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Dual Moon  ~ The far past ~   作者: ヴィセ
1/4

遠い過去 1



 燃えるような夕焼けの中、馬に乗った一行が目的地に向かっていた。


 人数は五人。


 王に仕える魔族二人が先に進み、もうすぐ王城に出仕する吸血鬼族の若い魔族三人がその後に従っていた。




「ねえヴィーザ。貴方、最終修練が終わったら配属先は決まっていたわよね」


 シェルティアは隣に並んで馬を操るヴィーザに聞いた。


「うん。魔術攻撃の隊に行くはずだよ」



 乗馬を苦手としてるヴィーザは返事をしながら落ちないよう注意を払っている。



「聞いたけどヴィーザは前に王へ謁見した時、お声を掛けていただいたって?」


 二人の前を行くハーディは馬に慣れているので後ろを向いて話しても大丈夫らしく、会話に加わってきた。


「じゃあ、ヴィーザは近衛の方へ行くのかしら?」

 

 シェルティアはヴィーザの乗りこなしを(危なっかしいわね)と思うがそれは口には出さない。


 普段のヴィーザの修練に馬は必要ないから慣れてなくて当然だ。



「それはどうかな……」 



 「近衛へ行く」とまだ決まってはいない。が、マスター(師)から打診はされていた。


 しかし二人にはハッキリしない事は言わない方がいいと考え、ヴィーザは曖昧に答える。



 

