20.怖いの。一緒に居て
「な、何してるんだよ?」
夜、自分の家の大浴場から部屋に帰ってきた司のテンションは、あるものを見て更に急降下した。
手に持っていた服をバサリと床に落したが、それどころではない。
「何よ、普通美少女がベッドの上で待ってたら、もっと喜ぶもんじゃないの」
お金持ちになって無駄に広くなった司の部屋は、寝室が分かれている。
そこには、毛足の長い豪華な絨毯の上に、どでかいキングサイズの豪奢な絹のベッドがある。一人で寝るには広すぎるだろう。
だからと言って、司は別に親と寝たいなんていう発想が浮かぶほど、小さい子供でもなかった。また、異性と寝たいというような発想が浮かぶほど大人でもなかった。
手触りが滑らかそうなベッドの上に、雪が寝そべっていた。ゆったりとした格好ですらりとした足を組んでいるのが扇情的だ。
別に美少女と寝たくないというわけでもない。
寝たくないというわけでもないが、この展開はおかしすぎる。まだ、目の前の少女とは会って一日なわけで……。いや、待て何を変な方向に考えてるんだ、自分。雪ちゃんは別にそういうわけじゃない。だけど、何でここに。ああっ、雪ちゃんは実に可愛いんだけどっ、と司は服を取り落としたまま、とうとう頭を抱えた。
そんな司の様子を見て、雪は可愛い白い頬を膨らませる。司の反応が相当気に食わないらしい。
「ちょっとそこで、普通悩む? かっわいいフィアンセが一緒に寝ようって待ってるのよ。何よ、喜びなさいよ」
雪は、我侭さをまたもや爆発させて、人に喜びを強要する。
雪が投げたベッドにおいてあった小さいクッションを投げる。
ポスンッ、と司の苦悩する頭に当たって落ちた。
司は、ひとしきりあらゆる事に悩みまくってから、重く溜息をついて顔を上げた。
……時々、というか頻繁に雪ちゃんが何を考えているか分からない。
「何から突っ込みを入れて良いか分からないけど。僕は男で、君は女の子で。そこは僕のベッドで、君と僕は会ってからまだ一日しか経ってなくて。僕は、…………僕は雪ちゃんの事が好きなんだ。雪ちゃんの気持ちは分からないけどさ。僕は会ってまだ一日の女の子と一緒のベッドに寝る事を喜ぶような男だと思われてるの?」
司が問題にしているのは、そこだった。
弾みのように告白してしまったとはいえ、確かにきちんと告白している。真剣に雪へ好意を寄せているのだ。
「あ……ごめんなさい」
雪はベッドの上に視線を彷徨わせ、ぽつりと呟く。
「謝って欲しいわけじゃないんだ。ただ、僕はそういう奴じゃないって信じて欲しい」
「そうだった。司は最初から私をきちんと好きって言ってくれて、守るって言ってくれたものね。……うん、分かった」
雪は、素直に納得したのか、顔を上げる。親を信頼する子供のようにあどけなく微笑んだ。
「……分かってくれて、ありがとう。じゃ、僕は、向こうの部屋で寝るから、おやすみ」
雪の綺麗な笑顔に、司は数瞬ぼーっと見蕩れた後、我に返って人の良さそうな笑みを浮かべる。
寝る挨拶をして、寝室の重厚なドアに手をかけ出て行こうとした。
「待って、一緒寝るのが無理なのは分かったから、せめて一緒の部屋に居て」
「どうして? ……あ」
司は、とっさに疑問を口にしてしまってから気付いた。
命を狙われている女の子なのだ。しかも、自分以外は知らない人たち……怖くないわけが無い。
司の心得たという顔に、雪は軽く頷いて何故か得意げな顔をした。
「私はかよわい女の子で、司は私の事好きで守ってくれるんでしょ」
雪の言葉から、司は自分の想いが今度はきちんと信頼されている事を感じた。胸にじんわり温かいものがこみ上げる。知らずの内に微笑んでいた。




