恥ずかしいから転生する
「あー、人間滅びねぇかな……」
「いやいや、立場考えてくださいよ!」
ボソッと呟いただけなのに小言を言われる。
初めまして。
私は『神』、名前はまだない。
歳は解らん。特技は---
「何を誰に向かってボソボソ呟いてるんですか!?」
さっきから煩い、羽根が生えた金髪巨乳。
こいつは神事補佐官。神界の中ではそこそこエリート。
「あ、やべっ」
雲の上から垂らしていた糸を引き上げる。
「はぁ……またですか」
いやいや、そんなため息つかなくても。
『金雲魚』の餌には札束がいいって言わない?金だけに。
丁度、落としたの竹藪の辺りだし、勝手に人間が後始末するでしょ。
あ、因みに『金雲魚』っていうのは『金魚』の祖先ね?
雲の中で暮らしてます。
たまーに、落下する姿を人間が見かけて騒いでいるみたいだけど。
「それにしても……暇だな」
『神様失格』と書かれた白いシャツ、紺の短パン姿の男は
竿を雲に置くと、倒れこむように仰向けに寝転ぶ。
ほんと……この人はクズですねぇ……
「なんか言った?」
「いえ、何も」
沈黙が流れる。
「なんかさ、日本って変化無くてつまらないよね」
「神様がそれ言います!?それなら変化させましょうよ」
男は立ち上がると、右手に炎の球を浮かべると大きく振りかぶる。
「やっぱり滅んで---」
「ちょ、何やってんですか!」
ズルッ
『あっ』
女は止めようと、男に向かって走ろうとしたが
躓いて、男のパンツを脱がせてしまう。
男は慌てて股間を両手で隠すが、頭上の火球が落ちてくる。
『本日、正午頃日本海上空にて謎の爆発が---』
---
「で、創造主が創造主の一撃で死んだと?」
「いやぁ~、恥ずかしい限りで……」
大きな書庫の中心で男は気まずそうに頭を下げる。
「で、そちらの世界の他の創造主に頼みづらいと?」
「いや、『日本のオタク文化TUEEEE!これって世界征服出来るんじゃね?』とか、
騒いどきながら自爆とか……羞恥心がもげる」
イヤンイヤンと両手で顔を覆ってクネクネしてみる。
「はぁ……で、異世界の創造主である私に頼みに来たと?」
目の前で優雅に紅茶を飲むタキシードにシルクハットのイケメン。
彼こそが『魔法』や『冒険』がありふれた世界の創造主である。
「補佐官はつけるから、代わりに日本を見てくれるだけでいいからさっ!」
「そんな剣の指導をしながら読書をするノリで言われましても……」
「えっ?」
「えっ?」
「……あぁ、こちらの例え話です」
「あぁ、そうか。お前のおかげで、日本も異世界文化には慣れてきているけど、
その例えは解らんよ」
このイケメンと出会ったのは30年ほど前。創造主議会という100年に一回の神様の会議で、
俺が着ていた和服に興味を持って話しかけてきたのがきっかけだ。
「で、貴方はどうするのですか?」
「転生する」
「は?」
「いや、だから転生する」
「何処に?」
「お前の世界に」
「いやいやいやいや」
「え、ダメ?日本で流行ってて、俺も暇つぶしにラノベ読んだりしてたんだよね」
「いやいやいや、神様が転生って世界征服でもするつもりですか!?」
「だってお前、自分の世界に干渉しないんだろ?」
そう言いながら、机の上の水晶に手をかざすと宙にモニターが表示される。
モニターには異世界の色んな情景が映し出される。
「ほら、人と人で殺しあったり、魔物が暴れたり、種族間で争ったりしてるぞ?」
「それでも世界の均衡は保たれているんですよ」
優雅にティーカップを口元に運ぶ。
イケメンだ。
「唯一神の世界なのに4大宗教が存在していても?」
「ええ」
「こんな子供が魔物に襲われても?あ、死んだ」
「ええ…」
「こんな美少女が襲われてても?うわぁ……エッグいわぁ……」
「……何が言いたいんですか?」
切り替わる映像に難癖を付けていると、イケメンの顔が歪む。
「お前は外から、俺が内から世界の均衡を保つ。そういう提案だ」
「はい?」
今度は心配そうな顔。コロコロと表情を変えてもイケメンだわ。
「転生させて貰う交換条件に、仕事を手伝うって話さ。なに、静観だけが秩序じゃないって」
「……本気で言ってます?」
「あぁ、本気も本気。ちょー本気」
暫しの沈黙と睨み合いが続き、ため息が静寂を裂く。
「分かりました。転生させましょう」
「っしゃっ!キタコレ!」
「ただし、悪い方に傾いた場合は……」
「世界を作り直す。理解しているさ、今が丁度3回目だろ?」
「はい。1回目は人間の傲り、2回目は魔族の支配……あの手この手使って現状維持ですね」
「種族増やしたり、土地を入れ替えたり……ほんとは静観決め込んでいても、
誰よりもお前は神様らしいかもな」
シルクハットで表情を隠す。
キザなイケメンだ。
「では、手続きを始めましょうか」
神は水晶に手をかざす。
「ステータスは?」
「調整いらない」
「見た目はどうしますか?」
男は長い髪をかきあげる。
「髪だけさっぱりしたい」
「では、種族は?」
「もち、ヒューマン」
「天性はどうしますか?」
「あー、職業だっけ?後から変更可能だよな?」
「ええ、ステータス次第ですが」
「じゃあ、魔導士で」
「最後に……一応聞いておきますが、名前は?」
男はボソボソと呟く。
「……御神からミカミとかが無難か?いや、でもなぁ……」
「こちらで決めましょうか?」
「いや、帝……ミカドにしてくれ」
「分かりました。では、転送します……暫くは会えませんが、お元気で」
「あぁ、それなりに楽しんでくるよ」
男は目を閉じ、光に包まれる。
これから始まる英雄譚に胸を焦がしながら……