14.作戦会議で婚約者ができた
「さぁ、作戦会議よ。お昼も言ったように、私は自分には強い力が使えないの。だから、今まで追われている人たちから逃げ回って疲れたわ。事情が分かって人畜無害の司なら、安全だし、私を匿ってくれるわよね?」
今度は、出された『一条院家お抱えシェフ特製チョコレートケーキ』を食べ始めた雪は、少しお行儀悪くフォークを、向かいに力なく座った司に突きつけた。
金色のフォークが待ったなしにキランと光る。
雪の話している事は、実は作戦会議でもなんでも無しに、ただ単に自分の要求である、という事にはお人よしの司は気付かない。
「ちょ、ちょっと、確かに雪ちゃんの事情は分かったけれど、いきなりそんな!」
司は、気弱そうな悲鳴を上げて両手をあげて降参する。
確かにその弱そうな様子は、人畜無害そうではある。
男として、美少女が側に居ることは歓迎したいが、だからと言って『はい、そうですか』と了承できる問題でもない、と司は思う。
「助けてって言ったら、うん、って言ったのに煮え切らないのね。じゃ、お昼から考えていた方法を試してみようかな。一条院司には津川雪という可愛い婚約者がいて、一緒に屋敷に住んでいる!」
「なっ、雪ちゃん!」
唐突にとんでもない事を宣言した雪に、司が椅子から飛び上がる。
とんでもない事を、目の前の少女以外が言ったのなら、からかうなと真っ赤になって慌てれば済む問題である。
だが、昼に奇跡の業を目の辺りにした司は、雪の事実を告げるような言葉が冗談だとは思えず、赤くなったり青くなったりを繰り返す。
「司が悪いのよ。煮え切らないから」
「そ、そんなー」
そんな二人の緊迫した状況をぶった切るかのように、司の部屋の大きい扉が勢いよく開いた。
「司! 帰ってきたなら、ただいまぐらい言いなさい。それと間宮さんから聞いたけど、雪ちゃんと喧嘩してたんですって? 何度言ったら分かるの。あんたには勿体無いほどの可愛くて気立ての良い子なんだから……あら、雪ちゃん」
司には見慣れた顔である司の母が騒々しく乱入してきて、場の空気が停止する。
母は、場を取り繕うかのように笑って口ごもった。
司は、自分の家が財閥というあり得ない設定になってしまったにも関わらず、いつも通り口やかましい母に少し安心した。
しかし、雪ちゃんがまるで自分のものであるかのような母の発言は、やはり力が効いてしまったのだろうかと、司は思う。
自分の生活は、雪ちゃんにかき回され訳が分からなくなってきている。
その上、更に雪ちゃんが自分の婚約者……まさか……?
「仲良くしているなら良いのよ。ついこの間、婚約披露パーティーも済ませたばかりなんだから仲良くね。お母さん、雪ちゃんには幸せになってもらいたいんだから」
婚約者はさすがにいきすぎだろうと祈る思いで、自分の母を見つめた司の願いはタイミングよく壊される。
自分は、婚約披露パーティーまで開いた設定になったらしい。
「大丈夫です、お義母さま。司くんは優しいですから」
「そぉ? 雪ちゃん、もっと司にびしっと言ってやってね。本当に頼りなくて惚けてるんだから」
雪が、猫を被り、美少女の力を発揮して、儚げで可憐な笑顔を浮かべる。
司は、『司くん』ってなんだ、その自分にがんがん怒鳴っているのは嘘のような微笑はなんだ、と突っ込みたいのをかろうじて抑えた。
自分の母は、例え家が金持ちになろうと心配性の口やかましい人には変わりなかった。
なら、ここで自分が何か言おうものなら、女二人に挟まれての劣勢は目に見えている。
多勢に無勢な少年は、拳をぐっと握って堪えた。
「ただいま、母さん。僕たち、二人で相談したい事があるんだ。夕飯までには終わらすから」
「やっと言ったわね。司も雪ちゃんもお帰りなさい。お母さんだって野暮な事はしないわよ。邪魔者は退散退散。夕飯はビーフシチューよ。七時までには食堂に下りてらっしゃい」
「分かった」
司は、色々突っ込みたい母の台詞を我慢して、引きつった笑顔を浮かべながら、にやにや笑って去っていく母を見送った。




