真実への一歩
「俺はこの国の闇を知っている。それを今からあんたらに教えるよ」
海国の中心にある会議場を幾分か離れた所で少年はそう言った。後ろを歩く綾人等にも充分に聞こえる声である。少年は一度、キキキッ——と猿のように笑い言葉を続けた。
「まず、水王ブットル。あんたは直ぐに気付いたな? この国に老人と老婆の姿が見当たらないことに」
物言いは試すようであり、キキキと笑う声には嘲りが伺える。
「犯人は五剣帝の仕業だぜ」
重要な事実を言っているにも関わらず少年は軽口であった。
足が止まったのはブットルのみ、一瞬だけ己のみ取り残され急ぎ足で追いつく。
「この国はイカれちまってるよ。爺と婆が消えたってのに、誰も、何も、疑問に思わないんだよ。爺が消えたら娼婦と駆け落ち、婆が消えたら男娼と駆け落ちと相場が決まっているのさ。体を売る商売男も女も自由が欲しいからな、一緒に逃げようなんて言ったらホイホイついて行くんだよ。それは爺や婆だけじゃねぇぜ、若い男女でもそうさ。一緒に暮らしてきた家族を捨ててでも娼婦や男娼を選んじまうんだよ。最高にイカれてるしおもしれぇよな。この国は下半身が行動原理なんだよ。キキキッ——」
「全然面白くねぇよ。さっさと飛鷹達をどうやってこの袋に入れたのか話せよ、それと気持ち悪い笑いかたは——やめろ」
綾人の言葉に緊張が走る。少年は雰囲気にのまれまいと両眉を上げ戯けたように答える。
「おぉ、怖いな。そんな睨まないでくれよ、確かに惰性な話だったけどちゃんと繋がっているから聞いてくれよ。老人が消えても誰も疑問に思わない国だが、今は異常だろ? 老人老婆が一人もいないんだからよ。流石にこの自体はおかしいぜ、でも誰も疑問に思わない、変だろ? 答えは簡単だ——」
「回りくどいな、さっさと話したらどうだ。無駄口は好きじゃない」
ブットルの言葉に棘が生まれだす。
確かに少年の言葉は回りくどい。まるで四人をからかっているようである。
「やれやれ、もっと、楽しめばいいのによ、キッ——と笑うのも禁止か、やるせねぇな。答えは簡単だ。最初に言ったように犯人は五剣帝なんだよ。正確に言うならば、一の剣・アクア・スカイらと、二の剣・シンラ・クォートの仕業だ、この二人が黒幕だよ、四の剣と五の剣はこの事実を知らない」
ティターニとブットルは視線を合わせる
やはりあの二人は関係が無かったのだと納得した。
「真相はこうだ。一の剣はこの国を滅ぼそうとしているんだ。理由は俺も分からん。俺はただある人にそう言われているだけだからな——」
あっさりとアクアの目的を語る言葉よりも、少年の口から出たある人という言葉にそれぞれが僅かに反応する。
それが、この男を操っている黒幕。それが誰なのかを考える間もなく少年は朗々と語り出す。
「二の剣はおまけだ、1の剣にほの字だからよ、好きな相手の願いを叶えたいって泣ける話じゃねぇか。この海国で純愛なんて珍しいわなぁ。おっと、また話がズレちまったな、1の剣がどうやってこの国を滅ぼそうとしているのか——」
少年は歩みを止め振り返り四人を順繰りに見る、年に似合わない悪い顔である。
「1の剣の切り札は、ある化け物なんだよ。名前はヒルコ」
厭らしく笑う少年はブットルとティターニを見ている。
勘の良い二人はとうに気付いている——悲鳴——鳥の鳴き声にも似て、女の金切り声にも似て、異界の何かの叫びのように聞こえたそれがヒルコであるという事実を。
あの叫びを聞いた二名に意味ありげに視線を向け、またも意味ありげに鼻で笑い、少年は歩き出した。
「ヒルコは生物兵器らしいんだわ。この世界が、天使と悪魔が戦争ばかりしていた時の名残だ。人間が作り出した生物兵器それがヒルコだ。天使と悪魔に対抗する為のな、アクアはそれを目覚めさせてこの海国を潰そうとしてるんだよ。だがヒルコを復活させるには大量のエネルギーが必要だ。それでアクアが目をつけたのが」
