56.男が消えた
街中で友宏が雪を見失った場所まで来て、間宮が、
「この辺りなら、あの男から聞き出した本拠地が近くです。橋本様の話では、歩いていたという事ですし、考えがたい事ですが、戻ってきているのかもしれません」
辺りを運転席の窓から見回した後、真剣な顔で司のほうを向いた。
繁華街から横道に逸れた路地裏に入り、どことなく周りはどことなく色のくすんだ建物ばかり建っている。
以前、間宮は雪を追う男達の拠点が廃工場だったといっていたが、そんな建物があっても不思議ではない町並みである。
「この辺で見失ったし、あいつが居た所が近くなら、そんな見つかりやすい所にいるのは、ちょっとおかしいけど、そこじゃねえ?」
後部座席から友宏も同意する。
「うん。僕も、雪ちゃんが近くに居るような……」
そこまで、司が言いかけたところで、鈍器で硬いものを殴ったような鈍い音がして、車の窓に亀裂が走った。
運転席の側面の窓から、乾いた音を立てて弾かれた弾が落ちる。続けて何発も車に弾が撃ち込まれた。
周りに気を配っていたのにも関わらず、周囲はダークスーツを着て銃を構えた男達に囲まれていた。冷たい目で黙々と銃を撃ってくるさまはまるで機械のように無機質だった。それぞれ顔立ちは異なっているのに、瞳だけが同じで暗く冷たかった。
男達も、司達が追ってくるのは予想していたのだろう。
タイヤを撃たれて、車体が沈むと、友宏が派手に悲鳴を上げる。
「ちょ、さすがにこれはやばくないか!」
友宏の悲鳴とは対照的に、間宮が静かに問いかけるような目を司に向ける。
黒い携帯端末を取り出して、何か打つ手は持っているようだったが、主を出し抜いてはいけないと遠慮したのだろうか、静かに司の行動を待っている。
「ごめん、ちょっと、なるべく顔を覚えておこうと思って」
司は、銃を撃ってくる男達の顔をじっと見て、大粒の涙を流した。泣くのは卑怯だと思いつつも、司は涙を止められなかった。
「この男達は居なかった!」
本の時と同じように、車を取り囲んでいた男達が足の方から少しずつ消えていく。
全て消えてしまうまで、男達と司は見詰め合った。
友宏や間宮が何か言っているが、司の耳には入らなかった。
男達は、一斉に銃を下ろし、完全に消えてしまう最後の時まで、司をその温度の感じられない瞳で見詰め続けていた。
その瞳は、冷たく純粋に澄んでいて、司の胸を苛み続ける。
司は、この男達の冷たい眼差しや整った顔立ちを一生覚えているだろう、と思った。自分の守りたい少女を傷つけるものを取り除きたい故に、してしまったこの罪を一生覚えて償っていこうと胸の痛みに誓っていた。




