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離別場裏

作者: 菓子パン

また連載扱いのほっぽって、昔書いたものを落とすと。

ねぇ。年明けなのに春の話ですよ。

いえーい脳内お花畑。

まあこのページを開いてしまったみなさん、五分くらい損したと思って是非読んでください。

やっぱり読まれるのは嬉しいので。

 春は晴れやかな季節なのでは無かったのか。それならば、私の内からくるこの気持ちはなんなのか。(とど)めておかねばならない、しかし、止めておきたくない。そんな気持ち。

 私は、もうすぐこの学校を離れなければいけない身。卒業。この晴れやかにして悲しくもある言葉。さりとて私の胸にあるのは、焦燥に、情炎。決してこれは、晴れやかさでも悲しみでもない。

 だけど、もう二月の終わりも近い。それなのに、今の私は焦るだけ焦っているのに、自らの心をどうにかしようとはしていない――――


 私がこの気持ちを持ち始めたのは、いつの頃だろうか。多分、今年のはじめ。また春の話だったか――――

 

 私がその人を見つけたのは、なんのことはない、新学期の、あの独特のフワフワした感じに包まれながら、皆が、クラス分けなんかに一喜一憂したり、やれ自分の席がどうだの、とか、そんなさなか、登校した時、校門のところにある、桜の木の下にいた、彼女を見つけた。その時に、綺麗な人だ、と思った。その時はとても話しかけるような時間も、勇気もなかったが。


 それから少しして、部活の勧誘期間が始まって、それに乗じて私はその子に話しかけるとが出来た。


 ちょっとだけ暖かくなってきて、わいわい勧誘するのにいい感じの気温だなぁ、と思いつつ、私も勧誘の用意をしようと、部室から部誌を引っ張ってきて、一応の決められたところについた。私ひとりしかいないような零細部活動であっても、ゆるやかなこの学校は取り潰したりしない。それがいいのかわからないが、少なくとも活動はしているし、新人獲得にも乗り気なので、潰されなくてほっとしている。ポチポチと人も来てくれているようだし、今年は何人か入ってくれそうかなぁ。なんて思いながらぼちぼち宣伝をしていた。

 そうして何事もなく、時間が過ぎる中で、あの時の彼女が私のところへ来た。

「あの、ここは一体何をする場所なのですか?」

そう問いかけてくる彼女。やっぱり綺麗で、でもただ綺麗と云うより、私の心の内から、「そばにいたい」と強烈に思わせるような、そんな綺麗さで、私はつい見蕩れてしまっていて――――

「あの、どうかしましたか?」

「……ああ! いえ、なんでもないです」

 ――――質問に答える、というより反応すること自体遅れてしまった。

「この部活はですね……」

 そうして部活の説明をひとしきりして、それで話は終わった。

 情けないことに、この日、この説明だけで、私は確かに充実感を覚えていた。


 勧誘の期間もそろそろ終わりかな……と、いった時期にきて、私のいる部に来てくれたのは、なんと彼女一人だけだった。他の人も、活動についてわりかし熱心に聞いてくれていたが、それでも他にいいところを見つけてしまったらしい。仕方のないことなのだが、少し残念だった。だが、それはそれとして、私の内心は小躍りしていた。あの彼女と二人の部活になる、となんともひどい理由だが、都合のいいことはそのままにしてしまう性質たちなのだ、私は。

 その内心は悟られないようにしつつ、彼女に改めて部の説明をする。彼女は、前に話したものと殆ど変わらない説明を、それでも熱心に聞いてくれた。性格もとてもよいではないか。

 彼女に惹きつけられるピースがまた一つ増えたようだった。


 私のいる部は、特段毎日来てああしろ、こうしろ。といった強制的なものは少ない。自分のペースで少しづつ部の活動をしていけばいいので、部には来なくても問題ない。が、私は心が落ち着くのでよく来ていた。別に部室で自分の作業をしても問題はない。そこに、彼女もよく来ていた。毎日来ては、私の話に付き合ってくれたり、私に活動についてのアドバイスを求めてきたりした。私としては、もう、万々歳である。彼女と長く触れ合えるなど、極上の時間にほかならなかった。何度か「よくここに来るけどどうして?」と聞くと、その度「楽しいからです」や「もっと頑張ってみたいのです」みたいな、可愛い台詞を聞かせてくれた。

 綺麗で、可愛い。そんな彼女がこの部に入ってくれて、私の幸福度のようなものは、今までにないくらい、幸せへと伸びていった。


 その幸福度の伸びも、九月限りまでだった。七月にはもう三年生は部を引退し、大学や、就職に向けて勉強に集中する期間に入るのだが、それでも夏休み中は顔を出していた。顔を出すといっても、彼女しかいないのだから、単に会って話したかっただけだが。しかし、それも九月になると、流石に間に合わなくなりそうで、私が部に顔を出す頻度はだんだんと落ちていった。それでも、落ちていたが、顔は出していた。こんなことしてる暇はないと思いながら。焦燥の念で心が埋め尽くされそうで、なにもしなくても胃をキリキリと締め上げられるような痛みを、毎日のように感じていて、それでも彼女と過ごす時間を求めて、部へと来ていた。初めのうちは、彼女に会う時間は安らぎの時間だった。だがそれも、途中から「彼女に会いたい」のではなく「彼女に会って一緒にいれば、安らげるはず」といった、歪んだ強迫観念に縛られてきて、そんな状態で、本当に安らぐことが出来るはずもなく、九月末には、彼女と会う時間は「無駄だ」という焦りに飲み込まれていった。


