3.姫と平凡主人公ご対面
急いで、司が友宏に、遊園地が消えたのを確認しようと口を開く。
だが、その声は大きい悲鳴に遮られた。
「あああぁぁぁー!!」
息を切らしながら歩いてきた同じ高校の制服を着た女の子が声を上げている。
デパートの屋上を指差していた。
女の子の圧倒的な可愛さと悲鳴の大きさに、往来のほとんどの目線が集まっている。
「私の遊園地が消えた! 逃げ込もうと思ってたのに、消えた!」
その女子高生は視線などおかまいなしで叫び続けている。
「遊園地?」「遊園地って何だろう?」「消えたってどういう事?」「私の遊園地って?」
通りに居たデパートの人や通勤、通学途中の人たちが不思議そうな声を上げる。
「なぁ、あの女の子可愛いけど、遊園地って何の事だろうなー。それにウチの高校に、あんな可愛い子居たっけ?」
友宏までもが不思議そうに司に話しかける。
その様子は本当に分ってないようで、司を混乱させた。
「何言ってんだよ。急に現れたり消えたりした遊園地の事だろ」
「へ? イチジョー、何か知ってんの?」
「知ってるも何も、今までトモが僕を記憶喪失扱いしてたじゃないか。前からあるって言ってただろ、遊園地。さっきは」
会話がまたかみ合わなくなった。
司が更に苛立って状況を説明しようすると、
「ちょっと待って。ねぇ、イチジョーくん。今、遊園地が現れたり消えたりしたって言った?」
叫んでいたはずの女の子が、司と友宏の間に割り込んで、司のすぐ目の前に居た。
澄んだ瞳が司をジッと見つめる。
「……う、うん。そうだよ。さっきからその事でトモと話が食い違って困ってるんだ」
そこら辺のアイドルより可愛い顔に見詰められて、司は上手く喋れなかった。
綺麗な薄桃色の唇がリップをたっぷり塗ってあるのか濡れたようにきらめきながら、すぐに司の目の先にある。
男としてドキドキしないほうがおかしいのかもしれない。
司の言葉を聞いて、女の子は何事か考え込んでしまったのか黙る。
司は赤くなりながら見詰め返した。
「ゆう……えん……ちが、あったり消えたり……した……けど……なんだっけ?」
司の頭から、不審な遊園地の事が吹き飛んだ。
それほどまでにその女の子は、桁外れに美しかった。
同じ人間とは思えないほどに、透き通った白い肌に艶やかな黒い髪が肩まで流れている。
黒い宝石のように見える大きな瞳には、吸い込まれそうだった。その瞳を縁取る長い睫と、綺麗な弧を描く眉毛、程よく高い鼻、更にそれに加えて、瑞々しい淡いピンク色の唇が華やかな彩を添えている。
それだけでも十分人を魅了するのに、若木のようにしなやかな体には、制服をモデルのように着こなしていた。
いつの間にか、何もかも忘れて、目の前の女の子を見つめる事が全てになっていた。
いつまでも女の子を見詰められれば良い、それだけを願っていた。
その子は確かに可愛いけど……遅れるぞ、と友人の冷静な突っ込みも耳に入っていない。
「ねぇ、イチジョーくん」
司の目の前でふっくらとした唇が可愛い声を発する。例えていうなら、砂糖菓子みたいに甘い声だった。ぼんやりとした意識の中で、可愛い女の子は声まで可愛いんだ、と納得していた。
「う、うん。何?」
ほとんど無意識で返事を返す。
「名前なんて言うの?」
「一条院司……」
「そう、司。私の顔気に入った?」
「うん」
「私の事、スキ?」
「うん、うん。好きだよ」
司は、もう何を言っているのかも分らないまま、あやつり人形のようにガクガクと何度も頷く。
奇跡みたいに綺麗な女の子を、一秒でも長く見ていたい。それだけだった。
女の子も、司の答えが気に入ったようで、満足そうに頷く。
「私、津川雪っていうの。今、わけのわからない怖い男の人たちに追われているの。助けてくれるでしょ?」
「うん」
「大丈夫。私を助ける道具はあげるから。えっと、司は物凄いお金持ちで、いつもガードマンが十人以上守ってくれてるから大丈夫!」
「えっ?」
どういうことだろう。
さすがに司も我に返る。
津川雪と名乗った女の子に、その言葉の意味を尋ね返そうとした。




