19.役立たずの僕
時計の音さえも聞こえてくる沈黙を、先に破ったのは雪だった。
「……警察が、私みたいな一般の女の子を、ずっと守ってくれるわけ無いじゃない。……じょ、冗談よ、冗談。本気にした? 司があんまりにも深刻な顔で泣いてるからちょっとからかおうと思っただけよ」
雪は、慌てたように早口でそれだけ喋ると、持っていたティーカップを置いて立ち上がった。
「もうすぐ七時でしょ。私、お腹空いちゃった。先に下りてるから。あ、冗談分からない司がいけないんだからね。ミサイルの始末もよろしく」
「ま、待って。雪ちゃん」
引き止めようと手を伸ばす司の前で、彫刻の入った部屋の扉は大きな音を立てて閉まった。部屋の前から走り去る音がする。
司は、そのまま雪を追うか追うまいか考えて、追わずに、また力なく椅子に座り込んだ。
あまりにも多くのものが自分に圧し掛かってきている、と司は思った。
そこら辺の少年漫画に出てくるヒーローみたいな頼もしい男の子なら、それこそ漫画にでてくるようなとびっきりの美少女である雪ちゃんを守って、命を狙う悪と戦い、勝利を収め、めでたしめでたしなのかもしれない。
武道をやってるわけでもなく、皆をまとめるような力強さもなく、顔もそこまで良い訳ではない。学校の勉強だけはできる、とは自信を持って言えるが、今の状況に役に立つわけではない。
むしろ、雪ちゃんを守るものは、雪ちゃんが自分で(信じ難い事だけど)作り出した、僕の家の財力だ。自分ではなく……。
そこまで、考えて、司は暗い気持ちの中、自分に少しできる事を思い出した。ファンタジーのような能力を司は持っていた。
それでも、最初に雪の力があって初めて効力を発揮するものだけれど。
「仕方ない。僕にできる事は、今これしかないんだ」
テレビのリモコンをのろのろと持ち上げチャンネルを変え始めた。
ミサイルの始末を、自分にしかできないのならしなくてはならないだろう。
……そう司は自分に言い聞かせて、暗い瞳をテレビに向けた。




