10.姫が強いでも涙
雪が思い出した記憶をぽつぽつと語るのを、司は真面目な顔で頷きながら聞いていた。
「なるほどね。トモの時みたく記憶が変っちゃうなら、小さい頃は気付かなかったのも、当たり前だ」
「こんな御伽噺みたいな話、信じてるの?」
雪が静かに笑った。小さい頃の自分に送るような遠い笑顔で、それは同時に痛々しい笑顔だった。
「否定しても何も始まらないだろう。信じるところから始めてみたいんだ」
「そうね、もっともな意見だわ」
あっさり雪が頷く。
さっきまでの悲しい顔はどこへやら、もうきりっとした凛々しい表情をしていた。
もう過去の事は割り切っているのだろうか、と司は思った。
自分と同年代の女の子なのに親が消えたことを割り切っている……その雪の悲しい強さが、司の胸を強く締め付けた。
「……もう一回、御両親の復活を願ってみた?」
至極もっともな質問を、司が投げかける。
「どうしてか、自分の為には、あまり強い力が使えないのよね。親が消えたままなのから察して欲しいんだけど、願ったのに手ごたえすらなかったわ」
雪が、子供っぽく悔しそうに、親指の爪を軽く噛んだ。
「……御両親の復活については力が使えないのは理不尽だけど……。そんな強大な力を自分の為に使えたら、とんでも無い事が起こりそうだから、制限がかかっているとかかな?」
「制限なんて、横暴よ! これは私の力なのに私の好きなように使えないなんて。自分の為に使えたら、お金持ちになって世界中を豪遊して遊びまわるのに。そして、司を下僕にする法律を作るわ」
雪が、今までの深刻な雰囲気を振り払うように、我侭さを全開にした問題発言をする。
「あはは、なんだか実に君らしい願いだね。しょうがないよ。人は自分だけで生きているわけじゃないし。自分の為だけに生きているわけでもないさ」
司は、おにぎりにパクリと噛み付きながら、どこかの本で読んだのか格言めいた事を口にする。なんだか自分でも良い事言ったなぁ、と満足げな表情をした。
雪が、生意気な口を聞く下僕に、拳骨の一つでもくれてやろうとしたのか、手を伸ばそうとしたが、ハッと動きを止めた。
雪は、呆気に取られたように、宙に上げた握りこぶしを途中で止めた。
「何、今の」
「どうしたの?」
殴られると思って、ガードを固めていた司は、雪がピタリと動作を止めたのに驚く。
雪は手を下ろして両手で顔を覆う。
「……分からない。今の言葉なんだか懐かしくて。変ね、司と会ったのは今日なのに、前にも同じ事言われた気がするの」
雪の美しい黒い目から、後から後から堰を切ったように涙の粒が押し出される。
柔らかい白い頬を涙の筋が横切った。
「ごめん、僕、分ったような事言っちゃって……」
司は、雪の言う『懐かしい』という事はよく分からなかった。
けれど、雪を泣かせてしまったことにオロオロして、ハンカチを動揺から震える手で取り出した。
「ありがと」




