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お姫様が創造  作者: ひとみんみん


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52/64

52.雪のお世話

 微妙な空気が病室に流れた所で、大きなスライド式の扉が勢いよく開いた。

 洗面器とタオルを抱えた雪が入ってくる。

 男臭かった病室が、花も恥らうような天下無敵の美少女の登場で一気に華やぐ。

 実際、司は雪の周りに色とりどりの花が散っているような気さえした。

 しかし、友宏と間宮の二人は、雪と司から居た堪れなさそうに目を逸らした。

「雪ちゃん」

「司、起きたのね。良かった。じゃ、やりやすい」

 雪は零れるような笑みで、微かに湯気を立てる湯が入っている洗面器とタオルをサイドテーブルに置いた。

「え、何を?」

 司は、いまいち状況が把握できずに首を傾げる。

 頼みの友宏と間宮は、目を逸らしたまま明後日の方向を向いている。

「そうでした、やはり私は部屋の外で見張りを続けます。では、これで」

「じゃ、じゃあ、オレもまた来るから。安静にしてろよ、イチジョー。またな」

 友宏と間宮は、司と雪の方は見ないようにしながら立ち上がり、そそくさと部屋を出て行こうとする。

「あ、トモ。間宮さん」

 司は妙な雰囲気に戸惑って、出て行く二人に追いすがるように声を掛けたが、スライド式のドアが滑らかに閉まって、二人の姿は消えた。

 何が起こるのだろうと見ている司の前で、雪がカーディガンの腕をまくって、お湯にタオルをつけてきつく絞る。一旦濡らしたタオルをサイドテーブルに置いて、白魚のようなすらりとした手を構えた。

 やる気で目を輝かせながら、雪が司に宣告する。

「体拭くから、パジャマ脱がしてあげる」

「…………えっ」

 雪の信じがたい言葉は、音として司の脳に伝わったが、意味を考えるのは拒絶され、幻聴として処理されてもう一回聞き返される。

「もう暖かいんだし、裸になっても風邪引かないわよ」

 司の聞き返しを別の意味に取ったのか、雪は不満そうに可愛く唇を尖らせる。

 実に行動は素早く、あっという間に司に掛かっていた掛け布団を剥ぎ取り、白い綺麗な指先が司のパジャマのボタンに掛かった。

「えっ、ちょ、待って、待って待って!」

 司はパジャマのボタンを死守しながらベッドの上を後退りする。

 もしかしなくても、美少女の前で自分が裸になる事を、当の美少女自身に強要されている?

 ……司の全身から嫌な汗が出てきていた。

「ほら、汗出てきてるし、拭いて綺麗にしないと」

 司が押さえるボタンとは別のボタンを、雪は器用に外していく。

「いや、これは。あ、あのっ、自分で、そう自分でやるから。だ、誰か。トモ! 間宮さん!」

 司はこれ以上ないほど焦って、パジャマの前をかき合わせる。

 頼りない事に、清潔なパジャマの下には下着のシャツは着ていなかった。

 そして、間宮とトモの返事は世の無情を思い知らせるかのように無かった。

「何遠慮してるの。この二週間、ずっとやってきた私がやる方が効率良いでしょ」

 きょとんと雪が目を丸くする。

 司は耳まで真っ赤になり、息も絶え絶えに雪を見返した。

「ずっと? ずっと僕を拭いてた?」

「ええ、それが何。だって意識がなかったら、お風呂は入れないじゃない。汚いでしょ」

「ま、まさかとは思うけど、まさか全裸?」

 耳まで赤くなり死に物狂いで問い詰めてくる司に、ようやく司が躊躇っているのか分かったらしい雪は、それでも可愛く小首を傾げた。

「だって全部脱がないと全部拭けないでしょ。何で婚約者の前で恥かしがってるの?」

「うわぁぁあああああ!」

 雪の言葉に今こそ全てが分かった哀れな男・司は、とりあえず絶叫した。その声は、陰鬱な男に銃で撃たれた時よりも大きく、そして広大な一条院家に物悲しく響くのだった。

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