5.お昼食べよう
お昼の鐘が鳴った。
午前中、全然授業に身が入らなかった司は、急いで廊下の端のクラスまで走った。
普段落ち着いていて走ったりしない一条院財閥の御子息が走っているのを見て、通りがかりの生徒達が目を丸くする。
――朝、雪と司が二人揃って遅刻すると、雪は案の定転入生だった。その為、初日だから遅れてしまったんだろう、と教師からお咎めもなく転入するクラスへ連れて行かれた。
雪と司はクラスが離れているが同学年だった。
ただ、司のクラスと雪のクラスは校舎の端と端に離れている。
よく考えれば、司に助けを求めていた雪が逃げるなんてあり得ないと分るのだが、司は全速力で走っていた。
……何故、遊園地は現れて消えてしまったのか。
自分を護衛する人たちはどうして現れたのか。
どうしてそれらを誰も異常に思わないのか、
どうして朝、遅刻した時、『君は一条院財閥の御子息なのだから、もっと自覚を持って行動してくれないか』と先生から注意されたのか。いつの間に自分は、財閥の息子になってしまったのか。
司は聞きたいことが山ほどあった。
だから司が焦って走っていても仕方ないだろう。
更に、その後ろから司を追いかけて友宏が緩く走っている。いつものように司と飯を食べようと思って声をかけようとしたが、チャイムが鳴ると同時に司が弁当を引っ掴んで走り出したのを追いかけたからである。
そんな付き合いのいい友人の事さえも目に入らずに走った司は、雪のクラスの前で急ブレーキをかけた。
息も整わないまま教室のドアをガラッと開け放つ。
中に居た生徒達が何事かと注目する。
「雪ちゃん、一緒にお昼食べよう」
司らしい惚けた一言だった。
そんな言葉をこれ以上ないほど真剣な顔をして言い放った。
当然、後ろの友宏は友人のボケボケっぷりにずっこける。
あんなに走っておいてナンパかよ、というのが友宏の意見だった。
司は力いっぱい否定した。




