34.友宏の長い昔話
司は瞬時に、その時の自分の情けなさを思い出して赤面した。
けれど、友宏が容赦なく昔話をするので、鮮明に思い出していた。
一条院司の友人、橋本友宏は、中学当時には今のように終始笑っているようではなかった。
髪を金髪に染め、ピアスを幾つもつけて、いつも肩肘張ってニコリともしない。周囲の人間に突っかかってばかりいて浮いている人物だった。
司は司で、今と変らず、お人よしでボケボケしていた。その為なのか、すぐに周囲と打ち解けて仲良くなり、平凡な中学生活を送っていた。
そんな友宏と司は同じ中学2年で同じクラスだった。
双方の印象としては、司のほうは、人と群れる事もしないで、自分のしたいファッションを貫いている友宏をカッコイイと思っていた。
一方、友宏の方では、その時の司を人に利用されている可哀想な奴だな、と結構ひどい事を思っていたと後で喋ってくれた。……もちろん、その告白後謝ってくれた。
司は、友宏に声をかけたことは別に自然な事で、そんなに賞賛されるような事ではないと思っている。
でも、友宏は何度でも愉快そうにヒーロー活劇を語るかのごとく、その時の事を語る。
席替えで、席が窓際の前と後ろになった日の昼休み、友宏の後ろの席だった司が声をかけた。
窓枠に寄っかかりながら、焼きそばパンをいかにもまずそうに食べている友宏に、司が柔らかく笑いかける。
その笑顔は人畜無害そうで、突き抜けてお人よしそうで、自分がどうしてそういう風に笑いかけられるのか分からなかった、と友宏は言った。
「橋本の金髪かっこいいね。シルバーアクセサリーとかピアスどこで買ってるの?」
いつものように他の友達と昼ごはんを食べる為に席を移動しないで、自分の席で弁当を広げながら、司が話しかける。
他のクラスメイトは、クラスでも学校内でも浮きまくっている橋本友宏に、気弱そうでどことなく惚けた所のある一条院司が話しかけたのをみて固唾を呑んで見守った。
話しかけられた方の、友宏はといえば、司に話しかけられることなど想定外だったようだ。
目を驚いたように瞬かせ、固まっていた。いつも誰かから話しかけられた時のように『うるせえ』とも『黙れ』とも言わない。
「ピアスってさ、開けるとき痛くなかった? 幾つも開けてるのって凄いよね」
司は、目の前のクラスメイトから返事がないのを不思議に思い、軽く首を傾げて更に笑顔で質問を続ける。
司は前からかっこいいと思っていたクラスメイトに、あれこれその極意を教わろうと、席が後ろと前になったのをきっかけに話しかけたのであった。
当然、他のクラスメイトの反応は眼中になかった。また、友宏の驚きもどうしたんだろう程度にしか考えて居なかった。
実際、他のクラスメイトは、お人よしの一条院司が、いつ『うるせえ!』と怒鳴られて蹴られるかハラハラしてみていた。
だが、事態は思わぬ方向に向かった。
「………………あー、シルバーは渋谷とか辺りで適当に目のついたもん買ってる。ピアスは耳だから痛くねぇよ」
長い沈黙の後、友宏が照れたようにぶっきらぼうに答える。焼きそばパンに勢いよく齧りついた。
「そうなんだ、ピアスも痛くないなら良いね。実は僕、橋本がかっこいいの付けてるの見てさ、僕もリング欲しいなって思って。とりあえず、最初に買うシルバーとして無難なのはどんなのかな?」
「ん…………、クロスモチーフ辺りだろ」
他のクラスメイトの心配を他所に、司と友宏の会話は続いていく。
そして、その後も司は微妙な雰囲気と友宏の怖さなどものともせず、毎日話しかけ続けて、いつの間にか二人は仲の良い友達になっていた。