 十月の中旬には、こんな私の状態を察してくれたのか、それとも嫌気がさしたのかわからないが、彼女は私と距離を置き始めた。


 十一月頃には、廊下とかで会っても、すれ違いざまに「やあ」「どうも」と言い合って、終わるだけのようになっていた。


 それから、無味乾燥な日々を送っていたら、気づけば年末も近づいてきていた。ずっと、勉強しっぱなしだっだし、お正月はゆっくり過ごそうかと決めて、それなら彼女に年賀状でも送ろうと思って、年賀はがきを買ってきた。

 そんな飾り立てるでもなく、明けましておめでとう、とだけ。他の言葉は、思いつかなかった。

 めでたく年が明けて、はじめの朝、年賀状は届いているだろうかと、ぼんやり思いながら、郵便受けを見たら、そこには、彼女からの年賀状があった――――

『明けましておめでとうございます。体の方は大丈夫でしょうか? あまり根を詰めすぎていると、逆に大変なことになってしまいます。心配です。でも、志望大学目指して頑張ってください! あ、やっていないのはダメですよ? それでは、また学校で。』

 ――――私は、私は! 九月から何をしてきたのだろうか!? 今、私は、この一通の年賀状で、生き返った! 私の中に潤いを、充実を感じさせてくれた。

なにより、彼女が距離を置いたのは、ただ私を気遣ってくれただけなのかと思うと、私は嬉しくてたまらなかった。

 年賀状を送りなおすわけにもいかないので、私は彼女にメールを送った。


 センター試験を無事に終え、私はまた部室に来ていた。勿論、彼女に会うために。そこに、彼女は以前とかわらずいた。また、あの空間に戻れて、あの時止まった私の幸福度が、また伸びた気がした。相変わらずの他愛もない会話を楽しんで、次は二次試験か、と思った。前と違って、焦燥の念など欠片も見当たらなかった。


 二次試験を終えてからは、私は暇な学生Xになり、もう焦らなくて済むなぁ、なんて、ポカポカしながら、彼女と部室で話して終える毎日を送っていた。いつまでもこの時間が続けばいいのに……そうも思いながら。

 日を追うごとに、私の中にある焦りは、どんどん大きくなっていた。彼女とは毎日楽しく話せている。でも、私の胸の内は、彼女に明かしていない。臆病者だ、私は。彼女は、私を慕ってくれている。だが、それは、よい「先輩」としてだ。そうであっても、彼女と話せることに変わりはないのだ。だから、私は、この関係から踏み込んで、よもや壊れてしまうことを恐れているのだ。それなのに、迫り来る「卒業」という離別は嫌だと、そう思っているのだ。なんて我が儘なのだろう。


 だが、時間の流れは残酷で、この、苦虫を心に飼い続けているような、気持ちの悪い状態から抜け出すことは出来ないでいるまま、卒業の時が来てしまった。


 卒業の日。空は、私にとって、憎々しいほどの青空で、暖かくて、早咲きの桜が満開になっていて――――

 これ以上なく、晴れ舞台に相応しい日。私の心は生憎の大嵐だというのに、なんて羨ましいことか。

 天気に羨ましさを感じても、式には何も感じない。早く終われと願っても、どうにも長くてやっていられない。私はこんなことをしている場合ではないのだ。大嵐に火炎が混ざり、今にも、私の心は散り散りになりそうだ。何をこう長く話すことがあるのだ。

 そう悪態をつき続けていたら、気づけば式は終わりになっていた。

 卒業生たちが退場して、それから在校生も退場する。そのあとはもう自由だ。私は、部室へと走る。だが、そこに彼女の姿はない。ならどこだ。どこにいるんだ。何から何までぐちゃぐちゃに混ざって、わけがわからなくなる。わからなくなっても、走る。彼女を探す。

 走って走って、ようやく、彼女を見つける。何の因果か、彼女を最初に見つけた、あの桜の木ノ下に。

「ここにいたのか」

 そこから私は、卒業してしまうが――――、来年からは――――、なんて、部活に絡めた話をしている。最後になるかもしれない彼女を前にして出した話がそれか。臆病ここに極まれりだ。もう会えないかもしれないのに、そんなときなのに、私は、何をしているんだろう。

「あと、顧問の先生も――――、ぅお!?」

 また部活の話をしようと話し出すと、彼女が突然、私の話を遮って、私を抱きしめてきた。そして、怒っているような、泣きそうなような顔で言う。

「先輩は、なんでいつもなにか遠慮したみたいに喋るんですか? いつも楽しいけれど、先輩はそうじゃなくて、どこか、なにかを隠しているような表情に、時々なって! 今も! ずっと当たり障りのないことばかり! なんでですか!」

 なんでなんですか……彼女は泣きそうになりながら続ける。

「私が後輩だからですか? だから遠慮してるんですか?」

「そんなことはない。私は後輩だからって遠慮は――――」

「じゃあ!」

またも私の話を遮る。そして、止まらない。

「私に遠慮なんかしないで、本音を見せてくださいよ! 我が儘の一つや二つ私に言ってくださいよ!」

 彼女の激情を身に受けて、私の思考は固まり気味だ。もう、なにを言えばいいのか、わからない。

 でも、私の口は動き出そうとしている。なら、考えるのはやめだ。それに身を任せてしまおう。

「……我が儘を言っていいかい?」

「はい。先輩の我が儘の一つや二つ、後輩は聞くものですよ」

 彼女はとても嬉しそうにそう答えた。

 なら、大丈夫だろう。私が今から言おうとしている言葉に迷いは、もう無い。


「私は、あなたと離れたくありません。ずっとあなたのそばにいたいのです。だから――――」

 頭どころか、口までふわふわしてきた。でも、言い切ってみせる。

「――――ずっと私のそばにいてくれませんか?」

「――――はい!」


 大いなる離別の場の裏で、私の春は、やっと訪れたようだ。だって、今は、こんなにも晴れやかなのだから――――

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