそのままバカンスと洒落込みたいほど清々しい。


「はっ? なにこれ?」誰の声だろうか? おそらくアスカだろう。あまりにも素っ頓狂な声であった。


 言葉通り、意味が分からない。マグタスもわからず困惑している。斗真、樹、寛二、翔、アスカ、真琴は理解が及ばす立ち続ける。他の面子はいない。波の音が心地よく、頭がぼうとしかけた時―― 。


「ダメ! 止まって!」

 

 美桜の声である。姿はない。だが、各自に聞こえた。空からだろうか?

 

「――みんな! 目を覚まして!」


 また、美桜の声である。目を覚ませ? 目は覚めている。どうしてそんなことを言うのだろうか?そもそも、美桜自身は何処にいるのか? もしかして、これは敵の罠なのか? 敵というのは誰なのか? いや、そもそも同じ苦難を共にした美桜の声は何度も聞いている。だから間違えるはずがない。であれば目を覚ます、というのは―― 。


 そこで意識が覚醒した。薄膜を全身で破るような感覚。大きく息を吸い込もうとしたができなかった。美桜が呼びかけたそれぞれは、大きな水の塊である水塊(すいかい)の中にいたからだ。


「あら? お早いお目覚めね? 青の子のお腹の中は楽しんでもらえたかしら?」


 オフィールの前方に青色の魔法陣が展開されていた。それは先ほどまで背後で動き回っていた魔法陣が大きくなったものである。

 美桜が見ていた光景と、みなが見ていた光景は違っていた。オフィールが浮くと同時に、何もない空間から水塊が発生。皆はそこに突っ込んでいき。自ら窮地に飛び込んでいったのだ。

 目覚めた勇者が聖剣に力を込め、内側から水塊を両断する。すぐに普通の水と化し、皆は解放された。水中に放り込まれたような気怠さ、獲物、鎧、衣服が濡れ、不快感に包まれる。呼吸をする度に鼻や口から水がでて、むせる始末である。


「止まるな! 行くぞ!」


 マグタスの(めい)を受け、再び移動を開始すると違和感に気付く。先ほどまで濡れていたのにも関わらず、もう濡れていない。乾いたのか? それにしては早すぎる、鼻を刺激する水の様子も無い。水塊に突入する前の状態に戻っていた。

 オフィールの前方に展開されていた青色の魔法陣が今、小さくなり背後で動き回っていた。

 どうにも薄寒い感覚に襲われる。狐に摘まれたような、先ほどの水塊は魔法だったのか、それとも幻覚だったのか、勇者一行を見下す魔女は何が面白いのか「ふふっ」と妖しく笑いだす。

 

「時間稼ぎありがと。もう完了だよ」

 

 嵐の背景の映像が止まった場所は、ウルテアとレットが勇者一行と戦う前であった。

 そこから、黒い空間は砂嵐のように掠れ出す。違和感に直ぐに気付く。掠れて見辛くなった映像のウルテアとレットの視線が勇者一行に向けられる。それは映像の中ではなく現実にいる勇者達にだ。歩く方角も。現実の勇者に向かってである。そうして映像から抜け出すように、グイと体を現実世界に向けて移動を開始。


「なにがどうなってんだよ」


 翔らしい、純粋な気持ちからの言葉であった。先ほどの、水塊といい、映像から実物が現れる状況といいデタラメなことがまかり通っていた。

 非現実を現実に変える魔法という存在に、勇者一行は改めて困惑していく。

 そうして非現実の映像からウルテアとレットが無造作に現実世界にゆっくりと踏み入れる。


「やるじゃん勇者。ボクを一回殺したこと、褒めてやるよ」

 

 地面に足をつけ、首を回すウルテアは大仰な態度で勇者を見つめだす。


「いささか納得できかねるやられ方だが、アイディアとしては褒められる。及第点という所か」


 レットも同じように復活を遂げる。二人は一度殺されたにも関わらず予定調和という態度であった。


「復活がちょっと雑だったけど、まぁ、いっか」


「ハハハハッ! ウルテア。先ずはお礼を言えよ」


「彗よ。よくここが分かったな」


「まぁね。俺、頭良いからさ。だいたい分かっちゃうんだよね」 

  

 ウルテアの意地の悪い言い方に嵐が応え、レットの言葉に彗は皮肉をたっぷりと込める。このやりとりで、長い時間を過ごしているのが分かる。

 

「これで一幕は終了といったところかしら?」


 ハンクォーとソネットの斬り合いも一旦は終わりそれぞれの仲間の元に戻ると、魔人族と勇者一行が対峙する形となった。


「さて、勇者様。いえ、皆様――」


 オフィールが斗真だけではなく、勇者一行に視線を送る。


「改めて、私たちと共に世界を救いませんか?」


 スッと差し出されるオフィールの右手。だが勇者一行は武器を構える。

 

「あら? やはり受け入れてくれないのですね?」

 

 残念といった表情のオフィールだが、そのような音色は一切含まれていない。ジリと睨み合う双方。

 オフィールの怪しい笑み、ウルテアはまだかまだかと、戦闘の準備を待つ。レットはそこはかとない圧力を放つ。ソネットはため息を吐きながら大鎌を構える。嵐と彗はダラリと手を下ろしやる気のない構えをとる。


