嵐の前の悪巧み
「ステータスオープン」
三度目となるその言葉を口にすると、くるくると回りながら目の前に現れるのは、A5サイズ程の銀色のプレート。この世界てばステータスプレートと呼ばれる物だ。
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名前 空上綾人
ジョブ:天上天下唯我独尊
Lv 19
力:290
耐久:290
器用:0
俊敏:290
魔力:0
スキル :男道・不倶戴天・喧嘩上等・石頭・ステータス向上・言語共通
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「スキル増えてる…」
時刻は深夜0時、露店で食事を済ませた後、一泊銀貨2枚(日本円にすると二千円)のボロく全体がカビ臭い宿屋に宿泊する。
綾人は部屋内にあるこれまたカビ臭いベッドで横になりながら、ステータスプレートを眺める。
「ンガッ。ンギッ~フゴッ!」
ベッドの足元には丸くなり既に熟睡のルード。見た目だけならば可愛らしい幼竜に一度目を向け、もう一度ステータスプレートを見つめる。
「ティターニより弱いのが、なんか嫌だな……」
頭のなかに登場したのは傲慢エルフは勝ち誇った表情と、侮蔑の目を向けてくる。
「なんてこった。人の頭の中でも偉そうとか、最早手遅れだなあのエルフ」
ーーー
「くちゅん!」
と何処かの高級宿で何処かの某エルフが、可愛らしいくしゃみをするが、誰もその姿を見ることはない。
ーーー
「新しいスキルの石頭は何となく分かる、あの黒ゴブリンと戦った時のスキルだろうな。喧嘩上等は何なんだろ?読んで字の如くなのか?もう一つのスキルは、え~と、ふ、ふ……ふ何ちゃらは何のスキルなんだろ?」
(恐らく不倶戴天と読むはずですよ)
「あ~やっぱり。そうだと思ったもん。不倶戴天ね。どんなスキル何だろ?そういや男道とかLv1からあるけど何なんだろ?」
(スキルの効果を知りたい時は、スキルに指を当てスキル名を言葉にして見てください。ステータスプレートはスキルプレートに変わり。その効果を教えてくれますよ)
「へ~、じゃあ不倶戴天」
プレートのスキル欄にある不倶戴天に指を当てスキル名を口にすると。綾人の数値を表していたステータスが消え、携帯画面に文字を打つような早さで不倶戴天の効果を表す文字が、一文字一文字表示された。
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スキル:不倶戴天
効果:怒り・憎しみが力に変わる
敵を討つまで全ステータス一時的急上昇
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「おぉ!こんな便利な機能があったのか、ティターニに教えて上げよ」
(ジョブに就いている者ならば、誰もが知っている事ですよ。ジョブを与えられた時に、説明を受けると思うのですけど)
「そうなんだ。まぁいいや他のも見てみよ」
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スキル:石頭
効果:発動時頭部のみ耐久が9999。
スキル:喧嘩上等
効果:自身の体に傷を負えば負うほど戦意高揚し傷の痛みを感じなくなる。自動回復の役割も果たす。
スキル:男道
効果:目的の為なら歩みを止めない全ステータス一時的急上昇
スキル:ステータス向上
効果:Lvが上がると自身のジョブに関連するステータス数値が通常よりも高く上がる。
スキル:言語共通
効果:あらゆる概念を自身の知識・認識へと置き換える。
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「ほぉ~こんなんなってるのか。便利なもんだなこのプレート」
(とても個性的なスキルですね、人となりが分かるようです。通常のステータス表記に戻す時は、掌をプレートに押し当てれば戻りますよ)
言われたとおりにプレートに掌を押し当てた後、離すと銀色のプレートはスキル説明が消え元のステータス画面へと戻っていた。
「へ~、なんで誰も教えてくれなかったんだろ?ってかこれジョブの説明とかもしてくれるんじゃないの?」
ジョブ欄に指を当て天上天下唯我独尊と言うが。プレートは変わらないまま。
(残念ながらジョブの説明は表記されません。このジョブも与えられた時に説明を受けるのですが……ですがこのジョブはとても興味がありますね)
その言葉で思い出したのは召喚された王宮内。あの豪華絢爛な場所でジョブを与えてくれたオッサン(本当は偉い人)は綾人のジョブを説明できずに、逃げるように去っていった姿を思い出す。
自嘲ぎみの笑いを一つしたあとにこれ迄の事を思い出す。
三ヶ月振りに学校に行くと異世界に召喚されて変なジョブ与えられて。
石巻寛二と対決して。
坂下美桜の泣き顔を見て。
無限牢獄に飛ばされて。
ルードと出会って。
やっと抜け出せたと思ったら死にそうになって。
ティターニに助けられて。
ゴブリンと戦って……
「んで骸骨マスクかぁ……振り返ると結構ドタバタだったな」
(色々あったのですね)
「ってかさぁ……」
(はい)
「あんた誰? なんか頭の中でずっと声がしててすげぇ~怖かったんだけど。俺病気とかじゃないよな? あえて無視してたんだけど、ガチガチの合いの手入れてくるしさ、さすがに無視できねぇわ」
恐る恐るだが見えない相手へと喋りかける。
(これは大変失礼しました。私、精霊族代表の一人エアリアと申すものです)
先程から頭の中に響く声は意思の強そうな女性の声。
「いや、名前とかいいからさ。どうやって人の頭に話し掛けてんの? あ、やっぱり答えなくていいので、早く出てって下さい」
(私の思念魔法で話しかけております。このような形で話しかけてしまい、誠に申し訳ございません。ですがこれには理由があります、聞いていただけますか?)
