29.守って
間宮が、朝に通話していた携帯電話とは違う、黒いカードのような携帯端末を取り出し、話し始める。
「……私だ。今通ったバイクに乗っていた男が警備をすり抜けて二階まで来ていた。…………そんな事を言っても始まらないだろう。至急追跡してくれ。こちらは警戒態勢に入る」
ごつい指で、荒々しく携帯端末の終話キーが押される。
間宮が、冷静沈着な表情を崩して、多少引きつった顔で通話を終えた。
それでも、あまり表情が変ったようには見えない。
けれども、司には間宮が相当自分を責めているのが見てとれた。
実質的には、朝会ったばかりなのに、そんなにこの人の事が分かるのは、雪ちゃんが僕の為に作り出した人だからなのかもしれない、と司は思う。
「いつもの一条院家の財産を狙う小物だと甘く見ておりました。大変申し訳ございません。これから、司様が宜しければ、警戒態勢に入ります。私がいつものように司様の部屋の近くの部屋に移り、司様の部屋の前には見張りを立てさせて頂きたいのですが、宜しいでしょうか」
流暢に低音で喋る間宮の声を聞きながら、司ははっきりと自分が役立たずだと痛感していた。司が、無い勇気を振り絞って起こした行動は、雪を救えなかった。
結局、雪ちゃんを救ったのは、彼女自身の力と彼女が作り出した存在の間宮さんだった。
自分は役立たずだ、そんな事を考え、司は無力感でどうしようもなくなるのを感じる。
「……えっ、いや、男の人たち行っちゃったみたいですし。もうそこまで僕は、何よりも守って欲しいのは雪……げふっ!」
低姿勢で丁寧に尋ねてくる間宮に対して、すまなさそうに断ろうとする司の脇に、おおっぴらに雪の肘打ちがめり込む。
その衝撃でフラリと司がよろめくのを、間宮が急いで腕を掴んで支えて、何とか倒れこむのは阻止した。
「いやー、私こわーい。司、私たち守ってもらうわよね? 私、しばらく司の部屋に居るから。宜しくお願いします、間宮さん」
にっこり女神の微笑みを浮かべる雪の目は、ちっとも笑っていなかった。額には青筋が立っている。司の周囲の護衛が不自然に薄かったのは、司のこのお人好しというか自分に極端に無頓着なせいだったのだ、と確信したのだろう。