 勇者一行に暗さや絶望はない。

 マグタスとハンクォーを先頭に武器を構える姿は堂々としている。斗真、樹、寛二、翔、アスカ、真琴も戦士の顔である。やることは同じだと態度で示している。

 いつものように、武器を使い、技を使い、ただ敵を滅ぼすだけである。


 勇者一行の後方では、美桜が膝を付き祈りを捧げる。真緒は戦闘に参加できない悔しさを唇に当てていた。


「では、力づくで従わせましょうか」


 虹の魔女の言葉と共に、大規模な戦闘が始まった。

 

「勇者は誰にも渡さないよ! ボクの獲物だからね!」


 一早く動いたのはウルテアだ。好戦的な態度は復活前と同じである。五指を広げ不可視の糸を操る。


「アスカ! 斗真君!」


 後方からの司令塔――奏真緒の指示が飛ぶ。


「了解! このロリっ子には本当のロリ道を分らせてやる! 行くよ、斗真っち!」

「あぁ。七海。手早く終わらせて皆の手助けに向かおう」


 勇者の声が低く重い。だがどこかうわついていた。人の機微に敏感なアスカだからこそ気付いた違和感である。


 ――斗真っち、喜んでる?


 そう問いかける前に戦闘は開始された。



「ウルテアはどうにも勇者にご執心だな、さて、私と奴は限られそうだ」


「みてえだな」


 マグタスが大剣を肩に担ぎながらレットに近づいていく。


「まぁ、妥当なところだ、一人でいいのか? 仲間と共に私に向かってきてもよいのだぞ」


「はっ! なめんじゃねぇぞ! こちとら人族最強の矛から騎士団団長の座を任された責任ってもんがあるんだ。それにうちの司令塔は厳しくてよ、一人で倒してこいってのが命令だからよ!」


 豪剣と剛拳が再び混じり合う。



「さて、仕事をしないとオフィール殿に怒られてしまいますね。では――ッ!」


 ソネットが影に潜り込もうとした時。閃光のような素早い一撃に襲われ、咄嗟に身を翻す。息する間も無く、上方から振り下ろされた一撃は転がって回避。石畳を割るほどの重い一撃であった。


「奇襲は失敗しましたね」


 ソネットの平坦な声が向けられた相手は、翔と寛二である。


「何が何やらって状況だけどよ、人間やめてまでお前ら(魔人族)になるつもりはねぇからよ!」

「同意!」


 細槍と戦斧、大鎌が交差しあう。



「もしかして、俺と嵐の相手ってお前ら? いやいや無理でしょ。俺らめっちゃ強いよ?」


「あん! お前らが強いとかどうでもいいわ、全部まとめて燃やしてやるよ」


「ハハハハっ! なぁ、彗。やっぱり樹って典型的な陽キャだよな、発言がいちいちカッコいいもんな! 園羽もそう思うだろ? ハハッ!」


「ねぇ! やっぱり変だよ、ウチらクラスメイトじゃん! 戦うなんておかしいよ!」


 真琴の発言は当然である。姿が変われども元は人間。それもクラスメイト同士が殺し合うなど本来は合ってはいけない。だがそんな常識の範疇にある言葉は、彗と嵐をただ盛り上げただけであった。


「ハハハハハッ! そうだよ殺し合うなんて変だよ。ハハハッ! でもやり合うけどね!」


「園羽。クラスメイトだから戦うんだよ! お前らがノウノウと過ごしてた時に俺らがどんな思いで魔人族になったか、その辛さをクラスメイトとしてお前らに教えてやるんだよ!」

 

 嵐が茶化し、彗が興奮した様子で捲し立てる。求めていない返答に真琴が絶句する。心の痛みを堪えながらも、もう一度説得を試みた時に樹が止めた。

 

「真琴、難しく考えることはねぇぞ。ようはこいつらブッ飛ばして一旦黙らせたあと話し合えばいいんだよ」


「ハハハッ! うける~! 樹! お前と園羽って付き合ってんの? 名前呼びとか仲良いね! ハハハッ!」


 囃し立てるような嵐を無視して樹は自身を発火させ、広範囲に炎を広げる。

 真琴は気の進まない様子で、五指を広げ出す。

 クラスメイト同士の戦いが始まる。



「全くと言っていいほど無謀ですね。かの大魔女を私一人で押さえ込むのは不可能に近いというのに。奏さんも無茶な指示を出してくれますね」


「あら? そのわりには随分と嬉しそうな顔に見えるけど?」


「それは勿論。伝説とまで謳われた相手に刃を向けられるのですから、戦士としては嬉しい限りです!」


 ハンクォーは珍しく興奮した様子で、オフィールに刃を向ける。

 大魔女と華剣士との戦闘が始まる。



 それぞれの場所で始まった戦闘。

 美桜は絶えず回復魔法を行使し続ける。合計で八名分の回復を一手に担うなど相当な負担である。回復専任(ヒーラー)でも八名に回復魔法を使用し続けても数分しかもたないはずだ。直ぐに魔力は底をつき激しい縛りに襲われる。美桜はそれを類まれない努力と反復練習、日々の研鑽で磨き上げてきた。あの大転移の日以来、彼女の成長はグンを抜いていた、故に美桜は己にかかる負荷など意にも介さず、全身全霊で仲間の傷を癒し続ける。 

 

 同じく戦闘に参加していない真緒はジッと戦闘の行方を見守り、唇を噛み、脳が焼き切れるほどに最善手を導き出し続ける。

 自身で導き出した結果に抗うべく。彼女もまた戦っていた。

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