11.メリードーランドが現れたり消えたり
……しばらくして、雪がゆっくりと顔をあげる。
自分の顔に当てられていたハンカチが、チェックの妙に可愛いものだと気付いたからか少し笑った。
「ありがとう。もう大丈夫。ねぇ、司……お願いがあるの。今から私が、この校舎の屋上にメリーゴーランドを作るから、朝と同じようにしてみて」
「朝と同じにってどういうこと? こんな所にメリーゴーランドなんか作っちゃダメだよ」
司は、泣き止んだ雪からの、唐突な要求に面食らった。
「真面目ね、司は」
顔に泣いた跡があっても美しい少女は、戸惑って赤くなった司に、指を突きつけた。
「良い? 今まで、私の作ったものは、親しか消えた事がない。これは、多分司は関係ないわね。だけど、今日の朝、私が作った遊園地が消えた。現場には私の作った遊園地が、現れた事と消えた事を知っている司が居た。……という事は、遊園地が消えた事には、何か司が関係しているんだと思うの。その仮説を証明してみたいわ。分かった?」
「分かった……と思う」
畳み掛けるような理論を展開しながら、自分に迫ってくる美少女の顔に、司は真っ赤になりながら頷いた。
どうも雪ちゃんの迫力の美貌には慣れない。
司はそんな弱気な事を考えながら、少し後退りする。
「もちろん、私を追っている男達も、私が物を作る力を持っていることは、何故か知っているけれど、今まで物が消える事はなかった」
「うん」
「絶対、司が関係している。さ、司にメリーゴーランドをあげる」
「だから、屋上にメリーゴーランドは……っ」
雪が微笑みながら翳した手の先の空間が、様々な色でできた飴が溶けるように歪んだ。
数瞬のうちに、今まで何もなかった屋上の灰色のコンクリートの上に、両手を広げてようやく抱え込めるくらいの大きさのメリーゴーランドが出現した。
アンティーク調の繊細な細工でできた馬車と一角獣が、甘く心を締め付けられるような綺麗な旋律の音楽にのってゆったりと動いている。
司は、今朝見た遊園地にあるようなメリーゴーランドが出現するのかと思っていた。
だから、拍子抜けするやらやっぱり何も無かった所に物が現れて驚くやらで、震えてしまう手をメリーゴーランドというよりはオルゴールに向かって伸ばした。
「これなら文句ないでしょ」
雪が得意げに胸を張る。
「綺麗だな」
「さ、消してみて。どうやってあの遊園地を消したのか解らないけれど。朝と同じようにしてみて」
事も無げに言う雪に、司はまた面食らう。
「え、朝は僕の前でいきなり消えて……」
「そんなことは解るわよ。説明が甘かったかな。私の物を作り出す力は、私がそう願う事によって起こってる。だから、反対の事は、消えろと願う事によって起こるんじゃないかというのが私の考えよ」
ここまで言えば、解るでしょ? と雪は自信ありげな表情をして、目の前のオルゴールを突っついた。
「そうか。朝、確かに僕は、遊園地の事無かった、って否定した。でも、僕にそんな力が……?」
司は信じられない思いで、目の前のオルゴールを見つめる。
「さ、早く」
「う、うん」
オルゴールは消してしまうのが惜しいほどに、鮮やかにクルクルと回っていた。
それでも、司は『無かった・消えろ』と考える。
可愛い子のお願いならば、男なら誰だって叶えてあげたいものだ。
「このメリーゴーランドは無かった!」
司がそう叫ぶと、今度は空間が歪む事もなく、忽然とメリーゴーランドが消えた。
「やったじゃない!」
雪が、パチパチと嬉しそうに拍手した。
「本当に僕にこんな力が……」
司は、今度は自分の力を信じられない思いで、メリーゴーランドがあったはずのコンクリの床を凝視する。
僕は、普通の男子高校生だったはずなのに……。
……華やかに回っていたメリーゴーランドは、本当に消えてしまった。




