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エピローグ

 目が覚めたのは、一週間後だった。

 ゴールデンウィークが入ったので実質学校を休んだのは二日だったが、……また遅れたな……勉強……。


「別にそんな気にする程の事でもないだろう。魔導騎士になるんだから」

「それが教師の台詞ですか」


 起きたとはいえまだ治療室から出る許可は出ていない。これからまだ検査や何や、色々ある。

 アストラルの自分がどれだけ傷付いてたか、しっかり見てしまったから異論はないけどな。


「教官としては正しいだろう」

「なれるって決まってる訳じゃないんで」

「何を言ってる。一年一学期のこの時期に、本当に第二形態まで行った奴が。『オーディン』と並んで最速記録だぞ」


 そう……そう、なのか。そりゃまぁ、すごい……よな? うん。


「そしてA・Aをアッシャーに具現化させたのも、オーディンに続いてお前が二人目だ。期待されない方がおかしいと思え」

「……二度とやりたくないですね」

「その台詞もオーディンと一緒だ」


 そりゃそうだ。自分の存在が世界に溶けてくんだぞ。

 万全の時は自身の魔力で抗えるが、存在を表にしてるだけで魔力壁削られるんだ。

 毒を受けながら戦ってるようなものだぞ? ……それにもし、魔力壁を失うまでに倒せなかったら……。いや、考えるのは止めよう。


 しかしつくづく、思った。人間の『存在』ってのは強いもんなんだな。

 いや、人間というより『生きてる』って事がか。


「やりたくない、という事はできる、という事だな?」

「分かりません」


 今は意識を向けても、海の中にいる『俺』と重ならない。だから今やって見せろと言われても、無理だ。


「……今は視えない」

「そうか」


 ……もしやこの答えも同じだったか? あっさりと吉川は頷いた。


「分かった。私の話は以上だ。――事務的な部分は」


 ? 何か含んだ言い方だな。


「椎堂」

「はい」

「これは教官として言うべき台詞ではない。なぜなら私もお前も軍人だからだ。例えお前が不服で、強制的にやらされているのだとしてもだ。軍人であれば、誰かを守るために切り捨てる事がある。切り捨てられる事がある」

「はい」


 うなずいた俺に、吉川の方が言葉をためらい瞳を揺らして――頭を下げた。


「すまなかった。そして、ありがとう」

「はい」


 否定するべき所は何もない。むしろ少し嬉しかったから、多分表情が緩んだのだろう、吉川が不思議そうな顔をした。


「それだけか? 怒りはないのか。切り捨てられた」

「軍人ですから。――ってのは嘘です。女性がそういう覚悟して戦ってんのに、俺が言うのもどうかと思うし、まして先生は本当に残ってますし」


 自分で選んでだろうが、吉川は自らも切り捨てられる側になった。あの場に残った教師達は全員だ。


「私が残るのと、自分が切り捨てられるのは別問題だろう」

「でも理解はできます」


 吉川は覚悟を持って俺を切り捨てた。だったら言える事は何もない。


「それに、わざわざそんな事を言うんだから気にしてるんですよね?」


 だからいいって訳じゃない。しかし、仕方ないだろう。

 仕方ない中で気にしてくれた。当然にしないでくれた。それが最大の気遣いで、彼女は俺にそれをくれたのだ。


「……っ……」


 少しだけ頬を染め、照れを隠す様に吉川は咳払いをして腕を組む。


「それだけ余裕のある事が言えるなら大丈夫だな。私からの話は終わりだ。――で、A・Fが見舞いを求めてるが、どうする? 時間は区切るが、会いたいなら会っていい」

「あ、はい。会います」


 即答して俺はうなずく。そりゃ会いたいだろう。


「分かった。じゃあ、二十分だ」

「はい」


 パシュ、と個室の扉が開いて、待っていたらしいあやめ達が立ち上がった。吉川と二、三言話してから、中に入って来る。


「良かった。大丈夫そうね」

「あぁ。ま、さすがに今回は俺も少し休みたいと思ってるけどな」

「ゆっくり休むといい。それが許される事をお前は十分やったんだ」

「そうする。……ところで、その、悪いんだが」

「何?」


 実際に日常生活に戻れるまで、まだしばらく掛かるだろう。

 ノートは晴人に頼むとして(あいつはマメだからノートもきっちりしてるし綺麗なんだ)、でもノートだけ見て分かるんならそもそも教師なんかいらねえだろ。


「ここから出るまで、勉強教えてくれると助かる」

「お安いご用よ。喜んで」


 A・Fとしてだけでなく、普通に学生としてもトップクラスの才女達は、笑って快く引き受けてくれた。


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