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3-5

「そういやアレだ、聞いたか?」

「何が」


 復帰してから、数日後。

 魔導騎士養成のための訓練室のうちの一つで、基礎体力作りのトレーニング中に、隣の晴人から声を掛けられた。


 武器の扱いに関しては、各自バラバラになってしまうので専門ごとに別れるのだが、基礎訓練に関してA・Aは全員同じである。一学年六クラス・十五人全員合同だ。


 ……つーかまだ入学から一ヶ月経ってないのに、三人減ってんだけど。

 集中しろと言われそうな気もするが、一時間ずっと黙りっぱなしも退屈になってきたところだ。ベンチプレスで体は訓練中だが口は空いている。


「デュラハン討伐終わったってさ」


 A・Aがジンの人間の傾向に漏れず、晴人も社交的で話し上手、聞き上手で人付き合いが上手かった。

 俺も別に苦手意識はないけど、晴人程上手く溶け込める自信はない。


 そして社交的に故に、情報が早い。

 なので校内の有名なネタは最近ほとんどど晴人から聞くようになっていた俺は、特に何も考えずにいつも通りの相槌を打って先を聞いて――言われた言葉に少し驚いた。


「そりゃ良かったけど……デュラハンだったのか?」


 形を崩して融合してたから、てっきり違うものになったと思ったんだが。


「らしいぜ。でも、片付いて良かったよな。こっちに具現化されたら、ここ爆心地になっちまうもんなー」

「そうだな」


 放置でもっと育たれるような事にならなくて、本当に良かった。


「アストラル移行も解禁だってさ。実戦再開だな」

「そっちは特に嬉しくない様な、どっちにしろやらなきゃならねェから良かったような。微妙だ」

「そだな」


 苦笑して、晴人もうなずいた。


 A・AにしてもA・Fにしても、自分の意志でアストラルに行けるし(A・Fも行こうとすれば行ける)、それを他人が止める手立てもないので、見つかりさえしなければバレる事もないのだが、両方共法律で禁じられている。


