三人?
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「……ルー」
「ルード様復~活! あれ? どこだここは~!? あれからどうなったんだ~! ミッシェル教えてくれ!?」
「ルー……」
「あれか? ここは死後の世界とかじゃないよな、俺生きてるよな? あっ、目は見える! よし! 第一関門突破! そういやミッシェル、俺の目はどうだ? 龍の目とかカッコいいだろ?」
「……ル」
「体は自由に動く! 第二関門突破~それに飛べる、これ飛べてるよ、マジかよおい! これやっちゃうよ、俺また邪龍感だしてグイグイいっちゃうよ俺!」
「ルー……」
「ってか、ミッシェルお前でかくなってない? なんで? いやっ、いい! みなまでいうな……血だろ? 俺の血飲んだから力あり余ってデカくなったんだろ? それな! でもごめんな~実はミッシェルが飲んだ血の中に俺の魂も注いじゃてさ、苦しかったろ? なんか俺の知らない間に魂が暴れちゃってさ~、ミッシェルを食い殺そうとしてたみたいなんだよね……うける~」
「……」
「ってあれ! 手足小っさ!? なんだ、なんでこんなミニマムサイズになってんだ!? おいミッシェル黙ってないでなんか言えよ! 何アホ面晒してんだバカ! ………おっと、いけないいけない。折角復活したのに喧嘩は駄目だな、よし! じゃあ仕切り直して二人の門出に乾杯しっ――」
「うるせ~!!」
「あべぶしっ!」
綺麗な半円を描きなからルードが飛ぶ。
「なっ、な、何すんだ! いきなり殴るなんて! 俺等あの島から抜け出した同志だろ! 言ってみれば相棒だろ! バディーだろ! 兄弟だろ! それを再会して殴るとか頭おかしいんじゃないのか!」
「なんか色々タイミングが悪いんだよ! クソ鰐! もうちょっと空気読んで出てこいよ! これからあの骸骨マスクをぶっ殺す時に、下顎に体当たりくらった俺の身にもなれや!」
「骸骨マスク? ん~、何だ相棒、あんな掌サイズの敵に苦戦してんのか? 情けねぇな~」
「お前は両掌サイズだけどな」
「じゃあ相棒に見せてやるか俺の真の力を! 前の世界ではインペリアルドラゴンと呼ばれ恐れられていた我が龍の力を!」
「待て! 愛玩鰐! どう見ても今のお前はインペリアルじゃなくてペンぺリアルとかの名前の方が似合ってるぞ」
「何じゃペンぺリアルって! 皇帝ペンペンみたいな感覚で新たな呼び名作るなや相棒!」
ティターニの顔は感情が死んだゼロの表情になり、ポツリと呟く。
「……またバカが増えたわね」
綾人とルードのやり取りを見ていたベルゼは、ニヤリとよくない笑みを作り、ここぞとばかりに大声を出す。
「ハハッ~! 随分可愛らしい相棒だね綾人! 良かった良かった。これで君の旅は寂しくは無くなりそうだね? ベルゼ君安心」
ベルゼの言葉に反応する綾人とルード、お互い一旦終了とばかりに咳払いを一つ。ベルゼを睨み付ける綾人は、嬉々とした表情を作りベルゼに向かって歩きだす。
「何でお前が旅するとか勝手に決めちゃってんの? そんな事気にしなくて大丈夫だよ~、どうせお前はここで死ぬ━━」
「やいやいやい! どこのどいつか分からねぇが、相棒の敵だってんなら俺の敵だ! 二度と御天道様を拝めねぇようにしてやるぜ! さぁ覚悟しな、邪龍ルード様たぁ、あっ! 俺の事だ!」
「てめっクソ鰐! ちょっと黙ってろ!」
再び始まるかと思われた二人の言い合いだったが、そこにベルゼは口を挟む。
「綾人、きみは旅に出るはずさ。い~や旅をする。君自身が望む望まないに関わらずね。だって君は日本に帰りたい。なら僕が教えた方法をやらざる終えない、違うかい? それに僕が見込んだ君はこの世界を回って色々救ってあげないと、ねっ?」
