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お姫様が創造  作者: ひとみんみん


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42.間宮の涙、そして絆

 そう言ったきり、しばらく間宮は黙り、それからしばらくして冷静な顔で口を開いた。

「司様も気付かれたかと思われますが、ある程度の期間を持ちこたえれば、雪様は追われなくなるのかもしれません。先日の襲撃を受けて感じましたが、あれだけ大勢の大人の男達相手に雪様が長い間逃げ切るのは困難だったでしょう。銃で撃たれても動ける化け物達です。いくら雪様が超能力を持っていると言っても、どうやら一昨日の追い詰められた様子では何らかの支障があるようですし……。あちらが短期戦でしか考えられない何かがあるはずです。無いと辻褄が合わない」

「という事は、しばらくの間耐えられれば、時間切れになって自動的に雪ちゃんが助かるかもしれないって事?」

 間宮の長い見解を、司は希望が見えたような思いで上擦った声でまとめる。

 司の高い声に、足元で悠々と餌を食べていた犬達がワンと一声吠える。司は毛の短い黒い犬達の頭を撫でてやった。

「絶対と言う訳ではないですが、時間を稼げば何かしら動きはあると思います」

 頼もしく冷静な声で間宮が応じる。

「……参考までに聞いておきたいのですが、雪様がそのような力を使った所を見た事がないのですが、何か雪様が作り出したものはありますか?」

 長い間司に仕えているだけあって、今までの話を疑う気はないように真面目な顔を崩さない間宮だったが、当然誰もが疑問に思うだろう点を質問する。

「雪ちゃんの力も僕の力も使っても僕達と追いかけてくる男達以外誰も覚えてないんだ。例えば、この犬とかも雪ちゃんが作ったんだけど……」

 司の言葉に、犬は自分たちに話が振られていることを理解したのかワンワンと吠えて、司に無邪気に体を摺り寄せた。千切れんばかりに尾を振っている。

 その様子は慣れたようで、とても一昨日作り出されたようには見えなかった。

「司様、この犬達の名前をご存知ですか?」

「そ、そうだ。そういえば知らない」

 少し慌てる司を見て、間宮は、また冷静な顔を崩し泣きそうな顔をした。眉根を寄せ、何かに耐えるようなそんな表情で司をじっと見つめる。

「そうですか、それなら納得がいきます。司様は嘘など吐く方ではない。ましてや、記憶喪失というわけでもないでしょう。私がずっとお側で見ているのですから……」

「間宮さん、何故そんな顔を……」

 司の言葉を遮るように、間宮が緩く首を振った。

「犬の名前はそちらの少し灰色の瞳をしているのが、カイン。濃い青の瞳をしているのがアベルです。私とまだ小さかった司様でかっこいい名前を付けようと相談して決めました。……度重なる質問で申し訳ありませんが、私の下の名前はご存知ですか?」

 間宮の目が絶望に彩られる。

 その目に、司は一昨日間宮に『誰ですか?』と、残酷な質問を投げかけた事を思い出した。

 司の問いは、間宮の全存在を否定する言葉だった。

 答えられない主人を間宮は、じっと見つめる。

 ……泣きそうな顔がやがて全てを諦めたような無表情に変り、黒い切れ長の目尻から涙が流れた。蒼白な頬に透明な涙の筋が引かれる。

 主人に全てを否定された護衛長は、無表情のまま泣き続ける。

 しばらく経ってから、掠れた声で告げた。

「それでも、私は司様をお守りして宜しいでしょうか」

 間宮の言葉は問いというよりは、祈りだった。

 司は自分の無力さを感じながら微かに頷く。

 何故、自分にも記憶が無いのだろう。

 間宮にとっては、司を守る事は自分の存在理由にも等しいのだろう。司が僅かに頷くのを見て、間宮は若々しい笑顔を浮かべた。

 泣き笑いのような痛々しい顔で、間宮は、

「ありがとうございます。私の名前は間宮楓と申します。宜しくお願いします」

 と司に礼を口にする。

 司は背負いきれないほどの罪を感じ、自分も少し泣いてしまった。

 雪は存在するという苦しみを生み出し、司は居なくなるという苦しみを生み出す。

 自分は、『間宮楓』という名前を一生忘れない、と司は思った。

「すみません……間宮さん」

「いいえ、私は司様をお守りする事ができて、この上もなく幸せです。泣いてしまって申し訳ありませんでした」

 間宮が今度は晴れやかに笑って、テーブル越しに手を伸ばし、司の指先をきつく握る。

 司は、間宮のリアルな手の暖かさにまた盛大に泣いてしまった。

 その暖かさは、とても一昨日現れたばかりの人間のようではない。節や手の先が固くなっている感じなども間宮がずっと前から存在したような印象を与えるのだった。

 突如犬達が、泣いている司を心配してなのか、二匹が揃って司の膝に飛び乗ろうとする。

 濃い青の瞳をしたアベルが主人の胸に飛びつき、灰色の瞳をしたカインがどっかりと膝に居座る。アベルが飛びついたまま、司の顔をめちゃくちゃに嘗め回す。

「わわっ!」

「司様っ!」

 バランスを崩した司が椅子ごと引っくり返りそうになり、司の手を握っていた間宮が慌てて手を引いて食い止めようとする。

 しかし、司の体重プラス二匹の大型犬の勢いに間宮も巻き込まれた。

二人と二匹は、豪華なお茶の支度と一緒に、テーブルの下の芝生の上へ仲良く転がる。

「ご、ごめん。間宮さん」

「いえ、お怪我はありませんか、司様。紅茶を被ったりなさいませんでしたか?」

「うん、平気。ありがとう。間宮さんは?」

 とっさに間宮が司を抱き込んで倒れたので、ポットに入っていた紅茶やら、残っていたケーキやらは全て間宮にかかっていた。そのおかげで司は無事に済んでいる。

 慌てて司は、ハンカチを取り出し、ベチョベチョになっている間宮のスーツを拭きだす。

 だがそれは、控えめな仕草で押しとどめられて優しく微笑まれた。

「それは、良かった。私は大丈夫です。カイン、アベル! ウェイト!」

 間宮の凛とした命令が響く。

 犬達は、興奮を抑えきれないように目をきらきら輝かせ、尻尾をバタバタと振りながらも、大人しく二人から少し離れた所に座り込む。残念ながら反省している気配は全く見られない。

 犬のやんちゃ振りと間宮の紅茶やケーキ塗れになった姿に、司は悪いと思いながらも吹き出す。いたずらに目を輝かせている犬達と真面目な顔を作っている間宮の構図は、実に笑いを誘うもので、笑い出したら止まらない。

 司が楽しそうに笑っているのを見ると、間宮も甘味塗れのまま真面目な顔を崩して笑い出す。犬達は、二人が笑っているのを見て、調子を合わせるように軽快に吠え出す。

 その賑やかな騒動は、少しして雪や護衛団に発見されるまで楽しく続いた。

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