 ヴィーザ達、若い上級魔族はこの世界の支配者である魔王を守護する為に、長い修練を重ねてもうすぐ一人前として認められようとしていた。


 またその中でも能力の高いものは直に王を守る「近衛」、さらに「親衛隊」を勤める。


 仕官する魔族にとってそれは栄誉ではあるが、もちろん誰にでもなれる訳ではない。




 今回この若者たちは、『人間を襲ってはいけない』という魔王の言葉を破り、人間の村を襲撃した下級吸血鬼族の引渡し任務に同行していた。


 その犯人の身柄を引き受けるだけの簡単な任務。



 もちろん本来なら正式な部隊員によって行われるが近頃、メデューサによる魔王への反乱が烈しくなり、どの部隊も忙しい。


 そのため簡単なこの仕事が、もうすぐ着任するであろう彼らに回って来たと言うわけだ。






 今の魔王は人間襲撃に関する決まりを破った者へは殊の他、厳しい処罰を課していた。


 これから行く下級の集落には予め襲撃者を差し出すよう、申し付けてある。


 その命令に背くと今度は集落への制裁が待っている為、まとめ役はしぶしぶ引渡しを承知している。



 そして下級同族の行動を諌めるのも彼ら上級の役目だった。 




 上級と下級との大きな違いは「陽の光」にあった。


 吸血鬼族は陽の光を浴びると途端に消滅の危機にさらされる。



 だがそれではいざと言う時に魔王を守護する事が出来ない。


 よってその弱点を無くすべく、上級者は“超命族”によって創られた[印](闇の封印)を身体に刻み、その呪縛から解かれていた。


 そして[印]を持たない下級の彼らに合わせ、一行は日が沈む頃に村へ着く予定だった。



 その行く道での会話はやはりこれからの事になる。


 彼らはまだ正式に王城での配置が決まっていない。


 修了者は魔術の得意な者、武器の扱いに長けた者、様々だ。




 それぞれの適性によって行く先が決められるが、修了間際の彼らには自分が何処に行くか、他の者は何処へ配属か、大きな関心事だ。


 又、王に仕える魔族の中で彼ら吸血鬼族は「魔力に富んだ者」が多いため、魔法を使って何かしらをする部への配属がほとんどだ。




「紫」色の瞳。




 吸血鬼族で魔法を扱えるのはこの色の瞳を持った者だけだ。


 流動魔力のない下級吸血鬼族は全て「紅い」瞳をしている。



 三人の内のヴィーザは他の吸血鬼族と同じように「魔力に富んだ者」の中に含まれていた。


 そしてその瞳の色は「青紫」という、魔力の大きさを表す「青」色の強い稀有な瞳を持っていた。




 その為、マスターたちの間では早くから「親衛隊」候補として名が挙がっていた。


 修了の近い今、その期待は裏切られないだろうと言われている。




 しかし、ハーディはどちらかと言うと武器を使う方が得意だ。


 瞳の色も「赤紫」とヴィーザと正反対の「(物理的)力」を強く表わしていた。


 ハーディは「自分は武力隊へ行く」と早くから断言し、その言葉通り吸血鬼族には珍しく剣の腕が立った。



「でもシェルティアが何処に行くかまだ解らないんだよな」


 ハーディは学友の決まらぬ進路を気にかけている。



 シェルティアは一般的に多い「真紫」の瞳を持っていた。


 多くの吸血鬼族が魔術を専門にした修練を選ぶのに対し、シェルティアはどちらも好んで習得した。



 魔術、武力、どちらにも遜色ない。


 故にどこが適正か判断がつきにくく、今だ配属が決まっていない要因だ。




「そうね。早く何処へ行くか決まって欲しいわ」



 そう言ってシェルティアがクスクスと笑うその動きに合わせ、背なで微かに揺れるプラチナの髪が夕陽にキラキラと輝いていた。


 そんな文武両道の彼女は周りからはどちらも使えると羨ましがられていた。


 しかし本人は中途半端だと嫌っている。



 ヴィーザほど魔力は強くなく、ハーディほど剣技が立つ訳でもない。


 だがそれを誰に言う事なくシェルティアは一人悩んでいた。



「でも、シェルティアはヴィーザと一緒にいたいだろうから、同じ所がいいんだろなー」



 ハーディは斜め後ろを行くヴィーザを見る。


「いいよな、ヴィーザは。王の眼鏡にかなうし、シェルティアはいるし……」


 そして小さく溜息をついた。




「ハーディ……」


 ヴィーザは(何を言うのか)と横のシェルティアと顔を見合わせ、クスッと笑った。



「いやーね。ハーディったら!それに私程度じゃヴィーザと一緒の所は無理よ」


 顔をほんのり赤くしてシェルティアは馬を少し進め、ハーディと並んだ。



「それに『一緒にいたい』って何よ?」


 思いっきりパシッと音を立て、シェルティアはハーディの背中を叩いた。


 

「いてて!だって君達、この間族長が婚姻の承諾をしたって……」


 それはヴィーザの家と、シェルティアの家の間で古くからの取り決めであった。



「知ってたの?」



 シェルティア達は秘密にしていた訳ではないが、言いふらす事でもないと黙っていた。



「そんな二人なら一緒にいたいだろうって思うよ?普通」


 そのハーディの言葉を聞いてヴィーザは何も言わず、微笑むだけだった。



「でもね。幼い頃から知っているから、今更って気もするわ」


 シェルティアは言いながら、種族は違うが仲の良いラドゥなどと遊んだ昔を思い出していた。




 そう言えばあの頃に比べ、ヴィーザは激しい感情を表さなくなった。


 笑うのは良く見るけど、怒ったところは見てないわ……。



 やはり瞳のせいで普通より厳しい感情の制御を強いられたのかしら?


 とシェルティアはふと思い、いつも穏やかな許婚を横に見る。

  



