12.メーリーゴーランド現れたまま
「あ、そうだ。一度消えたものって元に戻るのかな。司に一度あげたものだしね。さ、メリーゴーランドあげる」
雪が、また何も無い空間に手を翳した。
すると、何事もなかったかのように、また豪奢なオルゴールがコンクリの床上に姿を現した。
「やった。一度消えても、また作る事はできるみたいね。こんなことなら、朝に消えた遊園地をその場でまた作っても良かったかも」
「……ところで、このオルゴールは僕がもらうの?」
「そうよ。オルゴール嫌いなの? 可愛いでしょ?」
オルゴールを少し複雑な表情で指差す司に、雪が首を傾げる。
確かにオルゴールは華奢で可愛く、女の子が好きそうに見えた。ここまで、大きく精巧なオルゴールは高そうで滅多に手に入りにくそうだ。
しかし、普通の男子高校生が『あげる』と言われても結構困る代物ではある。
「うーん、雪ちゃんにあげる。雪ちゃんが持ってるほうが似合うよ」
「え、ありがとう! そっか、そういう力の使い方ができるのね。今まで自分には弱い力しか使えなかったけれど、司にあげるという名目なら、何でも出し放題だし、それを司から奪えば……」
自分の思いつきに盛り上がっている雪に、司は溜息を吐いた。
「そういう思いつきは、心の中で言ったほうがいいんじゃないかな? それに、それを聞いたら、あんまり雪ちゃんに協力したくなくなるけど」
「え、そんな。司様ー。後で、札束あげるから私にちょうだい」
雪は甘い声を作って、司にしな垂れかかる。
女の子の体の柔らかい感触に、司は真っ赤になって、雪を押しのけた。
雪の願いは叶えてあげたいけれど、これは叶えてあげてはいけないものだということは司にだって解っていた。
健全な男子高校生たるもの、つい美少女に頼られると頷きたくなる。
だけど、ここは我慢しなくてはならない。
「……却下」
キーンコーンカーンコーン……。
その時、昼休み終了の予鈴が鳴った。
司は、努力して気を取り直し立ち上がり微笑んで、座り込んでいる雪に手を差し伸べる。
その優しそうな微笑は、目の前の少年を利用しようとしていた美少女の心を少なからず動かしたようだった。雪も毒気を抜かれたように、無邪気な微笑を浮かべる。
「ちぇっ、なんだか私が悪者みたいね。仕方ない。また、放課後作戦会議よ!」
司の大きくて暖かい手を握り、雪が勢いよく立ち上がる。
「うん……」
二人は、屋上の入り口まで仲良く手を繋いで歩き、それからゆっくり手を放して、それぞれの教室に戻っていった。