「聞きたくないので早く出てって下さい。俺もう寝るんでおやすみ――」
(あれは私達の領土に一人の異世界人、いえ日本人が迷い混んだ事から始まります)
「俺の声聞こえてるよね? 絶対聞こえてるよね?」
(名前は野々花凛。あなた様と一緒に日本からこのデンバースへと召喚された日本人です。同じクラス。というものだったと聞いております。凛のことは覚えておいでですか?)
「えっ? あぁ、もちろん――覚えてるよ。あれだろ図書委員的な感じの、大人しい子だろ? 昼休みずっと本読んでるタイプの子でしょ?」
(凛は活発で明るく、本を読むとうよりは外に出るタイプの子だと思うのですが)
「あぁ~そっちのね! そっちの方の野々花さんね分かる分かる。元気な子だよね! 分かるよ」
(………)
コホンと咳払いを一つした綾人は続きを促す。それはこいつ同郷の人間の事何も知らないのかよ。という空気を感じ取ったからでは無い、決して無い。
(凛が精霊族の領土に転移してきたのは、一ヶ月程前でしょうか。森の一部に転移術式が表れ確認しに行くと、凛が気を失い倒れていました。人間族との交流を持たない私達ですが、ここで見捨てるには余りにも残酷だ、という結論に至り。凛を保護することに決めたのです。
初めのうちは凛も私達も戸惑い、お互いにどう歩み寄ればいいか分からず、混乱はありましたが)
二度目転移で飛ばされたのが自分だけでは無い、と知った綾人は興味をもち素直に話を聞き始める。
(ですが凛の明るさや素直さ行動力に皆が刺激され、異世界の知識に興味を持ち。気が付けば凛の周りには大人も子供も関係無く、多くの精霊が集まり賑わうようになりました。
凛が話せば皆が笑い、凛が動けば皆が集まる。一人の力でこんなにも私達の種族が明るく幸せになるのかと……目を瞑ると、今でもあの賑わいを思い出してしまいます)
「えらく好評価だな、こっちは毎日毎日野菜作りに勤しんでたのに、まぁ楽しかったからいいけど。んで結局何を聞かせたいの?」
(はい、精霊族は戦争を嫌い無関心を貫いており、種族間の戦争に巻き込まれることなく平和に暮らしてきました。
ですが先日何の前触れもなく、亜人族の大軍が私達の領土に侵入し、戦争を仕掛けてきたのです。必死に抵抗しましたが、急な襲撃に土地は汚され。多くの精霊は亜人族に捕らわれました……次々と皆が捕らわれるなか、子供達を庇った凛までもが亜人族に捕らわれてしまい――精霊族の領土を蹂躙した亜人族は、捕らえた精霊と共に自らの領土へと去って行きました。あの時の皆の顔と声は忘れられません)
亜人という言葉に引っ掛かる綾人は眉根に皺を作りあの言葉を思い出す。
(恐らく捕まった精霊族は、奴隷か捕虜としての扱いを受けるている筈です。心苦しいですが我々の問題だけならば我々で対処します。
ですが凛はただ巻き込まれただけ。それを思うと居た堪れません。ですのでどうか、凛を助けて上げて欲しいのです。お願い致します)
暫の沈黙が流れる。話を聞き終えた綾人は聞きたいことがある、と声の主エアリアに告げた。
「なんで俺を頼るんだ、他に頼る奴いるだろ?例えば勇者とかさ、勇者なんてまさにお誂え向きの人物じゃん?」
(勇者様一行には、私の声は聞こえないようで……この状況を伝えることは困難です
召喚者であって私の声が聞こえたのはあなた様のみです。故に頼らせて頂きました)
「なんで俺だけに聞こえるんだ? 俺は特別な何かが――って、まぁ。あるにはあるのか」
(そうですね。もしかしたら私の声が聞こえたのは、そのジョブが関係あるのかも知れませんね)
「あと一番の疑問なんだけどさ。亜人族と喧嘩するのって俺一人なの? 奴等って大軍なんでしょ? ひとりは流石に無理じゃない?」
(我々は四大精霊を率いて亜人族に戦争を仕掛ける予定です。その混乱に乗じれば助けられるのでは、と考えております。
私達が凛を救えれば良いのですが、精霊族の中には凛のせいで亜人族に攻め込まれた。そう考えている者がおり、凛を優先的に救うのは難しい状況となってます)
「ドンパチ起こすのか……」
(はい一週間後に、私だけではなく多くの精霊が凛の無事を願っています)
エアリアの真剣な声に綾人は深く考える。
「返答は明日でもいいかな? 色々整理させてくれ、こっちから連絡したい時はどうすんだ?」
(その時は心の中で私の名、エアリアを呼んで下さい。では良い返事をお待ちしております)
その言葉を最後にいくら話し掛けても、エアリアは返答をしなくなった。
――一日一回なのかな?