「あっ? てめぇはなっ━━」
洞窟内全体の揺れが綾人の言葉を遮る。
揺れは止とまらず次第に大きくなり天井や壁一本道の洞窟内が崩落し始める。このままこの場所に居続けるのは余りに危険。
「綾人、一旦外に出るわよ」
ティターニがたまらず声を出した。ベルゼは笑る、まるでこの先の道筋にどんな仕掛けがあるのか、全てを知る劇作家の如く、舞台に上がった新たな配役である綾人に慈愛の目を向ける。
「次に会えるのは亜人帝国かな? じゃあね綾人また会おう」
言い終えたベルゼの体が色を失い透け始め、崩落する洞窟内と同調し消えていく。
「あっ、てめこらっ!」
「今は外に出ることに集中しなさい! 行くわよ」
「相棒ぐずぐずすんな! 復活そうそう生き埋めなんて俺はごめんだぜ!」
ティターニとルードは先に動きだし綾人に声を掛ける。 盛大な舌打ちを一つし外へと続く一本道を走りだす。
「次会ったらぶっ殺す」
その言葉は自身への誓い、誓いの声は、崩落する洞窟内にのまれて消えた。
ーーー
「うぉぉぉぉぉぉぉぉ弾けろ俺の中の何か!」
「ヤバいヤバいヤバいヤバいヤバい飛べ俺! 手足が短い分どこまでも飛んでみせろ俺!」
「そこのバカ二匹黙って走れないの気が散るでしょ!」
二人と一匹は、インディ・○ョーンズもかくやの逃走劇を繰り広げる。すぐ後ろは次々と地面が抜け、どこまでも深い深淵を覗かせている。
天井からは大質量の岩の波が襲いかかる、逃げ遅れたら最後というのが誰しも理解できる。
巻き込まれたら一発アウトのこの状況に、綾人とティターニは足が千切れんばかりに前へ前へと出し。
ルードは体の半分ほどの翼をこれでもかと羽ばたかせている。
途中三人の冒険者を助けたあの場所を通りすぎる一行。走りながらも三人がいない事に安堵する綾人。
――先にギルドに戻ったのかな。
と予想し、再び奇声を上げながら走り出す。何故か対抗しルードも叫び。ティターニにマジで怒られるやり取りを何度か繰り返す。
そしてようやく。
「やっと出口かよちくしょ~!」
「飛べ皇帝邪龍の名にかけて!」
「私はこんな所で死ぬわけにはいかない!」
――――――――――――――――――――――
轟!!
耳が痛くなる程の音が。音と表すにはあまりにも規格外な轟音が西地区森林を震わす。
二人と一匹は崩れた洞窟前でペタリと座り込む。しばらく使い物にならなくなった聴覚だったが、時間が経つにつれ回復しだし言葉を交わす。
「まったく、とんでもない目にあったわね。洞窟を一つ潰すなんて……あのベルゼとかいう輩は本当に危険ね」
「いや待て、さりげなく骸骨マスクのせいにしてるけど、この洞窟潰したのはどう考えてもお前だろ? あの黒と白の光だろ」
「男は過去を振り返らず前だけを見て生きていくものよ。誰が何をやったかなんて、そんな些細なことを気にしているようじゃ。まだまだとしか言いようがないわね」
「誰も男の有り様なんて聞いてねぇから。良いこと言ったみたいな感じの顔すんじゃねぇよ。腹立つ」
「かぁ~! シャバの空気は美味いなぁ~! よっしゃ相棒なんか食い行こうぜ。俺は紫蘇かジャガイモが食いてぇな」
「ルード、お前その見た目にして長年体に染み付いたベジタリアンが生まれ変わっても抜けないとか、逆に笑えねぇぞ」
ニヤリと笑う綾人とルード。
「私は一度街に戻るけど綾人はどうするの?」
ルードとティターニが綾人を見る。座ったまま首だけをのけぞらせ空を見る綾人。茜空が眩しく目を細めた後「帰るか」と声を上げ、のそのそと立ち上がり歩きだした。
ーーー
「はぁ~」
ミストルティンギルドの受付嬢であるマテラは溜め息を吐く。
――綾人さんは大丈夫かな?
