28.間宮さんと犬
「ごちゃごちゃとうるさい侵入者だな」
男の淡々とした演説が、間宮の断固とした言葉で遮られた。
男の後ろから腕をまわして、拳銃をこめかみに突きつけているので、その落ち着きのある整った顔は見られない。
でも、確かにその低くて渋い声は間宮だった。
「間宮さん」
司は、自分の護衛長の出現で一気に我に返り、目を瞬かせた。
まだ自分に銃口が向いているにも関わらず、一気に力が抜ける。
自分は一体何を訳の分からない事を考えていたのだろう。『生贄』なんて馬鹿馬鹿しい、と現実的な気持ちになった。
大人が来た途端、安堵して力が抜けてしまったヘナチョコの司よりも、雪の行動は的確で早かった。
「司の周りにはいつも守ってくれる犬が二匹いる!」
状況を打開してくれる大人の出現で、いつもの調子を完全に取り戻したらしい。
全く震えていない高い凛とした雪の声が響く。
雪の声が終わるや否や、大型の黒いスマートな犬が二匹出現した。
男に撃たれた弾を避けながら、男の手に飛び掛かる。
一匹が、手に噛み付いて銃を叩き落とし、一匹が素早く落ちた銃を咥える。威嚇の為に吠えもしない無駄のないしなやかな動きだった。
男は形勢が逆転した途端、捕まえようとする間宮の手を鮮やかにすり抜け、窓に走り寄る。
「では、またあなたを処刑しにやってきますよ! 今度は、忘れずに待っていてください」
銃を奪われた男は二階の大きな窓から月明かりの満ちる宙に、身を躍らせた。
派手な音を立て、窓硝子が青白い月明かりにきらめいて散った。
司と雪は、突然の事に動けずにいたが、間宮は、宙に舞い出た男に追撃を喰らわせる、
三人と二匹が、欠けた窓硝子を踏みしめながら、窓に近寄って下を見る。
男は仲間の用意した黒いバイクに飛び乗って走り去る所だった。
更に、間宮や庭に居た一条院家の黒服の護衛部隊が銃を撃ちまくるが、男は銃弾の嵐を見事に掻い潜る。そのまま、黒い鉄柵の大門の間を通り抜けて逃げていった。
「何故、あいつは足の節に当たったのに走れる」