と思いつつも立ち上がりボロ宿の窓から外の景色を眺める。
「次に会うのは亜人帝国かな……ってか」
骸骨マスクであるベルゼが、わざとらしいほどに残した台詞を思いだし呟く。
「出来すぎだろどう考えても…」
どうにもあの骸骨マスクの掌の上で踊っているような感覚。絶対的な罠の匂い。だがあの声の主エアリアの逼迫した声は、嘘をついているようには聞こえない。
ましてや話したことは無いがクラスメイトが危機的状態。綾人の思考は深夜にも関わらず加速していく。
――全てが骸骨マスクの演出のような気がしてくるのがまたムカつく。そう考えれば洞窟で助けたあの三人も骸骨マスクに関係のある奴だったのか?でもあの三人には出会ったのは偶然だし、いやそもそも偶然すらあのクソ野郎が仕込んだ事なら……。
答えの出ない考えに疲れた綾人はまぁいいや、とため息を吐き、笑いだす。
――掌で踊ってやるよ骸骨マスク、ただしてめぇの手首が折れるくらい踊り狂ってやるからよ!覚悟しとけよクソ野郎!
綾人の口許は三日月の形に歪む。
ーーー
ミストルティンの街並を遠くの山岳から覗く四つの人影。
「ねぇ~ベルゼ様?」
「何だい? 可愛い可愛いウルテア」
「キャー! ベルゼ様ったらそんな本当のこと言わないで下さい」
ベルゼに抱きつき猫なで声を出す少女ウルテア。
浅黒い肌に蝙蝠のような羽。
巻角を持つ少女は。
宝石のような瞳をベルゼに向ける。
「なんで~あんなゴミというか、吹けば飛ぶような人間を気にかけるんですか? ベルゼ様がお許しくださるなら今から行って殺してきますけど?」
ベルゼはウルテアの頭にそっと掌を置き、優しく撫で始める。
「ウルテアはまだお子ちゃまだから分からないと思うけど、何事も粋なんだよ。桜という木は散る間際が一番美しいと言われてるんだ彼は精一杯この世界で輝いた後に綺麗に散る、跡形もなく………まさに粋だろ!」
「ウルテアよく分かんな~い」
話を半分ほど聞き流していたウルテア、再度ベルゼに抱きつく。こうなるとただ抱きつきたいだけのように見える。
「ウルテアいい加減にしろ! ベルゼ様もウルテアを甘やかし過ぎです」
激が飛んだ方向には浅黒い肌に蝙蝠の羽、頭部に二つの角を持つ色男。
「ベルゼ様~レットってば直ぐ怒るんだよ~何とかして欲しいで~す」
「貴様……」
ベルゼはため息を吐きこの場にいるもう一人に視線を向ける。
「ふふっ。レットもウルテアもベルゼ様の前で喧嘩はしないようにね。ベルゼ様この後は予定通り行動してよろしいのですか?」
「ああ、頼むよオフィール」
ベルゼと言葉を交わした妖艶な女性も浅黒い肌に蝙蝠の羽、頭部には一角がある。
「じゃあまた人形使って頑張るかな」ウルテアが笑う
「………」レットは無言のまま腕を組む。
「ふふっ」オフィールは妖艶に微笑む。
「可愛い可愛い綾人の旅立ちは壮大に盛り上げてやらなきゃね! ふふ~ん綾人が美しく散るのが先か天使共が目覚めるのが先かベルゼ君楽しみ~」
ベルゼの口許が三日月の形に歪む。




