3-4
寮の部屋に戻って来たのは、結構門限ギリギリだった。
結局、近場でカラオケしただけだけどな。授業終わってからの学生の時間なんてそんなもんだ。
まして魔高は通常の一般科目プラスで戦闘訓練がある訳で、時間の融通の利かなさは余計に増える。
入学してからこっち、メガフロート内に色々施設はあるのは知っていたが、遊んではいなかった。
時間と体力に余裕がなかったのもそうだが、やっぱり緊張してたんだろうとも思う。
付き合ってではあるけど、気も抜けてきたって事だろうな。
部屋に戻って着替えて一息ついて、メールを返した。
っつか気が付かなかったけど凉からも来てた。マメだな。女子だからか。
文面を読む限り、二人とも大丈夫そうで良かったが。
風呂に入るかダラダラ過ごすか、俺が少しばかり悩んでいた数分後に、再び携帯が鳴った。電話の方だ。
(うわ)
本当折り返しかかって来たし! 凄いな、愛希さん。
「はい」
『蒼司? 時和だけど、今、いい?』
「あぁ。別に大丈夫だけど、何だ?」
A・F間で通じる言うべき何かがあるって線もあるか。愛希さんが分かってたのもそれならうなずけるし。
『何かって程ではないんだけれど、私が抜けた後も傷を負っていたでしょう? 昨日も休んでいたし、だから……』
A・F単体で降りてくるのは馬鹿な事この上ないが、意識だけを合わせて視る事はできる。戻った後、間違いなく治療を厳命されただろうに……気にしてくれてたのか。
「問題なかった。ありがう」
『そう』
問題ない事は聞いたか何かして知っていたのだろう、あやめの声はほっとはしていたが、分かっていた事を確認しただけの冷静さもあった。
「……」
『……』
そしてしばし互いに、無言。
……何でだ。
「あやめ?」
『あ、な、何?』
「いや、用がそれだけなら」
電波と料金勿体ないから――と、俺が会話を切ろうとすると。
『あ、ま、待って』
少し慌てたように、ストップをかけられる。心なしか声も緊張しているような気もした。
「?」
『今度、二人で遊びに行きましょう?』
「――」
言われた言葉に、ざわりと嫌な感情が湧き上がる。
義務としては必要な誘いだ。前にあやめとはそんな話もした。
けれど即答できなかったのは、あやめに感じた義務以上の意図に、怒りに近い物が胸に湧いたから。
『……嫌?』
空気が伝わってしまったか、あやめの声に不安が滲む。まずい。
「じゃねえけど、皆で、の方が良くないか」
俺の勝手な葛藤は、あやめには関係ない。
その気もないから期待なんか持たせないが、A・Fのメンバーもほぼ確定だし、皆で友好深めるのは効率的だ。
俺の義務としての提案としてしか受け取らない意志は、これで伝わってくれるだろう。
『……』
「……あやめ?」
無言だが、空気で分かる。不機嫌な沈黙だ。
『……いいわ。皆でね』
「あ、あぁ」
……声が。声が怖いんだが。何でだ。理不尽だろ。
『蒼司、貴方今まで付き合った事、ある?』
「な、何だいきなり」
『良いから』
言われて、俺はためらった。
――ない訳じゃない、一応。
「ある」
……アレを付き合ったってカウントするなら、だけどな。
正直、傍から見ると数えていいかどうか割れるところだろうが、俺にとってはカウント一だ。彼女との経験のおかげで学んだ事も色々あるから、なかった事にはしない。自戒のために。
仮にでも彼女と呼べる相手は一人だけだったが、それでも告白は結構されたんだ。絶対数のせいだが。
そう、ただの、数のせいで、俺が魔導騎士候補だから。
気持ちがある訳じゃ、ねえ。
今は俺が魔高に入って彼女は落ちてしまったから、それきり完全に縁も切れて、正直ホッとしている。
『……何で分からないのかしら』
聞かせるつもりがあったのかどうか。抑えて呟かれたあやめの言葉を、きっちり俺の耳は拾ってしまっていた。
……分からない訳じゃ、ねえよ。
でもそっちも正式に言ってきた訳じゃないんだから、何も聞いてないのに俺から断るのも違うだろ。
こうして誘いを避けてんのって、遠回しな断りにならないのか?
「皆とだと不満か? 人見知りする感じじゃないよな?」
『そういう事じゃないのよ。ただ……。いえ、いいわ。じゃあ、またね』
「あぁ」
結構分かりやすく、繋げやすく振ったつもりだったんだが、あやめが言わないならまあ、別にいい。
……別に俺だって、断るのに良い気はしない。
…………。
やっぱり風呂入ってきて、さっぱりしたら今日は寝よう。