「この国の年寄り達ってわけか」
「そう! ご明察だ蛙族の兄ちゃん! どうして年寄りなのか知らねぇがな。若い男女のほうが生命力に溢れてそうなもんだけどな。と思ったろ? 俺もそう思うんだけどよ、その人が言うには一の剣がこの国に抱く怨念を形にした結果、老人や老婆を狙ったそうだ」
「怨念?」
アクアと接触したティターニとブットルはアクアを連想するが、その雰囲気からは怨念という言葉が似合っていない。
「ともかくよ、老人達がいないのはそういうカラクリだよ。爺と婆はヒルコの生贄にされたってわけさ。当然家族は不思議がるけども、そこはこの世界一の色街だからよ。駆け落ちしたと思われて終わりだよ。それでも流石におかしいと思う奴らもいるが、相談するのは国の治安を守る憲兵。そんでももって調査を指揮するのは、憲兵のトップ一の剣っていうオチさ。どうとでも揉み消せるだろ? 謎は解けたかい?」
「あぁ、大まかにだがな。それで、俺達に情報を与えるお前の目的を教えてもらっていいか?」
ブットルの言葉に少年は足を止める。
ちょうどスラムの出入り口に差し掛かる場所である。人の気配は無い。なにか事を構えるならここがよい筈である。
ブットルの考えはお見通しとばかりに少年は軽薄の笑みを称えている。
「俺の、というよりも、色々と情報をくれる、その人の目的の為に、お前達に情報を与えているんだ」
「どうにもはっきりしないわね。先ほどから言う、その人とは、誰のことなの? 答えによっては協力してあげても良いわよ」
ティターニが短剣を引き抜き少年に向けるが、臆する様子が無い。
普通の少年ならば腰を抜かしてもいいようなものだが、やはり外見と言動が一致していない。
「おぉ、怖いな。止めてくれよ。争う気はないぜ俺は、正体は言えないな、そもそも、言っても信じてもらえないだろうし」
「そう——これでも」
ティターニは微苦笑を貼り付けながら短剣を振るう。
少年の頬に浅い傷が生まれ血が流れる。
「勘弁してくれよ。怖いなこの美人のエルフさんは、俺を殺しても良いが、せめてこっちの目的だけでも語らせてくれよ」
「こいつ——」
「ティターニ! 話を聞いてからでもいいだろ、現に皆を連れだしてくれた礼もまだ言ってねぇしよ」
まるで臆することなく悠々と語る少年は、死んでもよいと思っているように見える。
その姿にティターニは焦れ、もう一度短剣で攻めようとするが、綾人がそれを制した。
「へへっ、兄ちゃんは話が分かりそうだな。こっちの目的はヒルコだ。ヒルコをある人の元まで持っていくのが俺の目的だ。その為にアンタラに情報を提供してるんだよ」
「手伝ってほしいってのかよ?」
「いや、違う違う」
少年は綾人に向きなおり、大袈裟に反応し距離を一歩詰める。
「仮にヒルコを連れ出そうとする、どんな形状かは知らんが、そもそも運べる大きさなのかも分からん。あくまで仮の話だ、そうなった時必ず五剣帝、一の剣と二の剣が出張ってくる。だから安易に近付けないんだよ。ヒルコがいる場所に」
「あなた、そのヒルコとやらがいる場所が分かるの?」
「あぁ、おおよそな、あんたらも知ってそうだけどな」
「——そう、ね」
ティターニは名目し何かを考え出す。
それはブットルも同じであった。両者はテレキスで会話をしている。
「で、ここからが本題だ。焚きつけるわけじゃないが、兄ちゃん。あんた今日処刑された白服集団のお仲間なんだろ? 同じ真っ白な服着てるもんな、そうだろ?」
綾人は少年を見るだけで返答はしない。
「仲間が殺されてやるせないよな、悲しいよな。実はこの処刑はよ、最初から決まっていたんだよ。アクア・スカイラは悪い女だぜ、兄ちゃんの仲間たちは海国の脅威を伝える為にアクアに接触したんだろ? あの女は話を聞く振りえをしておびき寄せてたんだよ、集まったところでコレだよ——」
