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3-3

(――っと)


 服の内側で携帯がバイブして着信を告げる。メールだ。

 気分を逸らすのにも丁度良くて、ほっとする。


(あやめか)


 用件は俺の体調を気遣ったものだった。昨日休んでもいるし、そのせいだろう。晴人と遊んでただけだけどな。


「そう言えば浦賀先輩は……大丈夫みたいですけど、大丈夫、ですか?」


 あやめや凉も勿論だが、浦賀先輩も最初から最後までリンクしてた。貫通した時も勿論。

 外傷は目に付く所にはないし、動きにも不自然なところはないんだが、精神面の方も大丈夫だっただろうか。


 吉川には大丈夫だったって言われてるけど、一応な。

 何かあっても、俺には隠されそうな気がしなくはないし。


「大丈夫よ。全然とは言わないけど、君ほどじゃないわ。アストラルでの身体はA・Aのものだし、そのせいでしょうね」


 そう答えながら、携帯を持つ俺の手に、そっと浦賀先輩は手を重ねた。


「っ!?」


 繊細で柔らかな、女の、手。いきなり触れた肌の温かさにぎくりとする。


「ごめんなさい」

「な、何がッ!?」

「戦えるのはA・Aだけだから」


 思い切り動揺した声を上げてしまった俺だが、続く浦賀先輩の言葉にはっとする。余計な事を考えたのが恥ずかしくなる真摯さだった。


「そんな事ねェだろ。A・FがいなきゃA・Aだって大した事できないんだから」

「そう言ってくれるのね。……ありがとう」


 事実でしかない俺の言葉に感謝の言葉を述べて、少しだけ強く彼女は俺の手を握った。


「一緒に戦いましょう。できる限り貴方が傷付かないように……私の持てる意志力の全てで、私が貴方を守ります」

「……あぁ」


 そう、共に――だ。A・AとA・Fはリンクしている以上、一蓮托生。


「俺もA・Fを傷付けなくてすむように頑張るよ」


 主に戦闘技術と魔術詠唱な。


「うん。頑張ろう」


 世界のためだったり国のためだったり。

 一個人である俺は流されてここにいるわけだが、こうして隣にいる人の温かさを守るためら、『頑張る』事ができる気がした。


「ところで蒼司君」

「はい?」

「いつまで携帯見てるのかな? メール越しの会話じゃないと気詰まりするタイプ?」

「いや、そういうんじゃないですけど、心配してくれてるみたいだから、あやめに返信しとこうかなと」

「んー……」


 俺がメールを打つ手を、少し困ったように見詰めていた浦賀先輩は、おもむろに手を伸ばして来て。


「えい」

「あッ!?」


 いきなり、取り上げられた。


「あの、先輩?」

「あやめちゃんはね、今返信すると、多分折り返しで電話かかって来ると思うの」

「?」


 何で言い切れる? いや、多分ってついてるけど、明らかに自信持ってる言い方だったよな。なぜ?


「メールは帰ってから見た事にして、今日は私に付き合って欲しいな?」

「付き合うって、コレですよね?」


 食べ終わったクレープの紙を丸めつつゴミ箱を探す。これは口実ではあるが、本題の方もこれの最中に終わっている。


「用事はね。用事がないと付き合ってくれない?」

「そ、そんな事はないですけど」


 俺と浦賀先輩の関係なら、付き合う事そのものが用事だと言ってもいい。


「あやめちゃんの態度を見るに、蒼司君彼女はいないよね」

「い、いません、けど。態度って? ってかんな話すんですか!?」

「してないよ。でも分かるでしょ?」


 分からねーよっ!?


 彼氏がいるとかいないとか、言われるなりばっちり相手を見るなり、そういうのがないと分かる訳ないだろうが!


 分かる人もいるけど、それは言いたい人だから。

 あやめや凉に彼氏ができても、俺言われないと気付かないと思うぞ!

 いるのかいないのかも今も知らないし、興味もない。


 女の場合、A・Aである俺に声をかけて来てるからって、フリーだとは思わない方がいい。比べて値踏みされてる可能性もある。

 そんな風に見るのが失礼だ、と言う女もいるだろうけど、それはそういう事をする奴を少なくしてから言ってくれ。


「蒼司君」

「はいッ!?」


 ってか、近い! 今更だけどベンチの幅狭い!

 今まで気にもならなかったけど結構傍で体温感じる!!


「私の名前知ってる?」

「え、は、はい」


 脈絡は分からなかったが、問われた内容に正直にうなずく。

 そりゃ知ってるだろ。流石にA・Fになる人の顔と名前ぐらい、二日目からでも間違えないように覚えるわ。


「ん?」


 何かを期待して俺を促す浦賀先輩。言えって事か。


「あ、愛希(あき)、さん」

「うん。そう」


 間違えなかった俺の回答に、愛希さんはにっこりと微笑んだ。


「あの、浦」

「愛希、だよ?」


 う。

 笑ってるけど、えも言われぬ迫力を感じる。


「……愛希さん」


 さんは取れない。この人からさんは取れない。何となく。

 ちょっと不満そうに小首を傾げて見せたが、どうやら妥協してくれたらしくうなずいて。


「うん、じゃあ行こうか。蒼司君はインドア派かなアウトドア派かな」

「……どっちでも」


 ……何だろう。逆らえない気がすんですけど。物凄く。

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