声に出さず黙々とこなす書類仕事の傍らで、頭の片隅にある不安を中心に据える。
――初依頼で討伐関連は危険だったかな? あれから六時間くらいたってるけど帰ってくる気配は無いし。危なくなったら直ぐ帰って来て下さい。って言ったのに絶対忘れてるだろうな~。
「はぁ~」
――でもでも、あの暴欄の女王が私に話しかけてきた時はびっくりしたなぁ~。
綾人を送り出して暫くした後に、暴欄の女王ことティターニは、二階から降りてくるとキョロキョロとしだし、綾人と話していたマテラへと話しかける。
綾人が西地区森林の、ゴブリン討伐の依頼を受けたことを聞くと。
「ふ~ん。面白そうだから、からかいに行ってみるわ」
と言いギルドを後にした。
――まぁ暴欄の女王がいれば安心か。にしてもあの二人は……一体どんな関係なのやら。
マテラの好奇心がうっすらと芽生えるが……
轟
と遠くで何かが崩れる音でその思考は停止される。
「なんだ!?」
「おいおい結構デカイぞ」
「西の方角だな」
ギルド内にいた冒険者達が騒ぎ出す。聴力に長けた亜人が方角を指定したのを聞くと、マテラの目は丸くなる。
――えっ? 西ってもしかして西地区の森林かな? ……綾人さん大丈夫かな?
その後、轟音への調査や関連事案の確認、といった仕事が舞い込み時間を忘れ慌ただしく過ごす。だがずっとぬぐえない一抹の不安。
余りにも遅すぎる、何か有ったのではないか? 今すぐ確認しに行きたいが仕事を途中で放り出すわけにもいかない、あの轟音は綾人さんに関係があるんじゃないか?
暴欄の女王と会えたのだろうか? でなければ彼は一人。一人で討伐関係の依頼を進めた事に胸を痛めるマテラ。悶々と事務仕事に追われていると。
「いたいた! マテラさん!」
名前を呼ばれたマテラはハッ! となり声の主を探す。
「遅くなってさーせん。色々と予想外の事が起きちゃって」
ヘラヘラと笑いながら近づく綾人、緊張感のない笑顔に安堵したあと、目尻を吊り上げギルド受付嬢の顔に戻ると厳しい口調で告げる。
「無事で良かったです。でも受付嬢をこんなに心配させるなんて、綾人さんには冒険者が何たるかを、もう一度説明した方が良さそうですね。では報告をお願いします。」
妙に凄みのある笑顔にたじろぎながら「うっす」と返事をした後に椅子に座る。正対するマテラは険しい空気を纏うものの、その顔はとても優しげだった。
ーーー
「まぁ五匹どころか百匹はいたかな~」
綾人の言葉に耳を傾け一つ一つをしっかりとメモにとる。ゴブリン討伐の経緯を聞き終えた後マテラがとった行動は。
「すいませんでした。ゴブリンが異常発生していたことに気付かずに冒険者なりたての綾人さんを向かわせるなんて……一歩間違えれば取り返しのつかない事になっていました。ギルドの受付嬢失格です。本当にすみませんでした」
カウンターに額をつけ誠心誠意謝ること。真面目なマテラに綾人は苦笑しつつも話を続ける。
「いやいや頭上げてください。全部自分で決めたことなんでマテラさんは悪くないっすよ」
「そうだぜ嬢ちゃん頭をあげろよ。嬢ちゃんは何も悪くねぇよ、ある意味嬢ちゃんのおかげで俺は復活出来たわけだし」
綾人の頭の上に乗るルードが声を掛ける。いつの間にかいる幼竜にどう対応していいか悩むマテラは、とりあえず笑顔を返す。斜め後ろに立つティターニもルードに賛同する。
