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剣とか魔法とかチートとか関係ねぇ男なら拳で語れ  作者: 木村テニス
一章~その男巻き込まれ体質につき~
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にっちもさっちもどっちも悪魔君

「ふん♪ふ~ん♪ふふ~ん♪」



 グチャビチャグリグリブチャビチャ。



「っ……かっ……あっ」



「ぬぬぬ~ん♪ふぬぬ~♪♪ふ~ん♪これをこうしてえぃえぃえ~い♪」



 ズズズズ、 ズリズリ



「っ……」



「よ~し上手く取り出したぞ~手術は無事成功! みんな拍手」



 右手には片手で持つには多少困難な大きさの黒い玉を持ち、左手は耳に手お当て観客の拍手を期待する。が、この寸詰まりの空間内に置いては誰もアンサーを返せない。



「あら? そっか全員殺しちゃったんだテヘッ」



 骸骨マスクはおどけた表情で舌を出す。寸詰まりの空間内、ゴブリンに蹂躙されていた者達は目を見開き、両手で自分の首を絞めたまま死んでいる。


 息をしているのは骸骨マスクと綾人のみ。



「これはベルぜ君から君への贈り物だよプレゼントFOR YOU、気に入ってくれると嬉しいな! キャッ! もう何言わすんだよこのこの、えっと……ごめん、君名前何だっけ?」



 骸骨マスクは黒い玉を地面に置くと、両頬に手を添え恋人に甘えるように綾人を見詰める。



 黒い玉にはピリピリとひびが入る



 綾人の唇は異常な程震え言葉を紡げない。焦点は定まらない。無理矢理首をお越し、自分の体を見る。


 胸部から臍まで切り開かれた腹部、血が溢れ、綾人の体周りに血の池を作る。内蔵が剥き出しになっているがそれでも正常に動く心臓。こんな状態なのに痛みが無い。


 不可解な無痛に気が狂いそうになる。いっそ気を失えば楽になるのに、子供の我が儘のように意識が離れない。自分の体なのに他人のような感覚、それでも自分の意思で動く指や目、口、そして思考までできる恐怖、叫びたいが叫べない。


 骸骨マスクに遊ばれる位なら死んだ方がまだまし、それだけは理解した。



「ちょっとちょっと無視はよくないぞ悪魔が名前を聞いてるんだから答えないと失礼だぞプンプン! あっ成る程人の名前を聞く前にまず自分から名乗るアレね! 典型的な例のやつね。失敬失敬ではではコホン。オッスおら悪魔のベルゼ君よろしくな! はい、自己紹介終了~さっ君の番だよ」



「……しっ」



「しっ? 何々? しっ、ていうの君の名前? 絶対嘘でしょ? 悪魔に嘘つくとはいい度胸じゃないか、プラス三点を君に与えよう! でっ本当の名前は?」



 綾人の口元に耳を近づける



「しっ……ね……カス」



 弱々しくも精一杯の強がりを返す。聞き終えた悪魔ベルゼは立ち上がり「ハッハー!」と大声で笑い声を上げる。



「悪魔にしねか君は中々にセンスがあるな! よ~し君は僕のコレクションの一つにしてあげよう光栄だろ? それにつれない返事ばかりしてると日本に帰れる方法教えてあげないよ。でもでも教えてあげるその方が面白そうだから! これが俗にいう、っと今はこの例えも無粋だね、ね?」


 ベルゼは綾人の周りを軽快な足取りで歩く。足下のスポーツシューズが、雨時の地面のようにピチャッピチャッと音を立てながら赤く染まっていく。



「無限牢獄に行くための手段その一。転移! だがこれはオススメしないな、超超超膨大なエネルギーが必要だからね、具体的には悪魔か天使をこの世界に呼び寄せる位のエネルギーが必要なんだ。君に分かりやすく言うと、地球上の全ての生命をエネルギーに変える、っていえば分かりやすいかな? 生命の強さとかは一旦横に置いとくとしてもそんなの無理でしょ?」



 ベルゼは楽しげにスキップを踏む。



「手段そのニ。これが一番オススメ各種族に伝わる一枚の絵画を集める方法! 正確には絵画の中にある魂なんだけどね、これが一番確実かな?色んな種族に行ってポンポンポンって集めるとあら! 不思議、無限牢獄に辿り着いちゃいます~みたいな? 人、亜人、魔人、海人、精霊の全部で五つ。地底人は入れなくて大丈夫だよ~あいつ等ボッチだから持ってないから」