「怒りの中にも我を忘れるな」




 この言葉は魔術の教えを受ける時、一番最初に教えられる言葉だった。


 負の感情は魔力の暴走が起きやすい。


 そしてこれを防ぐため魔術を習得する者は感情の制御をまず教えられる。



 この魔力の「青」の強い瞳を持つヴィーザは特に抑えるよう、厳しく教えられた。


 どんな時でも冷静に居られるように。自分の感情に負けないように。




 特に「怒り」と「悲しみ」に支配されないように……。





「君たち、もうそろそろ集落に着くぞ」


 ヴィーザ達は話に夢中になっている内、何時の間にか目的地が近い事を告げられた。


 空は沈んだ夕陽の残り火のような暗い朱を、西の彼方に映し出している。




「意外に早く着いたわね」


 しかし近付くにつれシェルティアは何か嫌なものを感じた。



「静か過ぎやしないか?」


 ハーディも異変に気が付いたようだ。




「ぅわ!」




 ヴィーザの乗った馬がいななきながら立ち上がる。


 弓から放たれた矢をとっさにヴィーザがかわした動きに驚いたらしい。




「ヴィーザが狙われている!?」


 シェルティアが(何処から狙ったのか?)と辺りを見回した時。



「やっちまえぇ!!」


 そう叫びながら物陰に隠れていた下級吸血鬼とメデューサの手下が、一行に襲い掛かった!!




「しまった!奇襲攻撃だ!!」



「早く下がって、ヴィーザ!!」




 一対一の戦いとは違い、広範囲へ強力な攻撃のできる「魔術使い」。


 この厄介な相手を先に倒す。これが戦いの常套法だった。


 そしてそのセオリー通りに「魔術使い」のヴィーザが一番に狙われたのだ。




 混乱の中、ヴィーザは詠唱が途切れ、うまく魔法を放てないでいた。


 普通は「魔術使い」は後衛へ下がって物理攻撃を援護するのだが、奇襲による攻撃にそんなことは言っていられない。



 ハーディとシェルティアは次々と襲い掛かる敵から、武器を持たないヴィーザを必死で守っていた。


 正規隊も応戦しているが自分たちの防御で精一杯だ。




「きゃあ――――っ!!」


 シェルティアの悲鳴が上がった。




「シェルティア!?」


 ハーディが叫びながら振り返る。




 ヴィーザが詠唱を終え、石になったシェルティアが敵の剣によって粉々に砕かれる。





―――これらが全て同時に起こった。





「シェルティ……ア?」 


 ヴィーザは目の前で起きた光景をすぐには信じられないでいた。



 自分を守るためにシェルティアはメデューサの魔力が封じ込められた「石の涙」を受け、砕け散ってしまった??




「シェルティア――――ッ!!」




 全てを理解すると愛しき人の名を叫びながら馬を降り、石の欠片となってしまったシェルティアのもとへ行こうとするヴィーザを、ハーディが必死に止める。



「ばかっ!!馬を下りたら奴らの餌食だ!!」


「でも、シェルティアが!!」



 ハーディが今までに見た事のない、ヴィーザの苦しそうな表情だった。




 辺りを魔法で吹き飛ばされた砂塵が舞い上がっていた。


 敵は右往左往して慌てふためき、逃げ惑っている。


 この混乱を期にここから脱出しなければ次は無い。




 しかし馬から尚も降りようとするヴィーザ。


 懸命にその身体を馬上から離すまいとするハーディ。


 


「ヴィーザまで砕け散るつもりか??シェルティアの行為を水の泡にする気か?」


「でもこのまま放っては置けない!」


「無駄だ!砕け散ってしまったシェルティアは……もう元には戻らない!」




「戻ら、ない?」




 嘘……?


 何かの間違いだよね?


 ついさっきまで、私の横で微笑んでいたじゃないか……?


 シェルティア?







「退くぞ!!」


 ヴィーザの放った魔法で退却の活路を見出した正規隊は、ハーディに合図をすると呆然とするヴィーザの乗った馬の手綱を引き、一気に城まで駆け戻っていった。





 下級吸血鬼族による裏切り。




 しかしこれは先に集落を襲ったメデューサ隊に一部の者が加担しただけだった。


 ちょうどここへ来た一行を血祭りに上げ、そのまま本隊が王都へ雪崩れ込む予定だったらしい。





 しかし逃れたヴィーザ達によりその計画は知れ、さらにメデューサと魔王の膠着状態は続いた。







~ To be continued ~

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