‐起の章‐ ♯1/①
〈i144606|14233〉
著者・おおぬきたつや
りゅうのげきだん!
『 竜の撃団!』
━ドラゴン・ストライク!━
THE BEGINNING 〈起の章〉
♯1
「うらあっ!」
裂帛の気合い!
人気のない寂れた裏路地で、束の間、空気が震えた。
この直後、低い呻きが上がり、どさり…!
あえなくひとりの男が地べたに倒れ込む。
だが昼間の表通りには気配として伝わらないだろう。
それきり、シン…とした空気が周囲を包み込んだ。
そんな中で、やがてその場に仁王立ちしたまま、殺気をまとった気配がゆっくりと身じろぎする。
みずからの足下に横たわる背広姿の男に冷たく一瞥くれて、鋭い眼差しの男はゆっくりとこの背後を振り返った。
長くも短くもない、自然に流したままの黒髪がかすかに踊る…!
その前髪がはらりと幾筋、乱雑に額に落ちるとも、その中で輝く眼光は決して鈍ることもこの標的を外しもしなかった。
みずからの獲物を見据えた肉食獣かのように…!
〈i144607|14233〉
左右をビルでふさがれた暗闇に、表通りの日差しが逆光となって、そこにはまだ二人ぶんの人影が、これと無言で対峙している。
これをまた鋭い眼光で威圧するかの若い男は、夏物の学生服をその身にまとっていた。
いかにも若い見てくれで、背後に倒れる年配の男とはおよそ二回りくらいの歳の違いか。やはり同じかそれ以上の歳の開きを持った人間たちを前にも、まるで臆することなくひたすらな殺気を放つ…!
もはやただならぬ雰囲気の中、道を塞ぐ男たちもだがそこで並ならぬ気配を発していた。
対して、この見た感じはまだ学生らしき若者と真正面で相対するのは、逆光で影を背負っていながらその特徴的な背格好ですぐさまこれとわかる。
警官だった。
またその背後に控えるのは、こちらはありがちな背広姿だが、ひどく重苦しい雰囲気をまとってただ前方の少年を見据えている。
おそらくは前の警官と同類、いかにもベテランの刑事然として構えているが、よく見れば、その口もとにただならずした不敵な笑みのごとき陰りがあるのがわかったか。
世間一般では、どちらも一介の学生ごときが対するには恐れ多い存在だろう。
それにも関わらず、なおのこと敵意を剥き出しの少年は、ジリっとみずから間を詰める…!
「……っ!?」
この拳では決して負けないとの自負か、一触即発の気迫を肩から放って、だがこの二歩めがただちに鈍る。
目の前の相手は、その顔におよそ警官らしからぬあざけった笑みと邪悪な陰りを浮かべて、躊躇もなくみずからの手にある武器を差し向けてきた…!
ただの警棒ごときではない、銀色の輝きを放つ凶悪な凶器をだ。
その狙いはぴたりと眼前の学生服に定められていた。
なんの警告すらなしに、ごく当たり前に…!
「おいおいっ…!」
少年の表情にかすかな苦みが走る。
それは怯えなどではなくしたわずかな戸惑いだ。
まず冗談だろうと怪訝に見つめる視線の先で、しかし歪んだ面相はそこに微塵もためらいはなし。
直後――。
短い発砲音と少年の身体に痙攣が走るのはほぼ同時だった。
「くっ…! くそったれめ!!」
右の肩を押さえ、呪いの言葉を吐くその引きつった顔面へと目掛けて、またも銃口はぴたりと定められる。
もはや理不尽としか言いようのない公権力の濫用に翻弄される少年の顔に、それでも絶望の色はなかった。
むしろ敵意があふれるばかり、これでは回避などしようがない。
そのままに両者、しばしのにらみ合い…!
満足な言葉もないままに、事態はのっぴきならない状況へと駆け抜けようとする。
そうして絶体絶命の冷え切った空気を裂くのは、しかしこれが乾いた銃声でも轟く怒号でもなかった。
それは天から降るかのごとくした、凜とした可憐なソプラノだ。
殺伐とした空気を吹き払うかのごとく、キンとあたりに響き渡る。
「お待ちなさい…! この事態、以後はこちらでもらい受けます。双方、拳を収めなさい…!」
「……!!」
※次回に続く…!