 ベルゼがスキップが止め綾人の顔を覗き込む。



「そしてそして三っ、」



 蘭々とした言葉は一本の矢によって塞がれる。音を置き去りにした矢が額に刺ささりベルゼは、首だけをのけぞらせた状態で固まった。誰も居なかった空間内に足音。



 小さい嘆息の後には静寂を切り裂く矢の風斬り音、ベルゼの喉元にもう一本矢が刺さる。



「初依頼だから冷やかしに来てみたらどういう状況なのかしら?」



 言い終えた後に唇を動かし詠唱を唱える。


 言葉を掛けられた綾人の体に白い魔法陣が展開される。光が体を包み微粒の白い粒か開かれた腹部に癒着しゆっくりと塞ぎ始める。



 回復魔法:リザレクトヒール


 傷ついた綾人を慈愛の光で癒していく。



「綾人生きてる? バカみたいな貴方はこんな所でバカみたいに死ぬの?」



 声の主はティターニ。綾人に言葉を掛けるが、目線は骸骨マスクであるベルゼから外さない。もう一本矢を取りだし狙いを定め弓を引く。矢が左胸に直撃すると同時にベルゼが動き出す。



「おぉ~びっくり! 何々この展開? ベルゼ君びっくり~!」



 額、喉元、左胸に矢が刺さった状態でも、ベルぜはしっかりと二本の足で立ちティターニを見る。



「はは~ん、とりあえず分かったのは彼の名前が綾人っていうことか」



 ベルゼが顎に指を添えるとうんうん頷きだす。喉元の矢が非常に邪魔そうだ。



「で、君は綾人の何? 恋人? 生き別れの姉とか?でもエルフだから違うか!」



「とりあえず黙りなさい」



 一瞬でベルゼに詰め寄ったティターニは白と黒、二つの短剣で両腕を切り落とす。腕を失ったベルゼはたたらを踏みながら後ろに下がる。


 ティターニは顔を顰める、矢が刺さった三ヶ所からも切り落とした両腕からも、血が一滴も出ないからだ。



「君は暴力的だな~こりゃあ綾人は苦労するぞ~ハハー君もそう思うだろ? えっと名前何だっけ? 暴力エルフでいっか!」



「塵一つ残らずこの世から消えたいようね」



 ティターニが不敵な笑みを浮かべると、短剣を持つ白くきめ細やかな両腕が変化する。肘から先が黒く変色し、赤く太い血管が激しく自己主張しながら脈を打つ。



 スキル:羅刹


 効果:絶対的な一撃で相手の命を奪う、奪われた命は悪鬼により永遠に弄ばれる。



 次には剛風がティターニの周りを暴れ始める。 腰まである髪と衣服が世話しないほどに乱れそれと同時に体全体が白く輝く。



 スキル:神威


 効果:使用者には絶対無比の一撃が授けられる、神の威である一撃は全ての勝利を約束する。



 スキルの重ねかがけ。それ自体はよく見るが、デンバース(この世界)で羅刹と神威のスキルを同時に使える者は、ほんの一握りだ。



「あららら~それは流石のベルゼ君もちょぴヤバいかな、よ~しここからは話しあっ――」



「死になさい」



 白い軌道と黒い軌道が洞窟内で爆ぜる。寸詰まりの洞窟内はそのエネルギーに耐え兼ね、大きく抉れ破壊される。


 洞窟内は形状を変えた。寸詰まりから円錐を横にした形になり、円錐先端部分には骸骨マスクの口元部分の繊維か抉られた岩と岩との間に縫い付けられている。


 肩で呼吸をするティターニ、骸骨マスクが死んだ事を確認し、短剣を両腰の鞘に納める、綾人に近づき開かれた腹部や外傷を視認する。



「……ティ、ターニ」



「こうして助けてあげるのは二度目ね、感謝の意はもらえないのかしら?」



「そうだそ~綾人~! いくら暴力エルフでも助けてもらったんなら、ちゃんとお礼を言わないとダメだぞ~」



 その嫌なほど耳障りな声にティターニと綾人が視線を向ける。


 円錐先端部には掌サイズになったベルゼが立っていた。刺さっていた矢も、落とした両腕も、木っ端微塵にした体も初めから何も無かったように、元通りのままサイズだけが以上に小さくなっている。掌サイズになったベルゼは楽しげにつげる。