少年は自らの首に手刀を当てる。小袋を握る綾人の拳が軋むのを仲間たちは感じた。
「仇はとらなきゃ、だろ? 初めから殺す意思で、仲間たちを集めてなんて、ひでぇ話だよ。そういった意味で俺と兄ちゃん達とは共通の敵がいるわけだよ。あの女は殺されるべきなんだよ、兄ちゃんの手で、仲間の無念を——」
「貴方の話を全て真実である。と仮定して話を進めるわ」
妙に煽る口調にティターニは不味いと感じ口を挟む。綾人との付き合いが長いからこその行動である。
「アクアがヒルコとやらを使ってこの国を滅ぼそうとしている。これを真実として、どうして天使の使徒はアクアの敵とみなされたのかしら? それにあなたと、あなたに指示を与えている、あの人と云うのはヒルコを捉えてどうするつもりなの? 私はそこが知りたいわ」
少年は煩わしそうな表情を浮かべるが、ティターニの眼光は逃さず続きを促している。
「兄ちゃん達の仲間を殺した理由は俺でも知らねぇよ。知らねぇが予想はつくぞ、大方あの女は海国を自分の手で滅ぼしたいと思ってる、その障害になると考えたんだろうさ。それと、あの人がヒルコをどうするかは俺もさっぱりだ、だが悪いようにはしないさ」
「私の知りたい情報とかけ離れているから。信じようがないわね」
「そう言われてもな」
ティターニの返答に欠伸をしながら少年が答えると、沈黙が生まれる。
少年の言葉は知りたかった海国の闇であるが、証拠に欠ける。脅して喋らそうと考え短剣に手を置くが、少年は飄々とした態度を崩さず、先ほどのように死んでも良いという風体である。
おそらく力で押しても真実は語らないと想定がつく。
綾人、ルード、ティターニ、ブットルはもう分かっている。少年が語る“あの人”というのが悪魔であることを。そしてその悪魔がベルゼではないということを。
奴ならば、もっと状況を掻き乱すような策で綾人等を翻弄するだろう。
だが、この状況は実にストレートな道筋である。ベルゼの搦手とは大違いだ。
アクアを倒せば大円団と言っているように聞こえる——そうではない。綾人の目的はベルゼであり、海国を救うことではない——。
いつもであれば、空上綾人は考え、自分なりの最適解を導き出し、仲間達は文句を言いながらも共に行動をするのだが、今はそれができない。できる精神状態ではない。小袋は今も力強く握られている。
「綾人。マリアンヌというダークエルフを知っているか?」
沈黙を破ったのはブットルの言葉である。だがそれに反応したのは綾人ではない。
「ブットル。今、なんと言ったの?」
「ティターニ? マリアンヌというダークエルフを知っているかと。綾人に尋ねたんだ」
「どうして?」
「え?」
「どうして貴方が末娘のマリアンヌの名を知っているの?」
ティターニが見せたことのない表情にブットルは言葉が詰まる。
「妹なのか? あの夜、行動を別にした日に出会ったんだ」
ブットルの返答に「そう」とだけ返すティターニは深く目を閉じた。その様子はいつもの冷静沈着とはかけ離れた様子であり、詳しく話してと——ブットルに伝えた言葉はやや震えていた。
ブットルは、マリアンヌ——雷蘭の姫と出会った夜、天使の使徒を守ってほしいという話をされたことを淡々と語り出した。
聞き終えたティターニは謀を企てるように瞑目した後、大きなため息を吐く。
「貴方があの夜、末妹のマリアンヌに出会った夜。私は魔人族の男と話をしていたわ、その男は私にエルフ大虐殺の真相を伝えてきた」
その言葉の重みにブットルは舌を巻く。エルフの口からエルフ大虐殺を聞くのは非常に稀有であるからだ。
「真相はね、貴方があった末妹のマリアンヌが犯人なのよ。だから私は彼女を追っていたの、本当は関わってほしくはなかったけれど、本人の——マリアンヌの口から告げられていたのだから、ある程度は覚悟できていたの、確証に変わったのは——」