 理由は危ないから。

 言われんでも分かってるわ。


「……つーか、アレな。学校内の訓練つっても結構トラブルっつーか……予想外が起こるのな」

「訓練っつっても実戦だからな」


 アストラル自体もまだ研究中だし、訓練だからと何らかの防御策を取れるほどに魔導騎士もいない。すでに発見されている黒月の雫討伐で手一杯らしい。

 そういうの聞くと、普通に就職先として嫌だよな。仕方ないとはいえ。


「空気が重いのもそのせいか」

「だろーなー」


 A・Aを以ってアストラルに降りて戦うようになって、一ヶ月弱。

 それぞれ何らかの危険に見舞われてもおかしくない。


「魔導騎士って英雄譚っつーの? そういう所のが強調されるからさ、分かってるけど実際にやってみると違うし、やっぱ」


 高校に入るまで、男は一切アストラルでの訓練はされない。

 精神面が未熟な内からアストラルで戦うのは、ただA・Aを弱体化させるだけだろうという判断からだ。


 だが高校に入っていきなりな実戦投入も、結構きつい。

 いや、カリキュラム自体には無理はないんだ。ゴブリンから始まるし。

 ただ予定外が多いだけで。


 数が少ないからA・Aの退学の方が目立つが、A・Fだってこの時点で一年は結構辞めていっている。

俺達のクラスも、すで二人いない。


「どっちがいいかっつーと迷いどころだけどな」


 覚悟をさせていた方がいいのか、ある程度誤魔化して投入した方がいいのか。

 どっちにしたって最低限心構えは教えられるわけだから、最終的には個人の質なんだろうが。


「余裕そうだな、椎堂、久坂。後十キロぐらい増やしておくか?」

「うわ!」


 話に集中していたせいで、死角から近付く吉川に全く気がつかなかった。

 他の生徒に掛かりきりで付いてて安心してたから、本気でびっくりした。


「いえいえいえ! 十キロは辛いです!」

「まぁそうだな」


 慌てて拒否して首を横に振った晴人の身体つきを見て、あっさり吉川はうなずいた。

 痛いぞ、今の。心が。晴人もちょっとヘコんでるし。


「お前は魔術適性の方がメインだし、弓を扱うのにもそう筋力は必要ないからまぁ良いとして、椎堂、お前は両手一キロずつ負荷増やすぞ」

「……はい」


 近接戦の宿命だな。

 A・Aは精神力の具現だから、まま肉体的な数値が反映されるわけじゃないが、自分のできない事をイメージするのはかなり難しい。


 俺超足早い! とか心の底から思っていても、じゃあ足が速い時の体の動きはどうなる? となると全く分からない訳で、結局A・Aにも反映されない。


 だからA・Aの基礎能力値は実際の肉体より、想像できるちょい上ぐらいが限界だ。

 もっと鍛えて、その先をしっかりイメージできるようになればまた違うんだろうが、今の俺達には無理。


「ところで、椎堂」


 両手一キロずつ、いきなり二キロ増は中々手応えがある。まだ行けなくないから大丈夫だと思うが。


「はい」

「A・Aに変化はないか?」


 続いて吉川からされた質問は、ちょっと予想外の物だった。


「変化ですか? 特には」


 弱体化もしてないし、大きく特性が変わったわけでもない。

 特に思い付く事はないので首を横に振る。


 経験と慣れの分多少基本能力は上がってるが、そういう事ではないだろう。


 ちなみにこの基本能力値、本当に数字が出る。

 黒月の雫に攻撃を当てた時の衝撃を数値化するのだ。この数値測定に使われるのはゴブリンである。


 一口にゴブリンといっても、個体で微妙に強さが変わるので正確かと言われればそうではない。しかしほぼ正確ではある。

 どうせ戦闘中は数字通りにはいかないのだ。その程度の誤差、あってもなくても大した違いはない。


「……そうか」


 腕を組み、少し考える様に言った吉川に不安が過る。


「変化って、何か変化しないとおかしいんですか?」

「お前のイフリートの能力値があれば、もう第二形態になってもおかしくはない」

「そう、ですか?」


 第二形態は早い奴なら一年後半から、普通で二年の半ばからぐらいで進化するらしい。

 そこまでは学生の内からわりと順調だが、第三形態にまで進化するA・Aは稀だという話も聞いた。

 国の魔導騎士の構成も七、八割方は第二形態のままだという。


 卒業時にもまだ第一形態のままだと、本当の露払いしかできないので準魔導騎士、みたいな扱いになるが、第二形態まで行ければ十分な優遇で迎えられる。

 俺もその辺りは目指したい。


「この間の対デュラハンとの数値からだから正確ではないが、デュラハンを斬っているんだ。それだけの力があるのに違いはない」


 凉と葉崎(はざき)に助けられての結果なので、俺が、と言うより二人が優秀なんだと思うんだが、吉川が言うならそうなんだろう。


 ……第二形態、か。


「A・Aは本人の意識で形成される。お前はもう第二形態になれる。その事を常に意識しておけ」

「はい」


 意識しろっつわれても、全くイメージないんだけどな。


 何だろう、やっぱり火系か? それとも何か属性は無分別っぽいから、重要な方はドラゴン系統なのか?

 俺の表情からそれを読み取ったのか、吉川は顎に手を当ててふむ、と呟き。


「何なら図書館に行ってみろ。各種の特性が今の教科書よりも詳しく載っている本が色々ある」


 何分覚える事が多いので(主に魔術な)、魔高の教科書は学期毎に変わる。

 電話帳みたいな重さのやつと一年付き合うよりは、分けた方が心情的にも取っつきやすいだろう、という事だ。


 持ち歩く楽さと引き換えに、冊数が増えて管理が大変になる。


「あまりイフリートである事に拘らなくていい。とりあえず知って、指針にするぐらいのつもりでな。だができれば前衛属性は崩すなよ」

「……はい」


 強くなればそれだけ安全になるし、今日早速行ってみるか。

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