39.護衛者間宮のシゴキ
「――確かに片手でも撃てますが、まずは両手で持ってください」
「あ、すみません」
銃を持った緊張のあまりに、さっき間宮から言われたことも忘れて片手で危なっかしくやんわり銃把を握る司に、間宮が突っ込みを入れる。
まだ痛む手で司は慌てて銃把を握り直した。
人を攻撃し殺傷できてしまう道具は、やっぱり怖い。
けれど、まだ敵に向けて撃つとは決まってない。本当に撃たなくてはいけない、そうしなくては雪を守れない時にだけ使う為に覚えておく、と司は自分を納得させようとする。
「本当に撃っても大丈夫なんですか? こういうのって警察とかに捕まりませんか? よく銃とか刃物持ってて人が捕まったりするのをテレビで見るんですけど……」
「屋敷内なら音が周りに届きませんし、周りは民家が少ないですから目撃もされません。万が一、目撃されても黙らせますので」
「黙らせるって、どうやってですか?」
司は、間宮の答えに背筋が寒いものを感じた。引き気味で横目で傍らに立つ男を見やる。
「その質問にはどうしてもお答えしなくてはならないでしょうか」
「えっ」
「司様がお心に留めるような事ではございません。手荒な真似はしていませんので。さ、続きをお願いします」
「あ、後で教えてくれますか? 僕、知りたいです」
間宮の冷静でさらりとした言葉に、一瞬流されそうになった司だったが食い下がる。
「はい、分かりました。続きを」
「あっ、はい」
再度、司はしっかり銃把を握りなおす。
……緊張する。……暑い。汗で滑る。
緊張と恐れで手に汗をかく。きちんと握ろうとするのに滑るのだった。もう暖かい季節なので、服の下に着込んでいる防弾ベストも暑かった。
昨日の襲撃で敵が撃ってきた弾が、護衛団の着ていた簡易の繊維型防弾ベストを貫通したのだ。その為、金属プレートの入った防弾ベストになったので、それなりに暑いし重かった。
――二人の周りには、よく刑事もののテレビ番組でたまに見るような射撃場が広がっていた。
しかし実際、テレビ番組で見る敷地よりも司家の射撃場の方が広かった。例えて言うなら、司が通っている高校の体育館よりも一回り程大きい。
司と間宮の他にも離れた所で、射撃の練習をしている黒服の護衛部隊が何人も居る。司と間宮が、ギクシャクした射撃講座を開いているのを、時折心配そうな目で眺めてくるのだった。
更には、一昨日雪が作り出した黒い大きな犬が二頭行儀よく離れた所に座っている。騒がないで司をじっと見詰めていた。
ただでさえ緊張するのに、こんなに見られてちゃ余計緊張する……。
「失礼ですが、司様。それは腰を落としているのか引けているのか、どちらでしょうか?」
間宮が腰の引けている司に、また容赦のない突っ込みを入れる。
司はまた『すみません』と謝って素直に姿勢を直した。
だが、そこで一旦間宮は指導をやめて沈黙し、何回目かになる言葉を繰り返す。
「二回も司様を守りきれなかった私が進言できる事ではないと思いますが、やめませんか。司様のご両親も心配されておりますし、何よりも銃は危険です。短期間では標的に当てる事さえできないかと。司様の婚約者様を『生贄』などと呼び、殺そうとするカルト宗教紛いの輩の為にお手を汚すことは……」
「並大抵の護身術じゃ、銃には勝てないって言ったのは間宮さんですよね? 母さんと父さんなら雪ちゃんを守るためって言って説得したし、危険だという事も分かっています」
いつもなら弱気な司も何回も繰り返された応答に慣れてきていた。銃をサイドテーブルに置き、間宮に断固として反論する。