「いや~まさかこんな姿になるなんてびっくり仰天だね! やるじゃん暴力エルフ。悪魔をここまで追い込んだんだ胸を張っていいよ。って言ってもププッ、張るほど胸は無いんだね。こりゃ失礼!」



 ブチッ


 っと確かに綾人は聞こえた。そっとティターニの胸を見る、決して張れないほどでは無い。そう決して…



「ど、ど、どうやら死ぬだけじゃ物足りないようね。存在の在り方から消さないとこの手のバカは駄目なのかしら?」



 ティターニの足元に緑色の陣が現れる、それは魔法陣とは違う形状だが、この場に置いてそれを分かるものはいない。


 緑色の陣が増える。一つ、二つ、三つと増え回転し陣同士が繋がり合う。次に生まれたのは緑。岩肌のみの地面から急成長する草や花、続いて木まで生え始める。


 瞬きを数度するうちに洞窟内の半分が緑に覆われる。



「さて、存在の在り方から消えるか、この世界の概念から消えるかどちらか選びなさい?」



 ぶちギレているティターニに、――どっちにしても消えるんだ。と内心でツッコミを入れる綾人。


 落ち着けと言いたいがどう声をかけるべきか悩んでいると。



「三百年前に起こったエルフ大虐殺の真相を知りたくはないかい?」



 ベルゼが楽しげに喋りかけてくる。ピタリと緑の陣の動きが停止され、同時に際限無く成長していた緑も止まる。ティターニの顔から色が消え小さいベルゼを睨み付ける。



「どういう意味?」



「悪魔は何でも知ってるからね~もし知らなかったら教えて上げようと思ってさ! ベルゼ君ってば優し~」



 睨むティターニと笑うベルゼ、綾人は口を挟みたいがティターニの圧倒的な殺意に口を挟めずにいた。



「悪魔? あなた悪魔なの? ……なんというか。あなたの存在そのもの自体が全く信用できないのだけれど」



「別に僕を信用しなくてもいいさ。あの真相を言っても結局聞くのは君だしどう捉えるかなんて君次第でしょ? 暴力エルフちゃん!」



「………教えてもらえるのかしら?」



「そうだな~、う~んよし! 条件を出そう綾人に協力して欲しいな~彼はこれから各種族を回る旅にでるから君の暴力で助けてあげたら教えてもいいかな~なんて! さっすがベルゼ君ナイスアイディア」



 ティターニはそれ以上何も喋らず緑の陣を解く。草花や木は成長を止めティターニを守るように寄りそい始める。そこでようやく待ってましたと言わんばかりに。



「おいクソ骸骨マスク! てめぇよくも人の体をいじくり回してくれたな! ブチ殺される覚悟はできてんだろうなぁ! あぁん!」



 指の骨をこれでもかと鳴らしながら凄む綾人。



「ハハッー! 僕の事はベルゼ君、もしくはベルゼっち、それかベルルンと呼ぶことを進めるぜ綾人! あとそろそろあの黒い玉がっ――」



「死ねコラァァァ!!」



 ベルゼの言葉を遮り駆け出そうと一歩踏み込むと、パリン。と何かが割れる音。


 割れたのはベルゼが綾人から取り出した黒い玉。いや正確には割れたではなく割ったのだ。


 誰が? 綾人が。


 足元にあった黒い玉を知らずに踏み、割ってしまった綾人は「へっ?」と間抜けな声を出した直後に、下顎に何かがぶつかり豪快に後ろに倒れる。


 そしてぶつかった何かが叫んだ。


「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ俺様復活!!」


 声と共に黒い玉から現れたのは、両手を包むように広げるとスッポリと入りきる黒い幼竜。


 短い手足と羽をバタバタと動かし、辺りを見る幼竜と綾人の目が合うと。


「うぉぉぉぉぉぉ! ミッシェル無事だったか~」と幼竜が叫んだ。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] スキルのステータス上昇ってどのくらい上がるんでしょう? あと「絶対~」って当たったらワンパン出来ますよね?
2020/10/22 15:52 退会済み
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