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正しい出会い。


「どう似合う?」


「うん! バッチリ!」


 綾人と凛は再び海国の中心地に戻る。

 仲間と合流する前に精霊族からの贈り物に袖を通す。新調された白と黒のスカジャン。黒色のスキニーパンツとブーツ。いつもの服装となった綾人に凛が称賛を送る。


 しばらく歩くとサギナと合流。仲の良い様子に黒い女はニヤリと口角を上げる。それは、綾人と凛の距離が近づいていることをイジろうとする笑みだ。


「仲が良さそうでなによりだ。凛よ、婿とのデートは楽しかったか?」

 

「デ、デート違うし! それより皆は?」


「あぁ、付いて来てくれ。皆でこれからどうするかを話し合うらしい。私は二人を探すよう水王から頼まれていたんだ。では、行こうか」


「迎えにきてくれたんだ、ありがと、って——ちょい!」


「ん? どうした凛よ?」


 サギナがさりげなく移動し、綾人の腕を抱き寄せ、体を押し付ける。無論二つの宝はぐにぐにと形を変える。


「なんでそんなにキョトン顔⁉︎ 王子の腕を離して! なにサラッと腕とってるの! 王子! 鼻の穴膨らませないで! サギナは早く離れて」


「ちょ、ちょっと、はなせ、はなせし〜サギナ〜俺がエロい奴だと思われるじゃんよ〜」


 むっつり男は興味ない態度をとるが、鼻の穴はしっかりと膨らんでおり、軽く抵抗するだけで、全く力はこもっていない。むしろ全神経を押し付けられている片腕に、集中しているまである。


「凛よ。夫婦ならば腕を組むくらいは普通だろうに、凛も片側が空いているのだから、そっちを使えばいいさ」


「別に! 全然したくないから! 私サギナと違ってお淑やかだから、そういうのはしないもん!」


「顔が真っ赤だぞ凛。やりたがってるのはバレバレだ」


 言葉通りで凛は綾人の裾を摘む程度の力で掴んでいる。サギナはまたもや口角を上げて追い討ちをかける。


「問題も解決したし。子作りに励もうと思ったが、婿はなかなか目覚めなかったからな。見た所大事なさそうだし、どうだ今夜あたり?」


 その怪しい体を除けば、まごうことなき美女であるサギナ。

 漆黒の瞳に魅入られれば、どんな男でも首を縦にふるだろう。サギナから発する色気を胸いっぱいに吸い込む綾人は実に良い顔である。 


 凛は顔を赤くしながら、いつものようにサギナと口論する。口論といっても凛が攻め、サギナが流すだけのやりとり。


「ん? 婿よ? ど、どうした?」

「え? ちょ⁉ 王子? なんで泣いてるの?︎」


 終始無言だった綾人は、唐突に泣き始めた。


「報われたような、報われてないような。憧れていたモテるとはなんだか違うような、でも嬉しいような、俺っていつもこうだなと思ったら——急に、涙が——」


もにょもにょと不明瞭な言葉を吐き出す綾人。凛とサギナは僅かに引きながらも。うんうん。と相槌を打ち出す。既に二人が距離を空けていたのは言うまでもない。


「その男を甘やかしてはダメよ! 直ぐ調子にのってろくなことがないわ。凛もサギナも甘やかさないで、基本はダメな人間なのよ、ダメ男を増長させないように」


「ティターニの言う通りだ! 相棒は基本ダメな男だから。甘やかすのは禁止だ」


 丁度海国の中心地に着いた時に、ティターニとルードが、いつもの悪態を吐きながら現れる。背後にはそのやりとりに慣れた様子のブットルもいる。


「黙れダメエルフとダメ黒豆! 俺はお前らよりダメじゃないわ!」


「綾人、少しいいか、彼らと話しをする時間を設けよう」


 ブットルが後ろを振り向く。

 そこには光の王子アルスを先頭に、八名の姿があった。


 綾人一行とアルス一行はようやく正しい形で会合した。その場所が建物の倒壊が目立つ場所だという所が綾人達らしい。


「また、会ったね。お兄ちゃん!」

「やぁ。また会ったね。って、どうかしたのかい?」


 綾人一行と面識のあるアルス、カナンが声を掛ける。ジーナは僅に頭を下げ挨拶を送る。ホッポウは動く気配は無い。絵に描いたような爽やかなアルスの笑顔に綾人はしかめっ面となっていた。


「おぉ! 貴殿が空上綾人殿か! うんうん。実に良い戦士の面構えだ」

 

「距離感!」


 白竜騎士シルヴァがずいと綾人に近付く。顔の距離は近く。綾人は思わず叫び後退した。大人の魅力に当てられた典型的な童貞のソレである。


「シルヴァ。綾人君が困ってるから、離れてあげたら?」


「困らせたようであればそうしますが、王子も近くで見ると良いですよ。実に興味深い戦士ですよ空上殿は」


 アルスの制止も聞かずにさらに距離を詰めるシルヴァ。快晴であり日照りが強いにも関わらず首から下全てはいつものように白鎧で覆われている。


「特に——」


シルヴァの白鋼に包まれた指が、綾人の胸に当たる。


「この中にある、何とも言えない奇妙で、奇怪で、奇異な塊が実に興味深い」


 シルヴァの口角が僅かに上がる。


 綾人とシルヴァは意図せず睨み合う形となり、次の瞬間空気が緊張する。

 それはティターニ、ブットル、サギナ、凛が顔を顰めたからである。当然アルス陣営もそれに気付き様子を伺い出す。身構えるとまではいかないが、僅かに張り詰めた空気が双方より発せられる。


