48.雪のお菓子「素敵なものいっぱい」
司が、銃をしまうと、タイミング良く射撃場の重々しい防弾の扉が開いた。
ひょっこりと雪が顔を覗かせる。司の顔を見ると、花が咲いたような笑顔で手を振った。
「司ー! お茶しようよ。私、この前調理部で習ったケーキ作ったの」
見ると、雪はワゴンを押したメイドを二人と犬達を引き連れていた。
大きいワゴンの上には特大のデコレーションケーキが乗っている。山ほどの赤い熟れた苺と真っ白な生クリームがどっさりかかったケーキは、司の両腕でようやくギリギリ抱え込めるくらいの大きさだった。他にもクッキーやマドレーヌ等の焼き菓子がワゴンに所狭しと乗っている。
「すごいね、雪ちゃん。これ、全部雪ちゃんが作ったんだよね? 大変だったでしょ」
司がそのお菓子の量に圧倒されて目を見張りながら、雪の方へ近づくと、雪は照れたように笑って司の腕に抱きついてきた。犬達も司の足にじゃれ付いてくる。
「頑張ってる司に食べてもらおうと思って作っちゃった」
雪の着ている白いキャミソールのレースと肩まで伸びた絹糸のような黒髪が、ふわりと司の腕をくすぐった。
薄い水色のデニムのズボンに白いレースが一杯ついたキャミソール、クリーム色のカーディガンでラフに装っていても、雪は無邪気で可愛い。
司は、間近に迫る美少女に即座に真っ赤になってうろたえる。
何よりも嬉しいのは雪が自分の為に、こんなに一杯お菓子を作ってくれたという事だった。
男が捕まって、力を使う必要もなく、お菓子を作る余裕もでてきたのだろう。
「ありがとう。泣きたいくらい嬉しい」
そう言って、既に目が潤んでいる司に、雪が更にきつく抱きつく。
じゃれあっている二人の後ろで、射撃場の大きな木製のテーブルにメイド達がてきぱきとお菓子をテーブルにセットしていく。
「まるで、マザーグースの歌のようですね」
と間宮が何か眩しいものでも見るように目を細める。
「えっ、何々? 間宮さん」
雪が、自分の婚約者の腕を離さないまま、間宮の腕も掴む。
司も興味津々で間宮の言葉を待つ。
間宮は黒いスーツの腕を掴まれたまま、微かに笑った。
「女の子は何でできている。お砂糖にスパイス。素敵なものが一杯。そういうもので、できている。確かに雪様を拝見しておりますと、頷けます」
大人故だからかストレートに褒め言葉を口にする間宮に、雪は頬を上気させる。
そして、チラッと窺うように脇の婚約者の方を見るので、司とばっちり目が合った。
強い奇跡の力なんて抜きにしても、こんなに無邪気で可愛いから、どこかに居る誰か遠い存在から『生贄』に選ばれてしまったのかもしれない、とふと司は考える。
だけど、そんな内心は押し隠してにっこりと笑った。
「僕もそう思うよ」
司が間宮に同調すると、雪はパッと顔を輝かせる。
瞳が生き生きと煌いて、薄桃色のふっくらとした唇が、司の頬に当たって離れる。
司が身構える暇もなかった。不意を突かれた司は、ケーキの上の苺みたいに赤くなって雪と見詰めあう。
二人を足元で犬達が行儀よく座って眺めている。
その二人の様子は実に微笑ましく、間宮もメイド達も穏かに笑いながら見守っていた。