そこでティターニは一度綾人を見た。
「悪魔ベルゼが、綾人と同行することでその真相を教えると言ってきたのよ。あなたと別れた夜、魔人族の男からエルフ大虐殺の真相を告げられた。そしてもう一つ蛙族の男には気を付けろと言われたわ、その魔人族の男も随分と怪しかった、問い詰めたらあっさりと自殺したわ、まるで、自分の命じゃないみたいにあっさりとね——」
ティターニはスッと体の向きを変え達観を決め込んでいた少年に向き直る。
「——まるで、あなたみたいにね」
言葉と共に振り抜いた短剣の切っ先に血が付着する。神速な一手は少年の首皮を切る。
それでも少年はどこか余裕のある笑みを称えている。
二手目は完了していた、少年の足元は氷で固められており身動きができない状態である。
ティターニの短剣とブットルの杖が少年に向けられる。
「二人とも、そいつは誰なんだ?」
連携する二人の様子を見てルードが訪ねる。
それは予感でもあった。おそらくここから何か大きく事が動く、という予感。
「あなたは私に接触した魔人族の男なんでしょ? その猿みたいな笑い声が嫌に耳に残っているもの」
「キキキッ。なんのことだ、って呆けても無駄みたいだな。この状況ではどうしても逃げられないな」
少年——の姿をした魔人族の男はいやらしい笑みを讃えながら降参のポーズをする。
「動かないでもらっていいかしら? あなたがどういう理屈で今の姿になっているのか謎だけれど、簡単に命を落とされても困るわ」
「手厳しいな。と言っても死なせてもらうがな——」
「させないよ」
舌を噛み切ろうとしたのをブットルが止める。水色の魔法陣が描かれた指先が向けられると、少年の動きが止まる。
「こいつの中身を見てやろう」
少年の目が虚になり空を眺める。意識を失っている状態のままブットルが指先を少年の額に這わせ情報を引き出そうとするが——。
「キキキッ! 精神系の魔法で直接情報を引き出そうとしても無駄だせ、この男の肉体は、もう死んでるんだからな!」
少年の開け放たれた口から、不快感を固めた声が轟く。
先ほどのまでの十代特有の声ではない、ティターニは既に聞いており、空上綾人も聞いた声であった。
「残念だったな、捉えることができなくて、キキキッ!」
虚な目の少年から、甲高い声が響く。
ブットルは何か情報を得ようと魔法を続ける。ティターニは周囲を警戒しながら短剣を構える、ルードと綾人は少年を見る。
「ここ数日はやりにくいぜ、男を拐い難い、お前等が来てからだ、その前までは順調だったのに——」
その言葉で、五剣帝と初めて出会った日の会話をブットルは思い出す。そして声はやがて文句を垂れ始めた。
「まったく、最近は死にすぎだしよ! アスモデアの旦那は全然うごかねぇしよ!」
「黙れ」
綾人は静かに詰め寄る。
「さっきからごちゃごちゃうるせえよ。だいたいの事情は分かった。お前は俺等とクソ女がやり合ってる間にそのヒルコとやら奪いたいんだよな」
スッと綾人の瞳が少年を見据える
「おい! おいおいおい、なんだお前のその目は⁉︎ そ、それは、人族の目じゃねぇぞ」
魔人族は綾人の黄金色の瞳に畏怖を覚え語尾が震える。
綾人は小袋を掲げる。突き出された手は魔人族の目の前。
「一つ聞かせろよ。みんなの体はどうなってるんだ?」
「それは——」
いつもの軽口で乗り切ろうとしたが、魔人族はどうしてか憚られ、素直に告げた。
「体は燃やされている筈だ、大罪人として生首をどこかで晒すつもりだったはずだ」
その言葉を聞いた綾人は表情を変えずに再度言葉を告げる。
「もう一つ聞かせろ。お前さ、皆の体も持ってこれたんじゃんないの? どうにもお前の言葉に嘘を感じるんだよな」
綾人の鼻が小気味よく動く。