「そうよ頭を上げなさい。こんなバカに頭をさげるなんて女性としての品を落とす行為そのものよ。それはそうと貴女普段何を食べてるの? その無駄に主張している二つの贅肉はどういった経緯でそうなっているわけ? 全然興味は無いけれど。もし普段口にする食べ物がその贅肉を作る要因の一つになるのだとしたら、是非教えて欲しいわね。私は全然興味無いけど、私の友達が大きくならないと嘆いていのよ。だから彼女に教えてあげようと思うの。私は大きくても邪魔なだけだと思うのだけど。肩もこりそうだし全然羨ましくないわね。にしても貴女、本当にその……主張が激しいわねなんか見てるとイライラしてくるわ。喧嘩を売ってるのかしら? その駄肉二つは私に喧嘩を売ってるのかしら?」
「うるせ~よお前はうしろでベチャベチャと! 自分の胸が貧相だからってマテラさんに当たるなや! 友達が知りたいとか絶対嘘だろ! 自分が知りたいだけだろ!」
「あら? 可哀想な綾人。せっかく命からがら逃げたのにここで死ぬなんて本当に可哀想な綾人。せめてもの情けね一瞬で頭と体を離してあげるから。それが私の優しさだと知りなさい」
等のやり取りが繰り返された報告だが、綾人は骸骨マスクであるベルゼの事は伏せておいた。
――ベルゼのことを伝えれば、ややこしい自体になると俺のシックスセンス的な何かがそう訴えている。それに骸骨マスクを殺すのは俺だ。誰にも邪魔させねぇ。
この二つの考えがマテラへの報告を遠ざけた。そこで綾人は気掛かりな事を思いだし。
「そういや洞窟で出会った三人の冒険者達はどうなったか分かります? 多分ギルドに戻ってきたと思うんすけど? あの人達の仲間助けるって約束したのに結局助けられなくて。なんで謝ろうと思うんすけど」
「話の途中で助けたという冒険者ですよね? う~ん。気になってはいたんですが。西地区の森林には綾人さんとティターニさんしか行ってませんよ?」
「え?」
綾人は洞窟で助けた三人の顔を思い出す。
「洞窟の中で冒険者三人を助けたんですよ、そいつらギルドに戻ったと思うんだけどまだなのかな? ほらゴブリン討伐は他の冒険者にも依頼してるって言ってたじゃないすか。多分そいつらだと思うんすけど」
「あぁ。彼等は依頼を受けた後、装備見直しの為に武器屋と防具屋、それに鍛治屋を回ってたみたいですよ。装備品を新調していたら日が暮れたのでゴブリン討伐は明日にする、と言って。ほら、あそこで話し合ってますよ」
マテラの指がさす所には三人の冒険者が固まり、真剣な表情で何かを話し合っている。だが…
「えっ? 亜人三人じゃなくて俺が助けたのは人間三人なんだけど…」
マテラが指をさす冒険者三人は皆亜人、綾人が洞窟内で助けた三人は人間。意見が食い違う事に納得がいかずモヤモヤする綾人、たまたま洞窟に居た人達だったのかな? と呟いた後にティターニに問いかける。
「そういやあの洞窟で人間に会わなかったか? 結構重症だったから、そんなに遠くには行ってないと思うけど」
「西地区の森林に入ってから綾人に会うまで、誰一人として見てないわよ。そもそもあの森林には何もないから人も魔物も基本は寄り付かないはずよ。誰を助けたの? 本当にそんな三人はいたの?」
あれ~と言いながら唇を尖らせ悩む綾人。でもスカジャン貸したし、とぶつぶつ言う綾人を、哀れみの表情で見るティターニとルード。
「きっと疲れていたんですよ」
と愛嬌たっぷりの笑顔でマテラは強引に話を終わらせる。
「明日ギルドに寄って頂いてよろしいですか? 報酬をお渡ししたいので確認の為一日時間を頂きます。お疲れ様でした。今日は本当にすみませんでした」
マテラが再度頭を下げた事で話が一区切りつき、依頼報告終了となった。
「私はもう帰るわ。色々と話したい事があるから明日ギルドにもう一度集まりましょう。さよなら」
ティターニがギルドを出ていくとルードが陽気な声を掛ける。
「相棒~野菜食い行こうぜ!」
「おぅ………じゃあマテラさんまた明日来ます」
マテラにそう告げる綾人は、納得がいかないままギルドを後にした。