 綾人当人は顔色一つ変えずにシルヴァを見ていた。

 白竜騎士はさも好戦的な笑顔で、綾人からの解を待つ。その様子はまるで子供のようである。


「奇怪で奇妙で奇異って超ヤバイじゃん。そんなものより、俺自身の魅力を褒めてくれよ。美人のお姉さん」


「おや? ははっ! 美人とは嬉しい言葉だ。気を使っていただいて感謝する空上殿!」


「あ〜。なるほど。そっち形ね。お姉さん美人なのに残念な空気が漂ってるな、一定層には需要があると見た!」


「残念? 私は自身を残念と思ったことはないが?」


「典型的な残念美人タイプ」


「残念美人——か? 何故だか悪い気はしないな!」


「あ、うん。もう大丈夫です。黙ってください」


 豪快に笑う白竜騎士との会話を強引に終わらせる。

 周囲の空気に反して二人のやりとりは非常に軽く。呆気に取られるものもいた。綾人は平素と変わらずの様子であり、シルヴァは褒められてニコニコとしている。


「はいはい。やめやめ! 変な空気出さない! ごめんなさいね。うちの天然騎士が迷惑をかけたわ」


 温度差が漂う中で、愛らしさの中にも芯のある声が響く。

 綾人とシルヴァの間に入り、取り留めのない言葉を皆に送る。その堂々とした立ち振る舞いはさながら一国の姫である。


「ラピス殿。天然騎士とは随分な言いようですな。おや? どうしたんですか、皆も難しい顔をして? 折角の出会いの場です。明るくいきましょう!」


 シルヴァが周囲を見て心底不思議そうな声を出した。

 側から見れば先ほどのシルヴァの行動は綾人を挑発したように見える。シルヴァの態度や言葉は、綾人の弱みや内側を覗こうとした行為に思え、捉えようによっては争いにもなり兼ねない。


 だがラピスの言葉通り、それは違う。シルヴァは天然であり、ただの興味本位で綾人に近づいただけ。故にあっけらかんとした態度であり、周囲との温度差に不思議顔となったのだ。


「まぁ、何かに特化している者ほど、別方面では無茶苦茶だとよく言うものね。そういう意味ではさすが人族最強の矛と謳われただけはあるようね。力に特化した分、性格がちょっとアレなのね。本当に残念だわ——って、ちょっとなに? あなた達のその顔? 斬り殺してあげようかしら?」


 ティターニの言葉に綾人、ルード、ブットル、凛、サギナが半目となっており、その様はお前が言うなという顔をしていた。


「オホン! ともかく綾人。私達の事情は話してあるわ。光の王子一行も悪魔を追っているらしいわよ」

 

 仕切り直しとばかりにティターニは対峙する者達に体を向ける。

 綾人の前には光の王子アルスが先頭に立つ。直ぐ側には祓魔師カナン。カナンの左右には人族最強の矛・白竜騎士シルヴァ。ドワーフと人族のハーフ・ラピス姫。その後ろには大賢者ヨーダン。天馬騎士レダ。海巫女ジーナ。黒騎士ホッポウが控えていた。


 世界屈指の実力者集団を前に、綾人は顔を強張らせる。その表情は見る者が見れば緊張を表しているように見える。


「そんなに緊張しないで。まぁ、この面子をみればそうなる気持ちも分かるけど——」


 綾人の雰囲気を察し、ラピス姫が声をかける。

 ラピスからすれば「そりゃ、このメンツに直視されれば緊張もするわよね」との考えである。

 一人一人が国を相手できる実力者である為、当然だろうと考えたからだ。


「面子のクセが強いんじゃ!」


「えっ⁉︎」 


 そんなラピスを無視するように綾人は呟く。ラピスは予想していない回答に妙な声が出てしまった。綾人を知る者は、彼が何を考えているかが大体予想がついている。奇しくもその考えは全員が揃っていた。


 ——絶対、ふざけたこと考えてるんだろうな。である。


「綾人君。まずは謝らせてほしい。あの時、君と初めて会った時、理由も聞かずに戦闘になってしまったのは僕の落ち度だ。改めて謝罪させてほしい」


「いや、まぁ。別に大丈夫っつうか、もう済んだことなんで、チャラってことで。一緒に戦ってくれたしさ。皆さんが悪い奴らじゃないのはもう分かってるんで。っつかこっちもあの時は助けてくれてあざます。俺らだけならちょっとヤバかったかもしれないんで。あざっした」


 アルスは深々と頭を下げ誠意を示す。綾人は素直な言葉を送り、照れた様子で頭を一瞬だけ下げる。

 

「ありがとう!」

 

 アルスが微笑む。爽やかさを絵に描いたような。夏場に飲む冷えた炭酸水のような爽やかさである。綾人は、あぁ〜、こりゃモテるタイプだわと口内で呟く。


「それと、綾人君。きみも悪魔を追っているんだよね? よければ共に協力して、悪魔を退治しないかい?」 


 一泊置いて出た言葉は無用な駆け引きはしない、アルスらしい素直な問いであった。


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