言葉に嘘を感じるという全く新しい力はこの状況では的確といえた。
魔人族は押し黙る。先ほど同様軽口で乗り切れないからだ、黄金の目が、瞳が、龍の瞳が軽薄な嘘を許さない。
「そ、それは——」
ヒリと漂う緊張の場に喉を鳴らす音が聞こえた。誰かは言うまでもない。
「た、確かに、首が繋がったまま、その小袋で運ぼうと思えば、できた——でも、それはできなかった——」
伺うような目を龍の瞳が捉えている。真実を語れと黄金が攻め立てる。見据えられたままの魔人族は苦痛でも吐き出すかのように、荒い呼吸しか吐き出せない。
「あ、アスモデアの旦那の命令なんだよ! 旦那が首と胴体を切り離せって、それを奴らに見せればアクアとぶつかるからその間にヒルコを確保して来いって言われたんだよ!」
アスモデアという名前を聞き、綾人以外が目配せをした。
「じゃあ、お前が皆の首を切ったのかよ」
綾人の声はどこまでも落ち着いている。
「全員の首は切ってねぇ! 初めから、切られてたのもある!」
叫ぶ声を受けて綾人はより距離を詰めた。
「お前さ、まだ嘘ついてるだろ。さっさと喋れよ!」
怒号である、空上綾人の天まで轟く声に仲間達も息を呑む、それほどの凄みがあった。
「なかには、生きてる奴も、いた——」
独白をする声を黄金色の瞳が捉え続ける。真実を話すまで逃さないという合図。
魔人族は自ら命を絶てることもできた筈だが、綾人の迫力に負けた故かそれができないでいる。
「まだ、生きてる奴も、いた——でも殺したよ、それがアスモデアの旦那の命令だったかよら、全員の首を切ってその袋に詰めた。意識のあった奴はもしかしたら助かってたかもな、最後の灰色の髪をした女なんて死の間際に男の名前をずっと言っていたぜ、キキッ——殺す前に色々と楽しませてもらったけどよ」
まだ意識のあるものの首を楽しげに切る姿、瀕死の者を嬲る姿が安易に想像がついた。
魔人族のいうある人が、アスモデアという人物だと全員が当たりをつける。
「——そうか。アスモデアってのは悪魔なのか? それと今回は悪魔ベルゼは関わってるのかよ?」
魔人族は語る内に己は死ぬと悟り途端に饒舌になる。綾人は務めて冷静に聞き問を放つ。
「キキキッ——悪魔の正体をもう知っているのかよ、なら隠しても無意味か、そうだぜアスモデアの旦那は悪魔だよ。七十二柱の一柱さ、大方ヒルコを狙ってるのも大した理由はないと思うぜ、ただ食いたいだけとかな悪魔の行動に理由は求めない方がいいぞ!」
「あぁ——知ってるよ。悪魔の行動はいつもクソだからな、どうなんだよその、七十二柱ってのは知らねぇけどよ、ベルゼって悪魔を知ってるのかよ?」
「キキキッ、知らねぇよ! 俺がしる悪魔はアスモデアの旦那だけだ、でも今回の一連はアスモデアの旦那からの命令じゃないのは確かだ、俺は旦那以外のある悪魔に命令されて首を切っつ——」
魔人族の男は話の途中で終わる。正確には綾人の拳が少年の顔面を捉えていたからだ、そして終わらせたのは拳だけではない。ティターニの短剣が、ブットルの魔法が既に死んでいる少年の体を魔人族から解放する形で行われた。
少年の遺体が倒れるのを見つめる一行は沈黙後に情報の整理をする。
「さて、この少年も含めて弔ってあげましょう」
「あぁ、そうだな」
ティターニの言葉に綾人が答え、歩き出す。
「場所は決まっているのか?」
「隠れ家の近くに海を見渡せる所があるからよ。そこに墓を作ろうと思う」
ルードの言葉に綾人が答える。
「魂を送り出す作法ならやらせてくれ、神父の真似事なら傭兵時代に何度も経験がある」
「頼む」
ブットルの問いに綾人が小さく肯く。
一行は綾人を先頭に歩き出す。
それ以降の会話は無かった。
雨はいつの間にか止んでいた、嵐の前の静けさのようである。
曇天の曇り空ではあったが、綾人等が進む道のりは青々とした空が広がっていた。




